帰り道、ピーターはぽつぽつと話し始めた。
「一年前、僕らはナルニアへ行ったんだ」
「ナルニア?それって、この間も話してた?」
「そう。僕達はそこで、いろんなことを経験した」
ナルニアという国のこと。ナルニアの真の王であるライオンのこと。白い魔女のこと。喋るビーバーにフォーンやセントールのこと。ナルニアを、仲間を守るために戦ったこと。ピーターたち4人兄妹はナルニアで王になったこと。
ピーターは至って真面目に話していたが、アンジーは最初、信じていないようだった。
「それって空想のお話?」
「僕も最初妹のルーシーからフォーンの話を聞いた時はそう思った。でも全部本当にあったんだ。…信じられない?」
アンジーは悩んでいるようだった。
「信じたい気持ちは山々よ。でも…」
「いや、いいんだ。僕も最初はそうだったから」
それから会話がないまま寄宿舎に着いてしまった。そのままお互い別れるかと思った時。
「あのねピーター」
「何?」
「さっきの話をしていた時、ピーターとてもいい表情をしていたわ。きっと素敵なところなのね、ナルニアって」
アンジーは正直まだピーターの言うことを信じきれていなかったが、でもピーターがいい表情をして話していたことは事実だった。
「また話を聞かせて」
アンジーの言葉にピーターの表情が少し和らぐ。安心したような、そんな表情だった。ピーターはこの時初めてルーシーの気持ちがわかった気がした。本当のことを否定されるのはとても悲しいことだと。
「おやすみなさいピーター。また明日ね」
「うん、また明日」
そして2人は別れた。
次の日、アンジーは体調を崩してしまい、学校へは行けず部屋にこもっていた。
特に何をするわけではなかったが、アンジーはドレッサーの前に座って鏡をぼーっと眺めていた。鏡に映る自分は相変わらず真っ白で、化け物のようだと思った。
しばらく鏡を見つめていると、背後にゆっくりとライオンが現れた。アンジーは驚いて振り返るが、そこには何もいない。ゆっくり鏡に目を戻すと、やはりそこには立派なたてがみを持った大きなライオンがいた。
「時は満ちた」
なんとそのライオンは喋ったのだ。アンジーはさらに驚き、椅子を倒して立ち上がる。
「自分が何者であるかを思い出しなさい」
ライオンは静かに落ち着いた声で言う。
「私が、何者であるか…?」
ライオンはそれだけを言うと後ろを向いて去ろうとしていた。
「ちょっと待ってよアスラン!…アスラン…?あなたがもしかしてアスラン?」
アンジーはふと頭に浮かんだ名前を咄嗟に叫んだ。その名前はどこか懐かしい響きだった。ライオンはゆっくりとこちらを振り向く。
「皆を救いたくはないのか」
ドアの外から、誰かに呼ばれた気がした。外を確かめるために、アンジーはドアノブに手をかけた。瞬間。
あぁ、思い出した。私が何なのかを、私がここにいる意味を。行かなくては。