Who killed my God?

※Attention!

・キャラ崩壊(ごめんなさい…)
・想像審神者(しかもかなり性格悪い)
・刀破壊(折れます)
・Not夢(一応、女性審神者です)
・全体的に重い話

などなど多数の地雷が含まれております。
それでも大丈夫!という方だけ、お進みください。
苦情などは一切受け付けませんのでご注意を……。
























主は俺たちを道具としてしか見てくれない。それが本来のことであって、当たり前のことなんだけど、どうしても寂しいと感じてしまう俺は主に仕える刀として失格なのかもしれない。


「ただいまー」

時間遡行軍との戦闘を終えて本丸に帰ってきた俺たちを出迎えてくれたのは、大和守安定、今剣、五虎退だった。

「おかえりー清光。あーあ、また派手にやってるね」

俺の少し汚れた姿や擦過傷を見て、苦笑する安定に俺は軽くパンチをくらわす。

「あいてっ、何すんだよ」

「煩いよ、安定」

こんな汚い姿、到底主には見せられない。早く手入れ部屋に行かなくちゃ。
そう思って急いで手入れ部屋に向かおうとすると、その手を五虎退が掴んで止めた。

「ま、待ってください……」

「なに?」

「いまは まだ 蛍丸と太郎太刀が つかってますよ」

「えーまだ手入れ中なの?俺も一緒に行った三日月も中傷なんだけど、ねぇ」

三日月の方を振り返ると、俺と同じくぼろぼろのくせして優雅に微笑んでいる。さすが年季の入った刀は余裕がある。

「だから先に主に戦果を報告してきなよ」

「無理。こんなみっともない格好、主には見せられないじゃん」

そういうと、安定はぐっと唇をかみしめて俯く。

「……主はそんなこと気にしないよ」

それは俺を気遣って出た言葉じゃない。安定の本音だ。
主は俺たちをただの道具としてしか扱ってくれないから。
主と同じように会話が出来て、視覚も嗅覚も聴覚もあって、手も足もあって、心だってあって、まるで人間と同じような存在なのに、主は俺たちを本当の刀のように扱う。人の姿をしているからと言って、人としてではなく、戦うための道具として。それは本来正しい姿だし、間違ってはいない。ただ、その行動に心が時々痛くなる。
主の目には俺たちは人の形をした付喪神ではなく、本当の刀としてしか映っていないから。
俺たちの主は必ず時間遡行軍に勝つことをモットーとしている。たとえ一緒に戦った仲間が目の前で折れようとも、前に進むことしか許されない。
「だって、折れたらまた打てばいいもの。代わりの貴方達はいくらでもいるのよ」
主はそう言ってにっこりと笑う。その笑顔はとても美しく、同時に見るものをぞっとさせる笑顔だ。確かに俺たちは一度折れたとしても、また別の俺たちを主は作り出せる。ただその俺たちは主と今まで過ごしてきた俺たちではなく、全くの別物だ。それでも主は関係ないという。元が同じなら、中身も変わらないと。過ごしてきた年月は戦いには関係ない。ただそれでも経験値は違うし、いろいろと面倒だから、なるべくは避けてよね、と。主は俺たちのことをそれだけ、としか見てくれないのだ。

「仕方あるまい。蛍丸と太郎太刀が終わるまで、待つとしよう。一緒に茶でもどうか、加州」

「……いーよ、付き合ってあげる」

「ちょっと、清光!主への報告は、」

そう言いかけた安定の言葉を遮ったのは歌仙だった。

「僕が行こう。加州は怪我をしているし、無理をしてもいけない。ああ、あとで僕の分のお茶も用意して欲しいな」

「すまないな、歌仙。ああ、茶と茶菓子を用意して待っておるぞ。さあ、行こうか」

三日月に促されて部屋へと向かう。ちらりと後ろを振り返ると、安定が唇をかみしめて苦渋に満ちた表情をしているのが見えた。


「うむ、いい茶だな」

「なに、鶯丸みたいなこと言ってんの」

どこまでもじじ臭い三日月に呆れながらもお茶を飲む。まあ、悪くない味かな。

「主は俺たちをずいぶんとこき使うなぁ。こういうのを、ええと、ぶらっくというのかな?」

「そんなの俺に言われたって知らないよ。……なに、嫌なの?」

三日月の意図が分からずに聞くと、三日月は「はっはっは」と笑ってお茶を飲む。

「嫌なわけがあるまい。主の役に立てるのは喜ばしいことで、俺たちがなすべきことだろう。ただ、最近入った加州にとってはあまりいい環境といえぬのではないかと思ってな……?」

