サラシバ


12話 その言葉は泉となる


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 楽しみにしとった日曜日は、思いも寄らぬ恐怖体験で幕を閉じた。
 ミラーハウス内が水妖蛇ルサルカの臭気で汚染された為、場内にいた客の一部は魔障を受けたらしいけど、幸い、俺らより先に入っとった藤原さんと米山くんは無事やった。水沼さんと横山さんは、二人に会うことなく、横山さんは医務室へ、水沼さんは病院へ直行やった。
 米山くんたちは何があったのか不思議がっとったけど、本当のこというてもしゃあないし、奥村くんと二人で「ようわからん」言うてごまかしてもうた。
 その後、奥村くんは「お前、意外とやるじゃん!」などと失礼なことを俺に言い、坊は坊でなんやまだいろいろ心配してはった。まぁ、せやなぁ。あないな切れ切れの詠唱で上手いこといったかどうか、正直ようしらんし。先生方の話やと、心配ないようやったけど。
 それにしてもまぁ、なんや壮絶な最期やったからな。水妖蛇みたいな水の眷属が、青い炎を吹いて逝くなんて知らんかったわ。先生も酷いわ、そういうとこしっかり教えといてもらわんと、今回無事やったからよかったようなものの、巻き込まれて俺が死んでもうたらどないしてくれんねん。もうホンマ、あないな身体張ったことはナシにしよ。恐すぎるわ。
 んで、横山さんの方は大事なかったようやけど、水沼さんは憑依されとったいうのもあって祓魔師付で一日入院したらしい。本人はいたって元気やとかで、今日は学校にも来とったようやけど、なんやかやで俺は彼女を確認できんままやった。まぁ、同じクラスの子猫さんも「髪切らはった以外は普通やった」って言うてたし。
 水沼さん、髪切ったんは、やっぱりアレか、なんや水妖蛇の影響が出とったんやろか。どんな感じなんやろか。かあいらしいやろなぁ。女の子が髪切ったとか、なんやそれだけでドキドキしてしまうわ。まぁともかく、明日は会えるやろと、とりあえず置いといたわけやけど。
 その日の放課後、俺はまさかまさかの場所で水沼さんと再会した。
「あ、おつかれさーん」
 いつも通り、坊と子猫さんと三人つるんで祓魔塾へ出向いてみると、その教室に、どういうわけか水沼さんが居った。杜山さん、奥村くんと話しとったらしい。俺らの顔を見て、右手をぱたぱた振った。
 腰くらいまで長く伸びていた髪は、ばっさりとショートボブくらいまで短くなっとった。そのせいやろか、今までとは全く違って、近寄りがたい雰囲気もなく、むしろ気さくな感じさえする。
 てか、おつかれさーん、て。
 ちょぉ、なんやのその突然のキャラチェン。今までの無愛想キャラどこいってん。子猫さん嘘つきやわ、普通やったて、だいぶ変わっとるわこの子。
「水沼さん? え? どないしはった?」
「髪切ったの、ちょっとさっぱりしたくて。意外と似合うでしょ? 志摩さんなら志摩さんらしく速攻で誉めてください」
「のえぇえぇっ、なんやのそのキャラ! 水沼さんてそんな感じやったん? 俺そっちの方が意外やわ」
「誉めてくれないのね、残念。三輪くんは可愛いって言ってくれましたけど」
 ね? と子猫さんを見る。
「志摩さん、動揺しとるんよ。水沼さん、友達と話してる時と、そうでない時のギャップがあるから」
「あぁ、恐いとか、近寄りがたいとか」
「せやね。それより、水沼さんここに居るってことは、祓魔塾入るん?」
「うん。あの後、先生や親と相談して。一応、手騎士の才能があるかもとか言われたんだけど、まだよくわからないの」
 俺は水妖蛇の姿を反射的に思い出す。やっぱりアレ、水沼さんが呼びよったんやろか。
「憑依体質の疑いもあるとかで、なんかこの後、試験みたいな事やるみたい」
「そうなん? ほんなら、今日の授業は一緒に受けへんの」
「あぁ、それがね。私、別クラスみたいなのよ。なんか授業の進行状況とか、いろいろあるみたい」
