――12月
外は北風が蔓延っており、今にも雪がちらつきそうな曇天の空。
こんな風に寒い寒い休日は部屋でぬくぬく過ごすに限る。
「ということで来ちゃいました〜」
「……は?」
「とりあえず寒いから中に入れてください。あ、あと温かーい飲み物ちょーだい」
いきなり玄関前に現れた私に放心状態だった彼――静雄は溜め息をつきながら中に入れてくれた。
部屋に入ると程よく暖房が聞いてて暖かい。
私は静雄のベッドの側にちょこんと座り込む。
静雄は欠伸を噛み殺しながら温めたミルクを私に手渡した。
「ほらよ」
「あ、ありがとー。静雄、もしかして寝てた?」
静雄の髪の毛がちょんちょんと変な風に逆立っている。
静雄は私の視線に気づくと自分の髪を手でぐしゃぐしゃにした。
「ちょ、もっと変な風になってるってー!……ごめん、起こしちゃったかな」
「別に寝てたわけじゃねーし。うとうとしてただけだから気にすんな」
静雄はそういうとまた台所に立ち、自分のマグカップを持ってきてベッドの上に座ると、ホットミルクを飲み始めた。
「で、なんだよ」
一段落したところで唐突に静雄が言う。
「何が?」
「あ?何か用があって来たんじゃねえのかよ」
そこまで言われて私はようやく静雄の家に来た訳を思い出した。
「あ、そうそう。寒いから」
「……はあ?」
「いやね、最近寒いじゃん。で、部屋の中に一人でいるともっと寒さが増すようでさ。静雄とぬくぬくしようと思って……来ちゃった」
「…………」
「ほ、ほら〜二人の方が部屋も暖かくなるし」
「ったく……勝手にしろ」
静雄はぶっきらぼうにそれだけ言うと、側にあった本を手に取った。
「あ、それ読んだよ」
「なんかトムさんから借りて読んでんだけどよ、面白いよなこれ」
「うん。いい話だよね」
両親をなくし、親戚に騙され、誰も信じられなくなった主人公が周りの友人や恋人に支えられ、人の温かさに触れながら最後には幸せになる話だ。
感動ものかなと思いきや、コミカルもあったりするのでなかなか面白い。
静雄が読んでるところをちらりと覗くと主人公が恋人に優しく抱きしめられて静かに泣く場面だった。
『温かい……人ってさ、温かいんだね』
『ああ……お前が思っているよりもさ、人は温かいんだよ。だから、もう一人で泣くな』
「ねえ、静雄」
「なんだ?」
しばらく黙り込んだあと、私は首を横に振り静かに言った。
「……ううん。何でもない」
「……そうか」
静雄は私をじっと見つめそれだけ言うと、また手元に視線を戻した。
人はあたたかい。
けれど、やっぱりつめたい。
本に集中してるのか、静かにしてる静雄の方にふと目を向けると
「…………」
ベッドの上にいたせいなのか、いつの間にかそのまま寝転がって可愛い寝顔を私の方に向けていた。
「……こんにゃろう」
静雄の頬っぺたをむにむにとつねっても起きる気配がしない。
ちょっと悪戯心が起きた私は静雄の布団に潜り込んだ。
「へへっ……あったかーい」
静雄の体温で暖まった布団は私の冷たい足をじんわりと暖めてくれる。
私はそのまま静雄にぎゅっとしがみついた。
胸に耳を寄せると心地好い心音。
「温かい……」
私がそうポツリと呟くと
「うわぁっ」
いきなり寝ていた静雄が私を抱き締めた。
「……起きてたの?」
「お前の足、冷たいんだよ」
静雄は眉間に皺を寄せそう言うと、もっと力強く私を抱き締める。
「いたいよ静雄」
「……お前さ、何かあったのかよ」
「だから、最近寒かったから、」
「そうじゃねえだろ」
「……」
「そうじゃねえだろ……」
どうして、優しい声でそんなことを言うのだろう。
どうして私の胸の内を意図も簡単に暴くのだろう。
「し、静雄はさあ……」
嫌なのに、声が震える。
「私のこと裏切ったりしない?独りにしない?……わ、私がっ、本の中の主人公みたいになっても……側に、いてくれる?」
こんなこと、いうつもりじゃなかったのに。
静雄には見せたくなかった。
仕事にも、人間関係にも疲れきって、弱りきった私を。
「佳音」
静雄は私の名前を小さく呼ぶと顔をあげさせた。
真っ直ぐな瞳とぶつかる。
「当たり前だろ」
そしてそのまま私を腕に絡めとり、眠ろうとする。
静雄の腕の中は温かくて、優しくて、私を眠りへと誘う。
先のことはまた考えればいい。
だけど、今はこのままでいさせて。