口調は穏やかだが、値踏みするような視線に思わずカッと熱くなった。

「そんなわけないだろっ!主は俺をここにおいて、ちゃんと使ってくれて、」

でも、それは道具としてであって、俺個人を大切に思っているわけではない。
思わず口に出しそうになって、慌てて唇をかみしめる。

「すまんすまん。最近、新参の刀から不満の声が上がっているようでな、まあ主はちと働かせすぎのとこもあるからなぁ。明石国行もなかなかサボれないと愚痴をこぼしておった」

「……ふーん」

気持ちが分からなくもない。ただ、俺はそれを不満に思っているわけではない。ただ、怖いのだ。寂しいのだ。主が俺を見る目には俺なんか映っていなくて、きっといつか俺は捨てられてしまうだろう。その時が来るのがものすごく怖くてたまらない。

「……主は俺たちを本当に道具としてしか扱わないよね。それが本来の正しい使い道だけどさ」

独り言のようにポツリとこぼすと、三日月は瞳に憂いの色をたたえて、わずかにため息をこぼした。
え……俺なんか不味いこと言った?……気がする。

「あ、勘違いしないでね。今のは別に不満とかじゃなくて、」

「元々は違ったのだ」

「え?」

唐突に三日月から出た言葉に首をかしげると、三日月は「そろそろ歌仙も来る頃だろうから用意せねばな」と言って、さっさと立ち去ってしまった。

「なんだよ、急に……」

一人残されたがらんとした部屋を見ながら、ちょっとゴロリと横になる。
服はもうボロボロだし、怪我の後も目立つ。蛍丸と太郎太刀はもう手入れ部屋から出てきたのだろうか。早く手入れをさせてほしい。可愛くいなくちゃ、主に見捨てられてしまう。そんなこと、今の主には関係のないことかもしれないけれど。

「失礼するよ」

声と同時に襖がゆっくりと開いた。そこには普段着に身を包んだ歌仙がいた。

「おや、こんなところで寝るとは雅じゃないね」

「ちょっとぐらいいいじゃん」

煩いことを言われてはかなわないと体をゆっくり起こす。三日月はまだ戻ってこないのだろうか。

「……先程、三日月と何の話をしていたんだ?」

「んー、ここの本丸とか主の話」

「そうか……」

俺の答えに歌仙もため息をつく。悲しげな表情が気になって、俺は思わず聞いてしまった。

「……主ってさ、ずっと前からあんな感じなの?」

「あんな感じとは?」

「なんていうか、働かせすぎ……とまでは言わないけどさ、俺たちのこと本当に道具として扱うよなーって思ってさ。あ、別に不満とかじゃなくて、ただそう思っただけ」
俺の言葉に歌仙は少し寂しそうにうつむいてから、「そうだな」と言う。

「加州の言うとおり、僕たちの主は僕たちをただの道具としてしか見ていない。ただ、勘違いしてほしくないんだけど、僕たちを蔑ろにしてるわけではないんだ。元は主は、とても優しい人だったから」

歌仙があまりにも優しい声で言うから、俺は思わずびっくりしてしまった。

「何かあったわけ……?あんたは初期刀だから、昔からのこと知ってるんでしょ?」

恐る恐る尋ねると歌仙は緩く首を横に振る。

「いや、初期刀は私ではないよ。古くからいるのは事実だがね。……初期刀は君だよ、加州清光。いや、君でない君だったというべきか」

「はぁ?」

俺であって、俺ではない。初期刀、加州清光。まさか、ここにいる俺は、

「二振り目……?」

歌仙は俺の目を見てうなずく。

「ああ、少し前に初期刀であった君が折れてしまってね。それで最近来たのが君ってわけさ」

「そう、なんだ……」

知らなかった。俺は二振り目だなんて。じゃあ、主は俺を折ってでも、前へ進めと言ったのか。代わりが利くって言葉も嘘じゃない。俺は本当に愛されていなかったんだ。とっくに見捨てられていたんだ。

