不可視の幸福 3
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心ばかり開いた両脚をさらに押し開いてそこに陣取ると、まだ固い奥の窄みに指を押し当てた。
ゆっくりと一本浅く押し込むと、拒絶のようなきつい反発感がある。指で触れる身体の中はやたら熱くて、それほど冷たくないはずの自分の指でも冷たく感じるのではないかと思ってしまう。
以前それを聞いた時には、それどころじゃないと言って、二度と聞くなと怒られたが――手足がさっと粟立っていく様子を見る限り、身体の中を侵されていく感覚は決して快いものではないのだろう。
反発を押し退けるようにゆっくりと指を押し込んだ。腹側の粘膜をなぞり、襞を抉じ開けて軽く指の関節を曲げる。ほんの僅かに違った感触がする場所に、そっと指の腹を添わせた。
仰向けで必死に顔を隠そうとするユージオが、慌てたように目を瞠る。
「そこ……」
「いいんだろ?」
「嫌だと言った覚えしかないが……」
抵抗のように手を伸ばしてくるが、その手を掴んで宥めるように「まあまあ」と笑う。
「触らせてくれるって言っただろ」
言質を盾にしてそう言うと、あからさまに悔いた表情のユージオが眉根を寄せる。だが、それでも何も言わずに諦めて手から力を抜き、ふいと顔を背けた。
クランカイトは笑いながら顔を伏せる。
「大丈夫大丈夫。嫌がるほど強く触んねえから」
後ろに含ませた指はそのままで、まだ尖ったままの胸の先を口の中に含んだ。軽く吸ってやると、指を食んだ場所が震えるように竦む。入れている指は、口の中で嬲られるのに似た感触だ。
胸の尖りを舌で舐め上げて唇を離し、肋骨の起伏をなぞって、下腹に口付ける。ゆっくりと下肢の方へ降りて行く唇に、ユージオが息を呑む音がした。
欲情よりも緊張が勝るのだろう。まだ柔らかい肉茎を手に取って、あからさまにゆっくりと時間を掛けて知らしめながら、根本から先端に掛けて舌を這わせる。含ませた指がきゅうと締め付けられ、腹の奥が震えるのが分かった。
「ッそ、れも……」
嫌だ、と続くはずの言葉を無視して、全体を口に含む。上顎に押しつけて軽く吸ってやると、言葉ごと息を呑み込んだ。口の中で硬く凝っていく感触を愛おしく思いながら、裏側を舌で舐め上げてやる。
奥に入れたままの指は、刺激を与えるたびに熱い粘膜に締め付けられる。ただ指で触れているだけなのに、自ら吸い付いて弱い場所を押し付け、ユージオの呼吸はどんどん荒くなっていく。
手のひらを置いたままの下腹が何度も痙攣していた。
「ん、ッ――――……」
抵抗のように動くユージオの脚を身体で押さえ付け、根本から陰嚢を指の腹でつつ、と辿って行く。そこから下、彼が触られたくないと言った場所を深くに秘めた会陰を、さりさりと指の腹で撫でてやった。
自身の手でも触れないような場所を好き勝手に嬲るのは、彼の羞恥を煽る手段だ。
口に含んだ欲情は扱いて刺激してやることはしなかった。舌で舐めて濡らし、上顎で擦り、先端を軽く含んで、音を立てて吸う。欲情を追い立てることはせずに、ただ悪戯に口で弄ぶだけの口淫。
もどかしい程度の愛撫に、ユージオの身体がどんどん熱く、動悸が速くなるのが分かる。奥の固かった窄まりは、唾液と先走りでじっとりと濡れて幾らか緩んでいた。呼吸に混じって鼻にかかった声が漏れるのを堪えられなくなっていく。
指を含んだ内壁が収縮する間隔が短くなっていった。ユージオが首を横に振りながら目元を濡らしている。
「っふ……、ん――……」
逃げるように動く腰を押さえつけ、思わずというように伸ばされる手をその都度やんわりと寝具の上に押し返した。
硬くなった欲情を口腔から抜き出すと、すっかり充血して赤くなっている。奥の粘膜は蠢いたまま、身体の熱が下がる気配は少しもない。
「――どろどろ」
