03






ピーターはしばらく黙っていたが、「もういいんだ」と今にも消え入りそうな声で言った。ルーシーはさらに悲しくなったが、ピーターに「おいで」と手を引かれ、谷あらしたちに別れを告げた。

「戻れてよかった」
「もっと一緒に過ごしたかった」
「きっとうまく行ってなかったわ」
「どうして?」
「私1300歳年上だもの」

スーザンもカスピアンに別れを告げる。スーザンは一度はカスピアンに背を向けたものの、向き直りカスピアンの首に手を回してキスをした。カスピアンもスーザンを抱きしめてそれに応えた。
「大人になったら、わかるのよね」とルーシー。「僕は一生わかりたくないね」とエドマンド。

そしてやっと4人が揃って木の幹をくぐろうとした時。

「スーザンの理論で行くと私もピーターとは上手く行かないわね」

ピーターが声のする方を向くと、そこにはピーターの最愛の人物。

「アンジー!」

アンジーは群衆の1番前にいた。ピーターが初めて出会った頃の真っ白な姿のまま。

「どうして…」
「私は天使だから。ねぇ、アスラン?」

アスランはやれやれと言いたげな顔で溜息をついた。

「ピーターと話をさせて」
「少しだけ時間をあげよう」
「ありがとう」

アンジーはピーターの手を引いて建物の中へ消えていった。

「あのねピーター。聞いてほしいことがあるの」
「何?」

ピーターの目には涙が溜まっていた。今にも頬に伝いそうなくらいに。

「私、本当はもう何年も前に死んでるの」

アンジーの言葉にピーターは「え?」と間の抜けた返事をした。

「その時私はまだ小さかったの。きっとルーシーよりも小さかったわ。私ね、両親を殺したのよ、この手で」
「アンジー…?」

アンジーは遠くを見つめたまま続ける。

「私の父は酒癖が悪くて、お酒を飲むと必ず母や私に暴力を振るったわ。私はそんな父が憎くてたまらなかった。
その日も父は仕事もせずにか昼間からお酒を飲んで母に暴力を振るっていた。何も言わないでじっと耐える母も私はあまり好きじゃなかった。
その日は特にひどくて、母が頭から血を流していたから、母を守るために父にガラスのコップを投げつけたの。
そうしたら、私、母に殴られたの。なんてことするのって。私は母を助けたつもりだったから、なんかもう、よくわからなくなってしまって。気づいたら私は両親を殺してしまっていた。
そのあとのことはよく覚えていないんだけど、確か事故にあって私も死んだの。そして、気づいたら私はナルニアにいたわ。
そこで私はアスランに出会ったの」