大人になる日 5

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 本当に『痛い』以外は聞く気がないらしい。
 何度も何度も突き上げられて、揺さぶられる身体がときおり、反射反応のようにびくりと揺れる。思わず待てと静止の言葉が口を衝いても、返ってくる反応はない。
 擦れる場所は相変わらず麻痺したように感覚が薄い。ただ身体の中で動くのがわかるだけだ。なのに、下腹部の熱は冷めない。自分の身体に他人が入り込む異質な感覚も、なぜか平気な自分がいる。平気というよりかは、耐えられるという言い回しが近いだろうか。瞼を持ち上げ、美しい翠色の瞳を目にすると、何もかもどうでもいいと思う自分がいる。

「く、……っ、……う」

 押し出されるように規則的な吐息が散る。
 繰り返されるたび、少しずつその感覚に意識が集中していくせいか。潤滑油の水音を立てながら出し入れされる昂ぶりの、緩やかな隆起が少しわかるようになる。そのうちに、それが自分の中で微かに引っ掛かるような場所があることも。

「っ」

 痺れはそのうち、微かに得体の知れない感覚を喚起する。背筋がざわざわして、落ち着かない。黙っていられず、身体が逃げるように動く。だが結局、脚を抱えられている状態ではろくに動けもせず、得体の知れない何かに眉をひそめるぐらいしかできない。
 その正体がわからないまま困惑し、無意識に手でクランカイトの身体を押し返す。が、邪魔くさそうに腕を掴まれて寝具に押し付けられ、もう片方の手がユージオの下肢に触れた。
 途端、得体の知れない感覚が、急に快楽と直結したかのように鋭く鮮やかになり。

「あ」

 思わず声が漏れた。
 それも、ただ驚いて出たという声ではない。ほとんど思わずというような、媚びるような甘えた響きの声だった。
 聞いたことのないような自分の声に、ユージオは固まった。

「………………」
「………………」

 気付けばクランカイトもわずかに目を瞠り、固まっている。そのことに気付いた途端、頬がカッと熱くなる。頬のみならず耳までが熱い。叶うことなら今すぐ記憶をなくさせたい。心底そう思った。
 そのまま試すように、昂ぶったものを扱かれて、ユージオはたまらず自由が利く方の手で口元を押さえた。気を抜くと変な声が出てしまいそうだ。

「触ら、な……」

 もがくようにも動けば、たしなめるように抱えた脚を軽く噛まれる。ふくらはぎに歯を立てられ、微かな痛みは快楽をいっそう鮮やかにした。
 言葉を掛けてくるクランカイトの声は、息が上がっているせいか切れ切れだった。

「何か……問題でも、あんのか」
「い、待っ……、あ」

 もがいたせいで、身体の位置がずれたのだろう。
 押し込まれた時に強く擦れる場所が変わる。わずかに引っ掛かっていた位置を押し上げられるようになり、違和感は熱に変わる。得体の知れない身体の変化に、ユージオはますます混乱した。

「なんか……わかんない、けど……っ」

 意思とは無関係に涙が溢れてきた。
 ゆるゆると前を扱かれながら、後ろを抉られて、内壁のわずかな隆起を押し潰すように突き上げられる。逃げを打つ身体がずれると、脚を抱え直され、引き戻されて、また深く抉られる。ざわざわとした違和感はひどくなる一方だ。

「ふ……」

 快楽の原因がどこにあるのかわからない。触れられている前がいいのか、抉られている後ろがいいのか。思考はぼんやりと鈍って自分では判断がつかない。押さえ付けられていたはずの腕が解放されていても、抵抗しようという考えも浮かばない。
 瞬きすると、涙が目尻から伝った。
 手のひらで撫でるように胸を触られて、わずかに指に引っ掛かった尖りを摘まれる。ぴり、と下肢に繋がる痺れに、ユージオの身体がびくりと小さく跳ねた。

「……『気持ちいい』?」

 低くなった声に尋ねられ、ユージオは声もなく首を横に振る。
 問われた意味が一瞬わからなかった。否定の動作はほとんど無意識のもので、遅れて意味を理解すると、ユージオはかろうじて声を出す。

「わ……」

 顔を両手で覆い、か細い声は泣き言を綴った。

「わかりたくない……」
「強情!」

 ずいぶん楽しそうに屈託なく、クランカイトが声を上げて笑う。一体何をそう喜んでいるのかと嫌味の一つも言いたいのに、理性は内側から蝕まれて反論の言葉も失せていく。
 一度そうと認識してしまえば、得体の知れない落ち着かなさは、もう快楽そのものとして受け取ってしまう。
 口を噤んでも、吐息に混じって意味のない声が漏れ出る。手足が強張って、無意識に震える。所在のない指先が、拠り所を求めるように敷かれた亜麻布を握り締めた。

「だめ、だ」

 だらだらと透明なものを零す屹立を、クランカイトの指が包む。その腕を制するように手を掛けた。けれど、動きを止めてはくれず。

「だめ……止まっ、あ」

 せり上がってくる何かがあって、すんでのところでどうにかそれに堪えていた。なのにクランカイトの手は、それを促すように動く。緊張で全身が強張っていた。
 得体の知れない感覚に啜り泣き、ユージオはもう自分がどんな状態なのかもわからないまま、ほとんど無意識で呟いた。

