或る軍人の追憶 11
© 2019 sasori_bi うつ伏せの姿勢で膝を立たせ、腰だけを上げさせる。辱めるようなその体勢にも、イージアスは珍しく拒絶を口にしなかった。ただ熱っぽく震える息を零して、不快そうに唇を噛むだけだった。
視界に晒すように掲げさせた場所は、撫でれば指先に糸を引くほどべったりと濡れていた。縁を捲るようにして秘められた場所に触れ、浅く指先を沈ませる。途端、怯えるようにわずかに腰が逃げた。
片腕でうなじの辺りを押さえ付けて逃げを封じながら、ウルスラは乾く唇を舐めてうっそりと笑う。
「……よくもまあ、こうも漏らしたものですね」
「ッう、あ……」
反論しようとしたのだろう、固く噤んでいた唇を解いた瞬間を狙って、ぐっと指先を押し込み、窄まりを開く。
漏らした体液で濡れきっていたせいか。さほどの抵抗もなく、ぬるりと奥へと指が沈んでいく。浅い場所を指の腹でぐるりと撫でれば、イージアスの赤く色付いた背中が、しゃくり上げるように震えた。
「――っ、……、ぅ……」
「あー……もう、ぐちゃぐちゃ」
浅い場所で軽く指を動かせば、内壁が擦れて水音を立てる。久しぶりに開いた身体はぎこちなくきついのに、指先はずるずると沈んでいきそうになる。濡れて摩擦が減っているせいだろう。入った指が吸われているような錯覚を得るほど、中が潤んで蠢いている。
イージアスの指先に力が込められ、敷布に深く皺を刻む。開かれる身体についていけないとでもいうように、息を詰めて身体を強張らせていた。
押さえ付けられる後ろ姿を見下ろしながら、ウルスラは浅い場所を執拗に指で擦り立て、ゆるゆると襞をなぞる。
「ッ、……ぅ……、あ」
「……何か仰りたそうですが」
「――――……、ッ」
「言いませんか。どうしても?」
一言請うてくれるのなら、すぐにでも与えるというのに、こういう時にまで我慢をするからどうしても尋ねたくなる。
入れている指を、ゆっくりと探るように奥へ忍ばせていく。指の腹で擦りながら、じりじりとぎこちない場所を解いていく。それにすら感じ入るのか、声にならない悲痛な声が、イージアスの喉から零れた。
「ん、……っ、―――――……」
もう正気でいることすら限界という反応だった。
ウルスラは一つ息を吐いて、探っていた後腔から指を抜いた。
まだ完全に指にさえ馴染んでいない場所に、自らの屹立を押し当てる。僅かに先端を沈ませれば、イージアスが熱に浮かされたような、小さな声を漏らした。
「あ」
「……ま、これ以上無礼を働いて折られたらたまりませんからね」
まだきついかも知れないが、痛みがあるというほどでもないだろう。もう少し時間を掛けて解してやれればいいのだが、それも今のイージアスには毒にしかならない。
「逃げないで……ください、ね」
縋るように懇願すれば、イージアスが声もなく身体を強張らせた。緊張というより、ウルスラの懇願に従おうとしたためだ。
「――――……ッ」
イージアスの悲鳴は、やはり声になることはなく。
引き攣れそうにきつい内壁をじりじりと押し開き、先端の膨らみを呑み込ませていく。引っ掛かるたびに腰を引き、またゆっくりと押し込む。繰り返し、無理やり入れたりせずに奥へと少しずつ進んでいけば、押さえ付ける身体がもどかしそうに動く。
だが、やはり途中で完全に引っ掛かり、奥までは入らない。ある程度収まったところで試すように軽く腰を揺す振ってやると、驚いたようにイージアスの身体がひくりと跳ねた。
「もう少し、力抜けます?」
尋ねれば、イージアスが声もなく首を横に振る。背中から流れ落ちる長い髪が、細く幾筋も敷布に散らばった。
言葉にならない否定の返答に、ウルスラは困ったように嘆息した。固い身体は、むやみに動かすには少しきつい。
「んー……それじゃまあ、一回出して貰いますか」
「あ……!」
内部に僅かな隆起があり、そこに緩やかな凹凸を引っ掻けるように腰を揺する。片腕は前に回して、イージアスの濡れそぼった屹立をゆるゆると刺激してやった。途端、直截な刺激に悲鳴が上がる。
一度達してしまえば、少しは楽になるだろう。そう思って、焦らすような真似を止めて無遠慮に快楽のただなかに押し上げてやれば、苦しそうな嬌声が堪えきれないというように零れ落ちた。
「ん、ッ……、ぁ」
びくびくと跳ねる身体が、逃げるためか、はたまた自ら快楽を得るためか、もの慣れない動作で腰を動かす。もぞもぞと落ち着かなげなその動きに合わせてやりながら、髪が落ちて露わになったうなじへ口付けを落とした。
見下ろす背中は紛れもなく同性の、大人の男の身体だ。けれど、若い頃よりもずいぶん筋肉が落ちたせいか、当時よりも細くなった体躯はしなやかで、猫科の肉食動物を思わせる。
そんな身体を開かせる優越感に、高揚している自分がいることはわかっていた。
「ほら、腰振るんなら、もっとちゃんとできるでしょう」
切っ先で悪戯に弱い場所を突き上げてやれば、イージアスはがくりと脚を崩した。腰を持ち上げて無理やり姿勢を直し、また前を触ってやる。
先端を指先でなぞれば、濡らしたものがぬるりと指を滑らせる。弱い場所に触れられる快感にか、呻くような声が漏れた。
「んぅ、ぐ……」
「きついんだったら、出していいですよ。我慢なんかしなくても……」
と、言い掛けたウルスラが言葉を切った。
