昼食をおすそわけ

「ゆんちゃんは誰を彼氏にしたい?」

渚の言葉に私は箸を止めた。いや、そんなこと言われたら止めざるを得ないだろう。
一体、どうしてそんな話になった。

事の次第は、屋上でハル、真琴、渚、怜とお昼を食べていたことから始まる。

「怜のお弁当ってバランス整ってるよね。お母さんの手作り?」

そう何気なく聞いた私は、この後の怜の言葉に衝撃を受けることになる。

「いえ、自分で作りました」

……。

「え?」

「ですから、お弁当は自分で作りました」

「ええええっ!?」

怜が!?あの怜が!?自分の手作りだと……

「結衣先輩、今失礼なこと考えませんでした?」

「とんでもございません」

負けた……!ハルも女子力高めの手作り弁当だけど、まさか怜もだなんて……。

「ねぇ、みんな。怜って料理出来るんだよ!?驚かないの?」

「それどういう意味ですか」

「俺達、この間聞いたから。な、ハル」

「ちょ、知ってたなら教えてよ!」

ショックだ……私、ここにいる男たち全員に女子力負けてるんじゃあ……。

「うわー怜が料理出来るとか、しかも弁当とかショック。はげちゃえ」

「何でですか!!やめてください!」

「怜ちゃんはげちゃうの?」

「渚くんも変なこと言わないでください!!」

私が一人でいじけてると真琴がどうしたの?と聞いてきた。こいつもさらっとした細やかな気遣い出来るし、私ダメすぎだろ……。

「ゆんちゃん、料理できる人嫌いなの?」

突然、渚が変なことを聞いてきた。料理できる人嫌いな人とかそうそういないだろう。

「いや、嫌いじゃないけど」

「そっかぁ。じゃあ、ゆんちゃんは誰を彼氏にしたい?」

私は茄子の味噌炒めに伸ばしていた手を止める。同時に真琴が食べ物を詰まらせたらしく、咳き込んでいた。

「……ごめん、渚。言ってる意味がわからない」

「だからぁ、ゆんちゃんはこの中だったら誰を彼氏にしたい?」

どうしてそんな話になるの。今、お弁当の話だよね!ちなみに私はまだ茄子の味噌炒め食べてないから、ゆっくり食べさせてよね!

「渚、話の脈略がないんだけど。意味わからないんだけど!」

渚のちょっと長い話を聞くと、この間怜が料理出来る男子はモテる発言をし、四人の中で誰を彼氏にしたいかみたいな議論が上がったらしい。

「怜はこん中だったら誰を彼氏にしたいって言ったの?」

「勿論僕です」

間髪いれずに答えた怜を何となくだけどぶん殴りたくなった。

「怜は絶対好きになった人からはモテないよね。私が保証する」

「だからそれどういう意味ですか!!」

そのまんまの意味である。だって何かめんどくさそう。

「いいですか、結衣先輩。僕と付き合ったら最高のデートを約束しますよ!」

「例えば?」

「僕は誕生日といった記念日を忘れることはありません。きちんとスケジュールにつけておいて、その日は予定を空けておきます。勿論、デート場所の下調べ、レストランの予約はかかせません。何もかもきちんと調べて計画し、素晴らしいデートを仕上げてみせます!!」

「えー、めんどくさそう。大体彼女が予定変更したいって言ったらどーすんの?」

「勿論、それにみあったコースを組み直します」

「……渚は誰がいいって言ったの?」

「スルーしないでください!」

怜はともかくとして、渚に聞いてみると渚は「怜ちゃん以外ならいいや」的な発言をした。こいつ、随分はっきり言いよる。

「やっぱり怜ちゃんめんどくさそうだよねー。僕はそうだなー、一緒に美味しいもの食べれて遊べればいいかなぁ」

「渚っぽいよね。彼女と可愛い喫茶店とか行けそうだよね。パフェとか食べてそう」

「それ、いいねー!ゆんちゃん今度行こうよ!!」

「えー、私一人でいくからいいよ」

ゆんちゃん冷たい!といじける渚を他所に今度はハルに聞いてみる。

「ハルは?誰がいいの?」

「……真琴?」

「なんで?何となく分かるけど」

「楽そう」

だろうね。まあ、ハルに関しては予想つく。

「えー、ハルちゃんこの間僕にしてくれるって言ったじゃない!鯖焼いてあげるよ?」

「じゃあ渚」

「ハルって本当に鯖好きだよね……」

もういっそのこと鯖と付き合えばいい。

「真琴は誰と付き合いたいの?」

まだ聞いてなかった真琴に振ると真琴は何故か私をじっと見つめながら顔を赤らめ、ええっと……と言葉を濁す。

「真琴?」

「俺が付き合いたいのは…………す、好きになった人と……かな」

顔を赤らめながら可愛いこと言いやがるなこいつ。
何故か渚はやれやれというように首を振っているけれど。

「で、ゆんちゃんは?」

渚の質問に私は思案する。意外と難しい。

「んー、怜はめんどくさそうだし、渚は付き合うって感じしないし、ハルは水と鯖に夢中だし……真琴かなぁ」

「えっ……」

「ん?」

何故か真琴は固まったまま、口をポカンと開いており、他の三人は私のこと凝視している。私、なんか変なこといった?

「結衣……もしかして……?」

よく分からないことを呟いてる真琴に首をかしげながら私はお弁当のおかずを頬張る。うむ、美味しい!!

「まあ、真琴と付き合うなんてありえないけどねーあははっ」

「……」

「みんなどうしたの?」

沈黙が重い。ハルは盛大にため息をつき、渚と怜は何故かしょげている真琴を慰めている。変なみんな。

「あっ、やっぱりね、一番付き合いたいのはコウちゃんかな!可愛いし、大好き!」

そう大声で宣言すると真琴はがっくりと肩を落とした。さっきから何をしているのかあの人は。

「ゆんちゃん、本当に江ちゃんのこと好きだよね……」

「真琴先輩、ドンマイです……」

「真琴、鯖食べるか?」

さっきからなんなんだろうこの雰囲気。

「結衣先輩には少しがっかりです……」

「怜!それどういう意味?」

「鈍すぎます。あり得ない!」

「ゆんちゃん意外と鈍感だよね」

「結衣、鯖を食え」

「みんな失礼すぎなんだけど!ハルに至っては意味わからないよ!」



ハルに真琴に渚に怜。別に彼氏とかじゃないけれど、みんなのことはもちろん大好きです。