サラシバ


11話 水の底から


 私と志摩廉造は、会ってはならないはずだった。
 未知の力を、悪魔の力を借りようとした時に、私は異界への扉を開いてしまったのか。
 愛してなどいない、裏切られた覚えもない。私は私、彼は彼。
 私が愛したのは、思い出と後悔、そして幻想。彼じゃない。私の愛しいもの、それは私。
 鏡は写した。私の真実の姿を。恨みがましく、水の底から地上を睨む、おぞましい姿を。暗闇も、あの双眸も、全て私自身なのだ。

 足がほしい、尾ひれではなく、あの人の元へ駈ける為の足が。
 腕がほしい、胸びれではなく、あの人を抱きしめる為の腕が。
 柔らかな肌がほしい、鱗ではなく、あの人に触れてもらう為の柔らかな肌が。

 真っ暗な水底で、水の乙女は、醜い姿で美しく嘆く。
 しかし、嘆くばかりでは何も手に入らない。魔女の薬を飲み干して、人の身体と魂を手に入れよう。例え声を失っても、例え悲劇に終わるとしても。
 魔女の薬を飲み干して、私は真実を手に入れた。
 私は禍々しい悪魔。素知らぬふりをしていながら、心の底では激しく恨み、全てを彼になすりつけ、ただただ陶酔するだけの。
 止まった時計を再び動かす、その時が来た。百年昔の水の乙女に、後れをとってなるものか。

 さぁ、終幕まで、あとわずか。


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