イージアスの脚がずるずると崩れて腰が落ちてくる。腰を掴んで引き上げ、内壁にあるわずかな膨らみを押し上げるように突いてやれば、やはり苦しそうな声が上がる。だが、それでも絶頂には届かない。
「ああ」
ウルスラは納得したような声を漏らした。
「久しぶりで、上手にいけない?」
「……っ…………」
とうに欲を吐き出してもいいほど感じているはずなのに、イージアスの身体はまだそこに届いていない。悦い場所を触ってやっても、余計に甘い毒に苦しめられるような、悲痛な声が零れるばかりだ。
――この人のことだ、他の誰かと遊びに興じるなどという発想すらないだろう。
そればかりか、自分で慰めることも満足にしなかったか。ウルスラがいなかった数ヶ月、完全に禁欲的な生活を送っていたことになる。そこらの欲深な聖職者など到底及ばない潔癖ぶりだ。だが、久しぶりに快楽に触れる身体はその感覚に溺れ切ることができず、苦痛を引き延ばされただけだったようだ。
強制的に官能を煽られて脚を伝うほど濡れているのに、吐精することも叶わないまま。中途半端に欲に苛まれ続ける苦痛に、嬌声を噛み殺しながら耐えている。
「困りましたね、出したくて仕方ないのに、上手く出せないだなんて。……ふ」
ウルスラは堪えきれないというように無邪気に笑う。振り返るイージアスが睨んできても、涙に蕩けてちっとも迫力がない。いつもの不機嫌な顔は紅潮しきって、珍しいことに年相応に見えた。
「はは。本当に、あなたって人は」
「何を、笑って……」
「ああ怒らないで下さい。愛しているので……本当に、参る」
正気であれば、別に自分に操立てしているわけでも何でもないと叱咤を受けたことだろう。だが、反論を口付けで塞いで誤魔化して、ウルスラはずるりと入っていたものを抜いた。びくりとイージアスの四肢が跳ねる。唇を塞いでいるせいで、悲鳴はくぐもって鈍く濁った。
「……もっと見せて下さい」
「な……」
イージアスの腕を掴み、その身体をぐるりと反転させた。額に掛かる前髪を掻き上げてやると、イージアスの瞳と視線がぶつかる。
そのまま脚を抱えて虚を満たせば、反論は嬌声にすり替わった。
「ッひ、あ――――……」
青い瞳が衝撃に見開かれる。涙を称えていた瞳から、雫がこめかみに一筋落ちた。
「き……っつ」
「や、め……」
内壁がきつく絞られて、先端より先が引っ掛かったように進まない。無理に押し込めば引き攣れそうで、下手に動くことができない。挿れているウルスラも思わず目を眇める。
「あのー……もう少し、力抜いて貰えたりなんか、しませんかね」
「……ッし、るか……」
「知るかって……あなたの身体、でしょうに……」
苦く笑いながら、ウルスラはイージアスの両脚をわざとらしいほど大きく開かせた。驚くイージアスが抵抗するより早く、ぐっと腰を奥へと推し進める。
ずるりと先端が奥へと進んだ。イージアスの身体が怯えるようにびくりと震える。
「――――あ」
「……我慢してる顔も、好きですけど。泣いて、喚いてもいいですよ」
「や……」
普段の取り澄ました雰囲気からは想像もできないほど、そのさまは蕩け切って色めいていた。その双眸からじわりと涙が込み上げてくるのが見える。それが零れるより先に、彼の腕が抵抗のようにその視界を遮ったが。
その手首を押さえ込んで一息に奥まで突き上げると、イージアスの喉から声にならない悲鳴が上がった。
「――――――ッ……!」
「……あ」
びく、びくと組み敷いた身体が不規則に痙攣する。それに合わせて繋がった場所が収縮して、舐るように蠢く。
その変化を察して、ウルスラはイージアスをまじまじと見下ろした。背けられた横顔に掛かる髪を退けてやる。
嬌声を噛み殺しても、漏れる吐息は震えている。きつく瞑られた瞼は涙を湛えて、頬は赤く上気していた。寄せられる柳眉が悩ましげで、同時にどこか脱力も感じられる。
「いきました……?」
イージアスは答えない。
ウルスラはその反応を当然として何も言わず、ただイージアスの身体に手を這わせる。そして短く、意外そうに呟いた。
「あ、出てない……」
下腹部は濡れてはいるが、汗や透明な体液で湿っているだけで、白濁したものは零れていない。イージアスの欲情は腫れたように真っ赤なままで、触れれば固く熱を帯びている。だが、それにしてはイージアス自身、少し力が抜けたようだ。
そのことで合点がいくと、ウルスラは軽く腰を揺さぶりながらわざとらしく尋ねる。
「脚広げて、奥まで突っ込まれて、女みたいにいったんですか」
「ッ、や……」
イージアスがウルスラの胸に手を突いて押し退けようとする。
その手を取って指に口付け、ウルスラはどこか酷薄な表情でイージアスを見下ろす。
「止めろって言われるとひどくしたくなるんだから、本当に困ってしまいますね」
ウルスラの薄い笑みに、さっとイージアスの顔色が変わる。身体を捩って敷布に縋りながら逃れようともがいた。だが、掴んだままの脚を抱え直し、思い切り腰を引いて突き上げてやれば、そのまま突っ伏して動くことも満足にできなくなった。
振り向くイージアスの髪の合間から、濡れた瞳が睨み付けてくる。震える唇は吐息交じりにかろうじて声を紡いだ。
「この……」
――クソガキが、と。
力ない罵倒はやはり、色めいた響きばかりが勝って。
ウルスラの下で完全に屈服する瞬間に、ぞくぞくと背筋に走る愉悦を感じていた。
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