さよならを告げられない

「えー、佳音おねーさん、もう帰っちゃうの〜?」
透き通ったビー玉のような瞳に見つめられて、私は思わず動きを止めてしまう。甘ったるい飴玉のような声に流されてしまいそうになるのをこらえて、私は「ごめんね」と謝罪の言葉を口にする。
「明日、朝早く仕事に行かないといけないから……」
そのまま彼のもとを去ろうとすると、右手首をぐっと掴まれる。困惑して彼を見つめると、先ほどと同じ透き通った瞳で笑顔を浮かべながら、首を傾げた。
「どーしたの、おねーさん」
甘えるような声は何時もと変わらないのに、右手首を掴む力は何時もよりも強く、振り解くことができない。その場から動けずにいる私に彼は悪戯っぽく笑いかける。
「まだ、帰らなくてもいいんだよね?」