恋愛より友情より大切な

「二人とも最近なにかおかしくない?」
終業式からの帰り道。二人に思い切って尋ねてみると、二人は一瞬黙り込んでから何かを誤魔化すように笑った。
「何かって?いつも通りだけど。なあ、コウ」
「ああ。別になんもねえけどな」
「そっか……それならいいの」
そう言いながら笑みを浮かべると、あからさまに安心したような顔をする二人に少しだけ心が痛くなった。

はば学入学当初、幼馴染のルカとコウちゃんと再会してからは、それまで過ごしてこなかった日々を埋めるように三人でたくさん遊んできた。
お花見をして、花火大会に行って、海にもスキーにも行って。たまにカレンやミヨたちに誘われて四人で遊園地にも行ったりした。
三人で遊ぶのはすごく楽しかった。ルカが馬鹿なことをしてコウちゃんがたまに怒って。そんなコウちゃんをルカと一緒にからかったりして。時には二人の住むWest Beachに遊びにも行ったりした。
このままずっとずっと三人一緒にいられると、そう思っていた。
いつからか忘れたけれど、三人でいると時折ルカとコウちゃんが辛そうな表情をするようなときが増えた。たまに私がいないところで二人が何か揉めている気配も感じていた。二人は私にそれを悟らせまいと何も言ってこないけれど。私には何の関係もないことなのかもしれないけれど、私には何も言うまいとする態度が少しだけ寂しかった。
もしかして、ルカもコウちゃんも私といるのが嫌になったんだろうか。そんなことを考えたりもした。カレンやミヨといる時のように恋話を振ってみても、迷惑そうな感じだったし、男女間の友情はあまり好きではないような気もしたから。
それが私の勘違いだと思い知ったのは、つい最近のことだった。
「ねえ、今度は二人で出かけない?……コウには内緒で」
「たまにゃルカ抜きで出かけんのもいいだろ」
三年生になってからだろうか。いつからか、そう言って冗談交じりで二人が声を掛けてくることが多くなった。前は必ずルカとコウちゃんで一緒に遊びに誘ってきたのに、最近はいつも一人でいる時に誘ってくる。
三人で遊ぶ方が楽しいよ、と言うと、二人は決まって気まずそうに笑いながら冗談だと言う。気まずそうな顔を二人にさせているのは私のせいなのだろうか。
それでも、それでも、私は――。

「ねえ!今年って高校最後の夏休みでしょ?」
少しだけ声を張り上げて二人に言うと、二人ともきょとんとした顔で私を見つめる。
「だからさ、高校最後の思い出、たくさん作ろうよ」
三人で、とは声に出さずに二人を見つめ返すと、二人は少ししてから笑い声をあげた。
「なにマジな顔して言うのかと思ったら……ククッ、遊びの誘いかよ」
「いいねえ!ちょうどテストも終わったし、ぱーっと遊びに行こう!」
二人の反応にホッとしながら、私はどうしてもしたかったことを伝える。
「じゃあさ……8月の花火大会、三人で行ってくれるよね?」
「もちろん。エスコートさせていただきますよ女王様」
「おお。毎年行ってるかんな。当たり前だろ」
両隣に来た二人から交互に髪をくしゃくしゃに撫でられて、文句を言いながらも、高校最後の夏休みを過ごせることにホッとしていた。

花火大会の日は思ったよりもすぐにやってきた。浴衣を身に着けて、待ち合わせのはばたき駅に向かうと、先に着いていた二人が浴衣を褒めてくれた。
花火会場では人ごみの中、ルカとコウちゃんに手を引っ張られながら、いろんな屋台を回った。
三人で型抜きをしたり、射的をしたり、りんご飴食べたり。私は三人で過ごすこの楽しい時間が何よりも大切で大好きなのに。
「ほら花火始まっちゃうよ。行こうぜ」
「おお、ほら、こっち来い」
「う、うん」
左手をルカ、右手をコウちゃんに引っ張られながら人ごみを進んでいく。少し開けたところまで来ると、三人で横に並びながら空を見上げた。人々のざわめきが聞こえるけれど、両隣の二人は黙ったまま空を見上げている。
すると、真っ暗な空を一筋の線がすっと通り、空一面に大きく華が開く。赤にも青にも様々な色に変わる空の華を見上げながら、私はふと呟いた。
「高校生活最後の夏なんだね……」
その言葉に応えるように左側から「最後の夏か……」と呟く声が聞こえる。
それと同時に右手を少しだけ強く握られた。
二人の温もりを感じながら、私は願うように言う。
「また、来年も三人で来ようね?」
私の声は花火にかき消されてしまったのか、二人から返事はなかった。