「そら残念やね」
「そうだね。でもまぁ、三輪くんは学校の方でクラス一緒だし。これからもよろしくね」
「こちらこそよろしく」
 水沼さんと子猫さんが仲良う話とるのを聞きながら、俺は、水沼さんとの距離を測りかねとった。なんやろか、仲良うしとるけど、終始無表情やし、水妖蛇の一件もあるけど、急に心ひらいたっぽい感じも微妙に不気味や。俺、どないしたらええんやろ。なんで子猫さん、普通に話せとるのか、ようわからん。
「そちらは勝呂くん?」
「あれ、水沼さん、坊のこと知ってはるの?」
「うん。昨日、先生から聞いたの。勝呂くんがいなかったらどうなってたか。もちろん奥村くんと志摩くんもだけど。本当にありがとうございました」
 そう言って頭を下げる水沼さんに、「気にせんでえぇよ」と坊は照れくさそうにする。
「それより大丈夫やったんか。アホ志摩の詠唱、途中で切れよったけど」
「アホ志摩て、坊、なんですのそれ! 酷いわ、俺、今回気張りましたやんっ」
「アホやからアホ言うとんのや! お前がしっかりしとったら俺も心配せんわ。水妖蛇、授業でやったの木曜やぞ。なんで日曜にもう忘れとんねん」
「坊と一緒にせんでください。一回聞いただけでどこをどう暗記できるいうんですか、ホンマわからんわ」
 ブツブツ言うたら坊が「一回だけや無ぅて復習せぇ!」とか怒り出しよって、俺は、あわわすんませんて、と謝った。謝りながら、けどホンマ、こン人の記憶力が超人的で、かつありえへん大声やったことに、改めて感謝しとった。あの時、床に落ちてしまった携帯から漏れとった坊の大声はホンマ、命綱やったし。かろうじて聞き取れた声を頼りに、俺も何とか詠唱最後までできたわけやし。
 ってか、結局あのブツ切れ詠唱でも何とかなっとった、…ってことなんか。
「あ、そうだ。志摩くん」
「はいっ? なんです?」
 急に水沼さんに声をかけられて、俺は思わず身構えてもうた。水沼さんが、俺をじっと見る。
「……な」
「ああ、なるほど。キミは私が恐いのね」
「へぇっ、なんですの急に! そんなことあるわけないわ、俺、水沼さんのことかわえぇ女の子やと思とるよ?」
「残念だな。私は好きだよ、志摩くんのこと」
「……へ? それはその」
 おともだちとして、ちゅうことなんやろか。俺は一瞬でアタマん中ぶっとんでしもた。身構えた意味ないわ。なんやの、この防御無視のダイレクトアタック。
「私、入学した時から志摩くんのことずっと好きだったの」
 教室中の空気が静止したのを感じた。子猫さんが小さい声で「志摩さんがコクられとる」と漏らしたのが聞こえた。
 ……………や、やっぱり今、俺、コクられたんやろか。え? えぇ? ホンマに???
「だからメアド交換しよう」
「せやったら俺とつ」
「奥村くんと杜山さんにはさっき聞いたの。ね、志摩くんもいいでしょ? 友達になってよ」
「どえぇぇえぇっ、なんやのソレ、わっっっっっっけわからんわ! そこ友達ちゃうやろ自分、彼氏とか恋人とかそうなるとこやろ!」
「え、なんで?」
「ええええっ、『なんで』?! さっき自分、俺にコクったんとちゃうんかい!」
「誰かが言ったわ。『大切なのはきっとカタチじゃなくて、愛してること、それがすべて』って。わざわざお付き合いする必要なんてないのよ」
「なんやろこの子、ホンマわからんわ! 俺、どないしたらええねん」
「愛されていればいいじゃない、私に」
「せやからそれやったら」
「やだな。私、志摩さんがよく分からない」
「俺のがわからんわ! ああぁもう、奥村くん助けてぇ〜」
「俺?!」
「仕方ないな、もう志摩さんには頼みません。三輪くん、勝呂くん、メアド交換しよう」
「あわわわちょぉ、俺も交換するて!」
 慌てて携帯を取り出すと、水沼さんは、あははと笑った。


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