身体を起こしてユージオの下肢を見下ろしたクランカイトは、思わずというように呟いた。
僅かな灯りの下でも、どんな顔をしているのかもつぶさに見て取れた。花油をそれほど使ったわけでもないのに、髪と同じ色の薄い繁りが濡れ光っている。弱い場所に当てて咥えさせるだけだった指を軽く動かすと、わずかに湿った音が立った。
ふ、とユージオの唇から吐息が零れる。
「ッ指……も……」
抜いて欲しいと濡れた橙色の瞳が訴える。灯火のようなのに、涙を纏っても消えてしまわないのだなと当たり前のことを思いながら、クランカイトは濡れたままだった自分の唇を舐めた。
「そうは言ってもな。慣らさないとまだきつくて入んねえ」
「今までのは、一体何だっ……」
「下準備、かな」
言いながら我ながらたいそう意地悪く笑って、ぐ、と入れていた指を動かした。
ただ押し当てていただけの弱い場所から指先を離して、さらにその奥深くを探る。隙間からもう一本指を差し入れ、粘膜の拒絶を確かめるように軽く出し入れする。
「あ……!」
ユージオの濡れた唇から漏れる声は、快楽よりかは驚きが勝ったような響きだった。
びくびく震える襞を押し分けて広げ、少し性急にまた一本指を増やす。きつく締めつけてくる熱を煽るように、内側の硬くて脆い場所を指の腹でつと軽く撫でてやった。
ひく、とユージオの喉が悲痛に鳴る。大きく首を横に振り、蒼い髪が乱れて目元を隠した。
宥めるように下腹を撫でてやるのは、却って慰めにならないことを知りながら、指を広げて感触を確かめる。
やがて、自分のこめかみを伝う汗の感触を自覚しながらクランカイトは呟いた。
「――今日、少し痛くしちまうかも」
は、と深く息を吐き出して、ようやく無遠慮に暴いた場所から指を抜いた。
濡れて柔らかくなってはいるが、それ以上にきつく収縮している。広がることは広がるだろうが、入れた瞬間に全身を緊張させるだろうことは想像ができるし、そこを無理やり抉じ開けていけば痛みも伴うだろう。
ユージオが前髪の間から濡れた瞳を瞬かせる。
「なん、で……」
「ほら。もー……この有り様だからな」
彼の手を取って、有無を言わさず自分の下肢を触らせた。
途端に顔を真っ赤にして手を引っ込めようとするが、手首を掴んでそれを許さず、逆に自分の性器を押しつける。――すっかり硬くなって勃ち上がり、普段のそれより大きく膨らみ切った欲を。
「さっ、最低……」
「やー悪ぃな……いっつもここまで勃ってから突っ込んだりしてねえんだけど。このまんま挿れたらたぶんちょっときついと思うんだよな……ああいや、いっぺん出しちまうか」
どうも頭が回っていない。本当に理性や思考回路が駄目になっている。
一度出してしまえば少しは収まりもつくだろう。痛がらせるより余程いい。今になってようやく気付いてそう呟き、クランカイトはユージオの腕から手を離す。
慌てて引っ込められたユージオの手が、何か迷うように一度クランカイトの腕を触って、またすぐに離れた。
その代わりのように、ユージオの脚がクランカイトの腰に擦り寄せられる。
「……いい、馬鹿」
顔は逸らされていて目が合わないが、その横顔の表情は見えた。
口元に手の甲を押し当てるのは、心許ない時の仕草だ。何度こうしても愛されることに慣れられない彼は、いつも終始心細そうだ。
伏せられた目の縁には処理し切れなかった感情で溢れた涙が溜まって、灯りを映してきらきらと光る。
ユージオの両脚がクランカイトの腰を軽く挟んで、撫でるように動く。
「痛いのなんか、今に始まったことじゃないだろ。……分かってて散々煽ったくせに、何でここで止めるんだ」
どうしていいか分からず不安でいっぱいなのに――必死で愛そうとしてくれることも分かるから、それがいつだって嬉しくて仕方がないことを、彼自身は知らない。
「ひどいやつ……」
――どっちが、と嘆きたい気持ちでクランカイトは深く息を吐いた。