「もれ、そ……」

 たまらず位置の定まらない両手で、クランカイトの身体に縋り付いた。
 力の限り腕を回して、きつく脚を絡める。何かに抱き付いて気持ちを落ち着けるかのように、ユージオはクランカイトの身体に縋り、肩口に顔を埋めた。
 ただ、却ってそれが、深く繋がって逆効果になったことは、考えればわかるだろうと自分で自分に呆れてしまいそうだ。――そのぐらい正気を保っていられなかったのも本当だが。

「〜〜〜〜〜〜っ、く……」
「っ……、う」

 唐突な絶頂に、びくびくと手足が痙攣する。それでも動きは止めてくれず、身体の奥深くで揺すられるたびに、大げさなほど何度も身体が跳ねた。
 かろうじて声は噛み殺した。けれど、漏れる吐息はどうしても熱っぽく、甘えた響きは拭えない。
 何が起きたのか、自分でもわからなかった。鼓動がどくどくと胸の内で蠢いているのがわかる。絶頂の余韻はまだ引かない。――中に入ったものをまだ、離れまいとするようにきつく締め付けたままだ。

「は……」

 クランカイトの身体から腕が滑り、寝具へと落ちる。荒い呼吸を繰り返しながらぐったりと横たわるユージオに、クランカイトがぽつりと問い掛けてきた。

「……悪いんだけど、もう少し付き合って貰ってもいいか」

 べとつく下腹部が白く汚れている。そして、それを誘因したクランカイトの手も同じく、白濁した体液で汚れていた。
 それを見て泣きたいような気持ちで――実際にぐすりと啜り泣きながら、ユージオは朦朧と答える。

「いい……何でも、いい、から」

 何も考えられない。問い掛けの意味も、その答えによって自分がどうなるのかもわからないまま、ユージオはただ望むことを懇願する。

「早く――終わ、れ」
「……やっぱり駄目、はねえからな」

 ずる、と屹立が抜けていく。痙攣するほど硬直して、きつく締めつけたままだった場所が、強く引き攣れて擦れ、内壁が引き摺られる。

「っあ……」

 達した身体はもう、もともと浅い快楽の許容量を超えていた。過ぎたものは快楽というよりも苦痛に近い。抵抗する身体を押さえ付けられて、ユージオは髪を乱しながら、唇を噛んでその感覚をやり過ごそうとする。

「う、――んん、ッ……、ふ、っ」
「しんどい、くせに、……何でそんな時ばっかり、嫌って言わねえ、かな」

 ずるり、ずるりと、きつく竦む場所を繰り返し抉られる。慣れない場所で繋がって、やはり手で触れたようにはその形や熱が詳細にわかるわけではない。それでも、繰り返されるごとに馴染んで、違和感は消えていく。
 身体の中に混じる他人の気配が自分に馴染んで、輪郭が曖昧になるような気がした。

「あ……」
「痛いなら、痛いって言え。……そしたら止めてやれそうだ」
「? なに……」

 額に滲む汗を拭って、ユージオはゆるりと瞬きする。その瞳は焦点が合っていない。掛けられた言葉の意味もよくわかっていなかった。
 瞬きによって、目尻に溜まっていた涙が流れていく。涙の膜でボンヤリと滲む視界の中、あの愛おしい翠玉の色だけが淡く目に映る。ユージオはぼんやりとそれを見上げて、固く噤んでいた唇を解いた。

「カイト、は……」
「?」
「男の……でも、へいき、か」

 柔らかくも、美しくもない。凹凸の少ない、男の身体でしかない。受け入れるようにはできていない、面倒の多い身体だ。無理が多くて、ユージオのことを気遣うほど、自分の悦楽は後回しになってしまっているだろう。
 それでも、抵抗を押さえ付けてまでユージオの身体を求めてくれることに、嬉しいと感じる部分もあって。

「少し……は、いいか……」

 興醒めしていないらしいということだけはわかっても、どうしても達した後の身体はわずかばかりの正気と不安を取り戻す。とはいえ理性までは取り戻すに至らず、朦朧としたまま思ったことを直截に口に出していた。

「あんたこそ、むりを……してるん、じゃ」
「馬鹿か」

 言葉尻を遮るように、返事が降ってくる。咎めのように額をぶつけられ、わずかな痛みに呻き声を上げる。
 鼻先が触れ合うような距離のまま、クランカイトが目を眇めるのが見えた。その奥のぎらついた劣情は、やはり消え失せることはないまま。

「……幸せで、どうにかなりそう」

 溜め息のように呟いて、クランカイトが目を閉じる。肩口に俯いて体重を預けてくる彼の重みに、「ぐう」と鈍い声を上げた。思いのほか、かなり、重い。背丈はそれほど大差があるわけではないのに、武芸を嗜む彼の身体は、細く見えてもユージオと厚みや幅がずいぶん違っている。その体重を受け止めながら。

「ならもう……なんでも、いい」

 ごちゃごちゃと細かいことを考える力はとうになかった。こうなる前にはたくさん躊躇して、言い訳を考えて、体裁を気にして――色んな理由で見ない振りをしていたのに、こうなった今となっては、そんなことは些事であるかのような気がしている。――本当に、馬鹿になっている。
 そうわかっていても、何も考える気が起こらない。ユージオは溜め息混じりに呟いて、重く圧し掛かってくる身体に腕を回し、宥めるようにただ抱き締めた。
© 2019 sasori_bi

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