魔法使いの青少年 7
© 2019 sasori_bi フローレインを学校に送り届けた後、自宅に帰ることにしたクランカイトは、ユージオを伴って帰路を歩く。今度はユージオがクランカイトの護衛のつもりなのだろう。フローレインには友達と帰るようにと言い含めておいたものの、もう体格ばかりはほとんど一人前の男の護衛とは、ユージオは少々心配が過ぎるのでは――と思わないでもない。
繁華街を抜けると、通りを歩く人は急にまばらになる。以前に誘拐されたのもこの先だ。民家や小路が複雑に並び、道によっては人がほとんど通らない場所もある。
歩調を揃えて歩いていると、不意にユージオが胡乱げな眼差しを寄越した。
「あんた、最近考え事、増えてないか」
何の前置きもなく指摘されて、クランカイトは面食らう。何度か瞬きをした後に答えた。
「……お互い様じゃねえか、そりゃ」
ふとした拍子にクランカイトの隣で思案に沈む彼がいる。きっと自分のことで何かを悩んだり、考えたりしているのだろう。だが、他でもないそんな彼が、悠長に他人の心配をするのかと思わずにはいられない。
ユージオは気まずそうな顔をする。
「お、俺のことは、いい。……あんただ、どうせろくな悩みじゃないんだろう」
「んー……はは」
「何笑ってんだ」
途端に冷ややかな目つきをするユージオに、クランカイトはしかし、含み笑いを続けた。珍しく見通しは外れている。
それを表すかのようにクランカイトの足取りも軽い。
「いや。残念ながら、悩み事じゃねえな。むしろ……思い通りにことが運びそうだから、可笑しくて」
「何だそれ」
「誰も損しない最良の結果ってやつ」
ユージオが薄気味悪そうな顔をしてクランカイトを見る。幼馴染に対する表情だろうかと思うようなそれだが、クランカイトはしたりというように微笑したまま、口を開かない。
不安に駆りたてられるかのように、ユージオが問いを口に出す。
「あんた、何を企んで……」
が、その言葉は途中で噤まれた。
ユージオの茜色の瞳が驚きに見開かれる。クランカイトはその視線を追って振り返った。
そして、ユージオ同様に一瞬だけ目を瞠り、すぐにまた元に戻る。
「ガレシア軍……」
視線の先には軍人がいた。
十人ほどがぞろぞろと連なって歩いている。そのすべてが男性で、装飾こそ取り去っているが、黒い軍服を着込んでいる。歩き姿は肩で風を切るように仰々しく、これ見よがしに旗を抱え、国章を風に翻していた。
ときおり擦れ違う人はぎょっとしたように振り返り、そそくさとその集団に道を譲る。駐屯地などもないこの辺りで国軍の姿を見ることは少ないため、その姿そのものが非常の事態に感じるだろう。
二人は小路に隠れて、窺うように軍人たちの方を覗く。ユージオの呟きを、クランカイトはすぐさま切り捨てた。
「じゃない。よく見ろ」
ユージオは怪訝な顔をしながら軍人の姿に目を凝らす。が、それでもわからなかったと見て、クランカイトはすかさず続けた。
「城の近衛だ」
「!」
王城の警護以外で出払うことはないはずなのに、なぜこんなところにいるのだろう。
そう思いながら遠巻きに見据えるクランカイトへ、ユージオは訝しそうに尋ねる。
「何が違う?」
「マントの有無と、帽子のベルトの色」
「外に出る理由なんかはわかるか」
「せいぜい王の勅令ぐらいじゃねえか」
「勅令……」
それがどんな内容かは、無論のこと推して図ることはできない。
だが、近衛兵たちの向かう方向を見て、ユージオとクランカイトは嫌な予期を抱いた。
「あっちの方向」
ユージオの呟きに、クランカイトも頷く。
近衛兵たちが曲がっていった方向。その道の先にはクランカイトたちの家がある。
クランカイトは苦い笑みで呟く。
「まさかだろう」
「そうは思うけど、それを別にしても何でこんなところにいるのかは気になる」
先に立ち上がったユージオが振り返る。茜色の瞳が滅多になく好奇心に輝くのを、クランカイトは見逃さなかった。
こういう時に限って彼は、まるで玩具を目がけて駆け出す子供のように軽率なのだ。
そう思うと諦観混じりの笑みが滲む。ユージオはそんなクランカイトに気付かない。
「追おう」
クランカイトはユージオと共に、曲がり角で姿を消した近衛兵たちを追って駆け出した。
軍人たちに追い付きそうになると、小路に入って距離を取る。離れるとまた追い掛ける。そんなことを繰り返しているうちに、どんどんクランカイトの家に近付いていく。
そのさまを見るにつれて、ユージオとクランカイトの顔にそれぞれ憔悴の色が浮かぶのを、お互い自覚しながら。
「なあカイト。もしかして、なんだが……」
「聞きたくないけど。何だ」
ユージオはもじもじと少女のような躊躇いを見せる。が、その様子を可愛いなどとのんきに浮かれていられる場合ではなく、さすがのクランカイトも舌打ちしたいような思いで問い返した。
ユージオはおずおずと遠慮がちに答える。
「……その、言いにくいんだけど。あんたの親、パクられるような悪さでもしたんじゃ……」
「気遣いをどうも。絶対ないとは言えねえな」
吐き捨てるようにクランカイトは答えた。半ば自棄に近い思いだった。金融業を営む親だ、どんな悪さに加担しているか知れたものではない。あるいは、直接の悪事ではないにしろ、間接的に誰かを追い詰めることもある。
クランカイトとユージオの目の前で、近衛兵らが一軒の石造りの家の中へと入っていく。
見紛うはずもない、この周辺で一番大きな、石造りの邸宅。両替商アステリア家の財を物語る自宅。
――クランカイトとフローレインの家だった。
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