「ははっ、なーんだ。……主も俺の扱いが適当になるはずだよねー」

「……っ、それは違うぞ加州清光っ!」

いきなり首を締めあげられて、息が止まりそうになる。眼前で声を荒げて物凄い形相で俺をにらんでいるのは、誰だ。

「やめておけ、歌仙。離してやれ」

静かな声がしてそっと俺の首から手が離れる。ゴホッゴホッと咳き込むと、「大丈夫か」とのんびりした声が俺にかけられた。

「……ん、平気」

「す、すまない……私としたことが……雅でないことを……本当にすまない……」
俺以上にショックを受けて驚いているのは、当の本人の歌仙だった。顔を真っ青にして謝ってくるから、俺はひらひらと手を振る。

「少し驚いただけだから平気だって」

「まあ、二人とも落ち着け。茶と茶菓子を持ってきたぞ」

三日月はにこにこと笑いながらお茶を入れて、俺たちにお茶菓子を勧める。何事にも動じないのはさすが天下五剣というべきかな。
俺は服を整えると、座布団に座って三日月が持ってきたお茶菓子を口に入れる。
……うん、うまい。塩大福だ。

「加州……先程は本当にすまなかった」

いまだに気にしている様子の歌仙に俺は口を大福でもごもごさせながら、首を横に振る。
さっきのは俺も言い方が悪かった。あんなこと、口に出して言うもんじゃない。でも思ったことは事実だった。

「なんだ、歌仙。加州に言ってしまったのか」

「ああ……つい、ね。僕らしくもない」

「はっはっは。お前さんは初期刀だった加州の次にここが長いからなぁ。つい懐かしくなってしまったか?」

「そうだね……」

歌仙は口数少なく言うと、お茶を口に含む。

「……昔のことを思い出してしまったんだ。君の片割れと、僕と、そして主の以前の近侍のことをね」

「以前の、近侍……?」

確か今の近侍はへし切長谷部だ。それ以前の近侍、ということか。

「ああ、実に懐かしいな。主はあの刀が来るとすぐに連結に回してしまうからなぁ。まあ、今の本丸が手狭で新入りを迎えるには少々無理があるのは否めないが」

「なに、何の話?三日月も知ってるなんて、ずいぶんと最近の話だよね?」
確かめるように聞くと、三日月と歌仙はそろって首を横に振る。

「いや、俺が来たのは大分前だ」

「はぁ?だって厚樫山に行けるようになったの最近じゃん」

「俺は鍛刀によってこの世に具現化しているからなぁ。結構早かったので、みなには驚かれたものだ」

懐かしそうに目を細める三日月に、歌仙もうなずく。

「そうだね……あの頃は本丸にレア刀が来たと驚いたものだ。主は近侍の彼――にっかり青江を大層褒めたものだよ。彼はあまり鍛刀には向かないと思っていたから、驚いたね」

「にっかり、青江……?」

うちの本丸では見たことのない刀だ。少なくとも俺は会っていない。

「にっかり青江。彼は僕の後にきたこの本丸3刀目の刀でね、主の近侍だったんだ。彼がいたころは主も今みたいな感じではなく、むしろこちらが心配になるくらい僕たちに肩入れしてしまうほどだったんだ」

歌仙は静かに語り始めた。俺がくる以前の、この本丸のことを。

「今でこそここは手狭に感じるが、以前は全然刀もいなくてね。最初のころはしばらく、加州と僕と青江の3人でなんとかやっていたんだ。そのあとに薬研や厚、鯰尾なんかの藤四郎たちがたくさん来てくれてね。記念すべき10刀目にこの三日月宗近が来たんだよ」

「そうか……そうだったかな?」

「……本人は忘れているようだね」

静かににこにこと笑う三日月を見ながら呆れたように、歌仙はため息をつく。そして大福に手を伸ばして一口食べると、また話し始めた。

「主は僕たちの痛みを自分自身のように受け取ってしまう人だった。うちには手入れ部屋が少ないからね。手入れ部屋の前で傷ついた体を横たえる刀を見て、涙を浮かべながら拙くも一生懸命手当してくれたものさ」

その言葉はあまりにも今の主とはかけ離れていたものだった。今の主は俺たちが傷ついたって見向きもしないのに。

「だからこそ危うさがあった。僕たちは酷使すれば折れてしまうこともある。だからといって撤退ばかりしていては、主は審神者としての命を果たせない。主はずいぶん自分の気持ちと政府からの命の板挟みになって、よく陰で泣いていたものだ」

