エピローグ
祓魔塾の帰り道、女子寮へと向かう。日は既に落ち、辺りは温い闇夜。私はここ数日の出来事を思い返していた。なんだか色々あったなぁ。
遊園地の一件があって、私と横山さんは「悪魔」が見えるようになってしまった。私の場合、鏡の儀式をやった時点で、多分そうだったのだろうけれど、バッチリ悪魔が見えたことは、幸か不幸か今まで、というか事件までは一度もなかった。どうやら鏡に写ったアレを見ただけではたいしたことなかったらしく、遊園地で「
水妖蛇から魔障を受けた」から見えるようになったのだと塾の先生、奥村弟から説明された。
そもそも悪魔の存在自体、胡散臭いもんだと思っていたけれど、本当にあるのだと知って、…あんな事をしておいてなんだけれども、今更ながらに驚いた。祓魔塾の存在自体も、加えて、奥村兄弟や志摩廉造らが、それに通っているということも全然知らなかったし。しかも奥村弟は、その塾の講師をしているというのだから、私と横山さんがどれほど驚いたか、推して知るべしである。
横山さんはあの後も、かわりなく私と仲良くしてくれている。きっと気味悪がられると、覚悟していたのだけれど、翌日に寮で再会した彼女は、いつもと同じ笑顔だった。それどころか、鏡についての経緯を正直に話すと、「おまじない試しちゃうくらい志摩くんのことが好き」な私に共感を覚えたらしく、やっぱり水沼さんも女の子よね、と、以前より更にうち解けたようだった。
入塾の話があったのは私だけだったらしく、横山さんに、入塾すると話したら、ずいぶん騒いでいた。彼女としては、奥村弟が塾講師を務めていると聞いた以上、黙っていられない部分があるらしい。うらやましいけど、でもどうしよう、としばらく本気で悩んでいたようだった。申し込みをして、やっていく意志さえあれば、だいたい入ることができるようだったから、もういっそ入っちゃえばいいのに、と私は言ったのだけれど。
横山さんの姿を見ていると、羨ましいなと正直思う。けど、やっぱり私には性に合わないな、とも思う。水辺で虚しく歌うのは、なんだかもう飽きてしまった。それに。
百年前の乙女たちより、私は遥かに貪欲なのだと、もう気付いてしまったから。
志摩廉造への思慕は、私にとって単なる自己愛だったのかもしれないし、恋することへの憧憬だったのかもしれない。正十字学園で再会した時の、あの感覚は、悪魔が私に、尋ね人が目の前にいることを知らせた故なのかもしれない。それでも私は、志摩廉造本人に直接「好きだ」と言った。それも、サシではなく、余人多くいる中で言った。秘密を暴露するのは死ぬほど恥ずかしかったが、予定通り、淡々と、さらっと言えたと思う。
「入学した時から」と嘘をついたのは、それ以前のことをあえて言う必要もないだろうと思ったから。訊かれたら答えるかもしれないけれど、今はとりあえず、ここまででいい。
愛を偽るわけではない。多分これが、世間一般で言う所の「恋愛」なのだと私は思う。私は、志摩廉造が好きだ。志摩廉造を通して、私自身を愛する。それでいい。私は、確信犯だ。
私は声を取り戻し、かといって水底へ帰るでもなく、泡と消えるのでもなく。人の身体を手に入れて、悪魔の心を受け入れた私は、終わりなく、昼夜問わず歌うのだ。
そう、優位に立たねばもったいない。
歌を通じて、彼に毒を流し込むのだ。惚れたが負けとは誰が言ったか、惚れた弱みを強みに変えて、今度は私が支配する番。
見上げれば、晴れた夜空に美しい月。
水の乙女の、ルサルカの歌が聞こえる。
セイレーンよりも美しく、ローレライよりも艶やかに。
<おわり>
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