アンジーが外から戻ってくると、ピーターの姿がなかった。
「ねぇ、ピーター知らない?」
エドマンドにピーターの居場所を聞くと、下の石舞台のところだと教えてくれた。
松明を持って下へ向かうと、ピーターは石舞台の上に座って、壁に描かれたアスランの絵を見ていた。
「私、アスランのこともすっかり忘れていたわ」
「アンジー…悪い、今はひとりにしてくれ」
ピーターの言葉を無視してアンジーはピーターの隣に座った。
「1人にしてくれよ!」
ピーターはアンジーを払い除けるようにして手を振り上げた。
「っ、」
運悪くピーターの手はアンジーの顔に当たり、アンジーは口の端を切ってしまった。頬を抑えるアンジーの姿を見てピーターはひどく取り乱し、何度も何度もごめんと謝った。
「気にしないでピーター」
アンジーは頬と切れたところがが痛くて笑えなかったが、声だけは柔らかく、とびきり優しかった。そんなアンジーを見て、ピーターは糸が切れたようにぼろぼろと大粒の涙をこぼして泣き出してしまった。
「どうしてピーターが泣くの?」
「僕はきっとアンジーといろんな話をして、いろんなことを一緒にしたんだと思う。でも何一つ覚えてない、思い出せないんだ」
いつもは頼もしい4人兄妹の長男ピーター。でも今は、ただの1人の少年だった。
「大丈夫よ。今は思い出せなくても、いつかちゃんと思い出せるはずよ」
「アンジー…」
あ、そうだ、とアンジーはピーターの手を取って、ピーターを真っ直ぐに見て言った。
「私たち、恋に落ちたの2度目よ。きっとこれは運命だわ」
アンジーは痛いのを我慢してにっこりと笑う。そういえばこんなことがあったわ、あんなことも。と、ピーターが少しでも思い出せるようにとアンジーはたくさんの思い出話をした。
無理して笑う度に引き攣るアンジーの頬をピーターは優しく撫でた。
「くすぐったいわピーター」
アンジーが言うと、ピーターは頬から首へ、首から鎖骨へゆっくりと指を這わせた。そして鎖骨に唇が少し触れるだけのキスをした。
「ピーター…」
アンジーは少し艶っぽい顔をする。
「そういう顔は反則だよアンジー」
ピーターはもう一度鎖骨にキスをし、そのあと唇にもキスをした。ピーターの顔がゆっくりと離れる。
「私は…次はどんな罰を受けたらいいのかしら」
アンジーは寂しそうに笑った。