きみのことばはぜんぶうそ

「先輩、私のこと本当に好きですか?」

先輩にいつもぶつけるこの質問。
先輩は目を合わさずに優しく笑う。

「当たり前じゃないか。誰よりも、好きだよ」

先輩から貰える『 』の言葉に、私は嬉しくなってふわふわした気持ちになる。
ねえ、先輩、知ってるよ?
昨日、知らない女の人と歩いてたよね?その前は私の友達と。その前は私の妹と。
でも、先輩は今だけは私のことを好きだって言ってくれる。優しく笑って、頭を撫でてくれる。先輩が髪を梳く手つきが気持ちよくて、私は目を細める。
そういう些細な幸せがあれば、それで十分。
これ以上は望まない、望めない、望んじゃいけない。
だって、そんなことをしたら先輩は私に『 』をくれなくなってしまうもの。

「わたしも、せんぱいがすきです」

「ありがとう」

私の言葉に先輩は微笑むとちょっとかがんで頬にキスを一つ落とす。
普通の彼氏彼女みたいな行為に泣きそうなぐらい嬉しくなって、思わず先輩の腕にしがみついた。

「おいおい、危ないなぁ」

先輩は笑いながらなだめるように私の頭をぐしゃぐしゃとかき回す。髪が乱れます、なんて文句を言いながら私は笑う。笑いながら辺りを見渡すと、喫茶店の大きな窓ガラス越しに知らない女の人と目が合った。
その女性は目を見開いて、私と先輩の姿を見つめていた。顔は真っ青になって、手に持っていたティーカップはここからでもわかるほど小刻みに揺れていた。
私は彼女に向かってにっこりとほほ笑むと、先輩の腰に手を回してくっつく。

「先輩、寒いからどっか喫茶店でも入りません?」

「そうだなぁ、そこの喫茶店に……」

先輩が喫茶店の方を向くと、彼女と先輩の視線がぶつかる。でも、それはほんの一瞬のことだった。私の方に向き直ると、今度は私の目をしっかり見つめ、先輩は柔らかく微笑む。

「それより、近くのパンケーキ屋行かないか?お前、そういうの好きだったよな」

「覚えててくれたんですか?」

「当たり前だろ、俺の自慢の彼女だしな。彼女の好きそうな店ぐらい調べてあるもんだ」

先輩は得意げに言うと、私の肩をぎゅっと抱き寄せて歩き始める。少し早いぐらいの歩幅に合わせようと私も小走りで着いていく。

甘いもの、嫌いなんだけど。

そう言う私の言葉は口の中で溶けていった。