サラシバ


5話 ミラーハウス


 かくて、ミラーハウスの前で発表されたチーム分け。藤原・米山(今回初めて会った男子で、横山さんのお友達。)、横山・志摩。そして、私の隣を歩く羽目になったのは、
「ミラーハウスって何でミラーハウスなんだ? 鏡で出来てる感じしねぇけど。むしろ見た目サーカスっぽいよな、これ」
 それを言うならサーカステント、と細かい指摘を胸に呟く。来るはずだった男子が二人、昨日のうちにキャンセルしたとかで、代わりに召喚されたのが彼、奥村くん。新入生代表の、横山さんが大好きな、あの奥村くん、の双子のお兄さんである。私たち、弟の方は有名人だから知っていたけれど、双子の兄弟がいるとは初耳だった。しかも弟とは正反対で、失礼な言い方だけどかなり頭悪そうだ。先日、横山さんが食堂で見かけた「がさつなおともだち」は、どうやら彼らしい。
 彼を誘ったのは志摩廉造。二人は同じ塾に通っているのだという話だが、パッと見、勉強と無縁に見える二人が塾友って、なんだか妙な感じである。
 ……てそんなことより、ちょっとこれおかしくない? スイーツちゃんだったら、むしろ率先して奥村兄と行動を共にするんじゃないの? あれ、もしかしてアレか、奥村くん好き過ぎてお兄さんとも話せない! みたいな。それより、うん。だいたい、いつもの横山さんじゃないみたいだし。
 けれども、あぁ。私の心の叫びなど、当然全く関わりなしに、「ほんなら出口でまた」と京都弁は私と奥村兄を送り出すのだった。
「じゃ、行くか」
「そうだね」
「俺、ミラーハウスって初めてなんだけど、何するとこなんだ? 何か出てくんの?」
「いや、ただひたすら鏡に囲まれてるだけ。迷路になってるくらいで、そんなにコレってものもないと思うけど」
「なんだそれ。志摩好きそうだな」
「……言えてるかも。でもミラーハウスなんて珍しいよね。話には聞いたことあるけど、実際に入るの初めてだな」
「ふぅん。俺、遊園地とかほとんど来たことねーから、よくわかんないけど」
 当たり障りのない雑談交わしつつ、中へと入れば。
「おぉ、なんだこれ!」
 鏡に、幻影のように映ったアニメーションを相手に、奥村兄改めワンコが大喜びしていた。
「やべぇ、マジでびびったっつーの! なぁ、由乃!」
「奥村くん……私には今、しっぽが見えたよ」
「えぇ?! やべっ! ん? なんだよ出てねぇじゃん、脅かすなよ……」
「? あはは、奥村くん、ホントにしっぽが生えたと思った?」
「へ? あ、おぉ、そーそー! そうだよ、びっくりさせんなよ!」
 変わったキャラだなぁ、奥村兄。
 まぁ、彼ほどではないけれど、正直ちょっと私もテンションがあがってしまった。奥村兄が大喜びしたアニメの仕掛けもなかなかなものだと思ったが、それだけではない。ミラーハウス内は天井広く、道幅も二人が並んで歩いても尚ゆとりがある。どういう仕掛けになっているのか、天井では光が細く輝き、その有り様は満天の星空の如く。技術的には、某大型国際的遊園地と同等なのかも。
 ほどよく薄暗く、場内にはサーカスを想起させるようなちょっと妖しげな音楽が薄く流れている。こういうの、結構好みだ。
 辺りをぼんやり見回しながら歩く。と、俄に静かになった奥村兄を見てみれば、こちらを見て何やら機嫌良さそうにしている。それにつられて頬を緩めると、
「よかった、楽しんでるじゃん」
 と奥村兄。何が言いたいのかよく分からず、頭に疑問符を浮かべると、奥村兄はこう言った。
「なんかずっとブスッとしてたし、ほとんどしゃべんなかったろ? 来るのイヤだったのかなって思ってたんだよ。そういうの、せっかくみんなで来てんのにもったいないじゃん」
 え。私、そんなにそんなだったんだろうか……いや、そうね、横山さんのこともあるし、いやいや、もともと「なんかつまんなそうだね」とか「怒ってる?」とかよく言われる方ではありますけれども。
「……ごめん、ありがと。気をつけるね」
「あ、いや、別にムリしろって言ってるわけじゃないからな! なんだ、その、楽しいならもっと楽しめば楽しいじゃん?」
 なんだその日本語は、と思いながらも、彼の底抜けな笑顔を見ていたら、何故だか不意に、横山さんの事を相談してみようかなという気になった。相談したところでどうなる話でもないとは思うんだけど。
「あのね奥村くん、実はさ……」
 ちょうど分岐点に来たあたりで私は、少し先を歩いていた奥村兄に改めて声をかける。と、振り向いた彼は、
「お? なんだよ、早速合流かよ」
 うれしそうに笑う。見ればそこには、ひらりと片手を挙げたピンク頭と、少し困ったような顔をしている横山さん。二人の姿に、私の心臓は鈍く跳ねた。まだ心の準備ができていないのに、いかにもこのまま「真相に迫る」の雰囲気に、私はただ狼狽えた。
 何か決心したように、横山さんが一歩前にでる。
「……水沼さん、私」


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