痛くても無理やり捻じ込んで、彼が気持ちよくなれない奥の深いところまで暴いて、力尽くで押さえ付けながら身勝手に何度も深くまで突き上げて――そうしてやりたいと思う衝動を必死で堪えているのに。
そういう葛藤を知らないまま安易に許されてしまうと、自制心の箍が外れそうになるから困る。
クランカイトは目を眇め、何度か深く呼吸した後、ユージオの両脚を持ち上げた。
「――ゆっくり息して」
濡れた窪みにひたりと先端を押し当てた。
「ッは……」
途端に緊張で身体が強張るのが分かる。ユージオの肩口の曲線を宥めるように撫でて、クランカイトは促すように言う。
「腹、広がるように少し力入れて」
ユージオは小さく息を吸い、堪えるように止めて、言われた通りに腹に力を入れる。
僅かに開かれた奥に、ゆっくりと先端を呑み込ませた。
「ッう……」
「締まっ、た……もう一回」
僅かに先を沈ませた途端、怯えたように竦んで収縮し、締め付けられる。クランカイトは息を乱しながら、またユージオを宥めるように手を取った。
きつく握った拳を解かせながら促すと、ユージオがまた息を詰めて下腹に力を込める。きつい締め付けがじわりと緩むのが分かった。
開いた場所にまた少し先端を進ませて、収縮したら留まって。何度か繰り返す内に、挿される感覚に少し慣れてきたのか、力を入れたまま堪えられる時間が少し長くなる。
「はー……、ッは……ぅ」
ユージオの額に汗で前髪が貼り付く頃になってようやく、奥まで収め切ってクランカイトは呟いた。
「はいった……」
思わず吐き出した言葉に、ユージオがそろりと目を開く。こめかみに涙が流れて跡が残っていた。
濡れた痕跡を手で拭ってやりながら「痛かった?」と尋ねると、ユージオが軽く洟をすすりながら言う。
「……ッたく、ない」
果たしてそれが真実か嘘かと思いながら繋がった場所を軽く揺さぶってやると、ユージオの口から小さな声が漏れる。その声音に痛みを堪えるような気配がないことで、ようやく安堵した。
「はー……どうこれ」
下腹を撫でながら無遠慮に感想を尋ねると、聞くなと言わんばかりにキッと睨まれた。おそらく色々と言葉を尽くして詰りたいところを、息も絶え絶えでそれが叶わずに諦めたのだろう。
そんな涙目で睨まれても、猫に引っ掛かれるのと大差なく、却って愛しいだけなのだけれど。
クランカイトは嘆息しながら、ユージオの肩口に顔を伏せる。
「深いとこ、あんまり気持ちよくねえの分かるけど。今日はそこ弄っていい?」
根元まで収めた胎の奥は、苦しそうな顔しか見せたことがない。きっとあまり快くはないのだろう。
それでも、より深く繋がりたいと思うのが我ながら浅ましくて呆れてしまう。
果たして何の気紛れか、珍しくいいと応じてくれるのか。それともいよいよいつも通りに、嫌だと羞恥に挫けるのか。
どちらだろうと顔の見えないユージオの返答を待っていると、肩に腕を回された。
「――して」
耳元で囁かれた声は、間違いなく彼のものなのに、およそ彼とは思えない返答で。
思わず顔を上げて彼を見下ろすと、ユージオはじっとクランカイトの目を見据えていた。
「……え?」
「何してもいい。あんたがしたいこと、何でも、全部」
砂糖で煮溶かした柑橘の実を思わせる、蕩けた瞳が少しも逸らされない。正体をなくしてでもいるのかと疑ってみたが、羞恥に負けてきゅっと眉が寄せられる様を見て、そうではないのだとすぐに気付いた。
繋がった場所がひく、と竦んだのも、言葉にしなかった恥ずかしさのせいだろう。クランカイトに回していた腕を下ろすと、そのままクランカイトの頬を撫でる。
いよいよ羞恥で全身を赤く染めながら、溜め息のような掠れた声で囁いた。
「されたい」
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