「それを常にそばで支えていたのが近侍だったにっかり青江だ」

「彼は雅ではないのにねえ……主はずいぶん、彼を買っていたものだ。彼自身も近侍として主をずいぶん甘やかしていたようだしね」

「ああ、そうであったな。二人は俺からも信頼しきっていて、仲睦まじく見えたものだ。――だからこそ俺は、前から青江には忠告をしていたのだがな」

三日月が吐き出す言葉がなぜだかとても冷たく聞こえて、背筋がぞっとした。

「ある時、政府から本能寺に歴史修正主義者ではない別の反応があるとの通達があった。主はその討伐に僕と加州、三日月、薬研、鯰尾、そして青江を選んだ。主はとても心配そうな顔で僕たちにこう言った。『必ず討伐せよとは言いません。みな、無事で帰ってきてください』と。」

「だが、その願いは叶わなかったというわけだ」

三日月が淡々とした口調で言う。俺にはその先の恐ろしい結末が手に取るようにわかってしまった。

「ああ――本能寺で僕たちが出会ったのは検非違使だった。恐ろしいほど手ごわく強い敵で、僕たちは歯が立たなかった。そこで僕たちを逃がすために青江は……おとりになったんだ」

「……」

言葉が出なかった。検非違使の恐ろしさは数回の経験で身をもって知っている。おとりになった、ということは彼は、

「折れる寸前だった彼を回収して、本丸まで戻ってくるのがやっとだった。ボロボロで瀕死寸前の彼を見て、主は当然泣き叫び、発狂した。手負いの私たちでは主を宥められないぐらい凄かったものさ」

歌仙は当時を思い出したようで苦痛の表情で顔をゆがめる。言葉が続かなくなった歌仙の続きを引き取るように三日月が再び口を開いた。

「そしてあやつは主に呪いをかけたのだよ」

「呪い……?」

「ああ。
『僕たちは替えが利く。いくら折れても僕はまたここに来るだろう。君は審神者だ。何を優先すべきか分かっているんだろう?いいかい、どんなに痛みを感じてもそれは君の痛みではない。だから、立ち止まるな、迷うな。僕たちはただの君の、道具だ。散々斬り殺してきたんだ……こういうこともあるさ……だから、泣かないで、笑いなよ、にっかりとね』
瀕死の状態で主にこう告げた後、彼は完全に折れてしまった」

「そん、なっ……」

『僕たちはただの君の、道具だ』
それはなんとも物悲しい言葉だろう。実に正しい正論だ。主が俺たちのために心を痛めるのは間違っているし、それで俺たちが命を果たせないのも間違っている。俺たちは歴史修正主義者を殲滅すべく主に具現化された道具なのだから。それでも、その言葉に一抹の寂しさを覚えてしまうのは、俺が未熟だからだろうか。

「その言葉を告げられてから、主は立ち止まることも悩むことも一切しなくなった。ただ俺たちに容赦はなくなったがな」

「……だが、きっと主は心の奥底では泣いていることだろう。いつもいつも泣いていた主がすぐに心を切り替えることなどできるのだろうか。僕はそうは思わない。その証拠に、主は二振目のにっかり青江を決して迎え入れようとはしないのだから」

三日月と歌仙の言葉を聞きながら、俺は主のことを思い出す。ちっさくてほそっこい華奢な体。俺たちのことを持てるのかすら危うい。それでも意思はしっかりとしていて、それでいて冷酷な判断をすぐさま下す。そんな主を今まで支えていた最初の近侍がいないとなると、今の主を守っているのは誰なんだろうか。長谷部か、それとも古参の歌仙たちなのか。
そこまで考えて、俺は思わず笑みをこぼす。

「なんかさ、今の言葉聞いて安心したよ。主もちゃんと人なんだね」

歌仙はよくわからないといった顔をし、三日月はまたにこにこと笑みを浮かべている。
主にだって弱い一面はある。ただ、それを決して俺達には見せてくれない。だったら簡単なことだ。主がさらけ出してくれるような強い刀になればいいだけのことだ。俺は一回折れたことがある。そして最後まであの人の傍にはいれなかった。俺の片割れですら主の傍に最後までいれなかったんだ。それなら、今度こそ最後まで主を守ると誓おう。
パタパタと廊下を走る元気な音が響いてきて、スパーンと襖が勢いよく開けられた。

「三日月さーん、加州さん、手入れ部屋空いたから次使っていいよ!って薬研からの伝言!ボク、ちゃんと伝えたからね、それじゃ遠征いってこなきゃ」

いきなりやってきた乱は早口でそれだけ言うとさっさとその場を立ち去ってしまった。

「よし、では行くとするかな」

「そうだね」

俺は立ち上がってうんと伸びをすると、三日月と一緒に手入れ部屋までの道を歩き始めた。