あれは確か、久保くんと私がまだ葛西さんの家でお世話になっていた頃の話だと思う。葛西さんから、今日はアイツの誕生日なんだって聞かされて…自分の誕生日すら祝ってもらったことのない私だけど、聞いてしまったからにはお祝いしないわけにはいかないだろうと。…きっと葛西さんは祝う気満々なんだろうし。
だから誕生日っぽい料理を作って、ケーキも手作りしたのよね。あの時は仕事してなかったから、時間だけは有り余ってたし。で、料理もケーキも準備し終わったのはいいんだけど―――お祝いって、何ぞや?ってなっちゃってさ。今思えば、単純におめでとう、って言ってあげればいいんだろうなってわかるんだけど、あの時は本当にわかんなくて。
「作ったホールケーキを顔に思いっきりぶつけたの」
「………なんだそれ」
「思いついた時は我ながら冴えてる!って思ったんだけど、掃除が大変だった」
「いや、自業自得だろ。しかもケーキ食えねぇし!」
「そうなんだよね、そこまで考えてなくって…久保くん甘いもの好きなのに、申し訳ないことしたなーって思った。さすがに」
「なまえって頭良いのか悪いのかわかんね…」
頭を抱えて項垂れてしまった時くん。うん、久保くんと葛西さんにも同じこと言われたよ。ついでにお前の考えてることは突拍子がなさすぎる、とも言われたっけ。
「…それ、ずっとやってんの?」
「顔面ケーキ投げ?まっさか。最初ので懲りたから、翌年からはケーキだけ作ってたよ」
「え、料理は?」
「最初の誕生日だけだったかなぁ…葛西さんも帰ってこれないこともあるし、久保くんもバイトで家を空けること多かったし」
そう。思い返してみると、ちゃんと誕生日を祝ったのは最初の時だけだ。それ以降は張り切って料理を作ることなんかしてなくって、…おめでとうの言葉だけーって感じだったね。あとケーキ。
別に久保くん自身は誕生日にそんな思い入れないみたいだったし、祝わなくてもいいってタイプの人だったから文句なんて言われたこともなかった。ケーキは美味しそうに食べてたけど、…それだけだったね、うん。
「ね、時くん。…2人で頑張ってさ、久保くん驚かせちゃおっか」
「ケーキは投げねぇぞ?」
「やだなぁ、面倒だからやらないってば。料理作って、ケーキも手作りして…それからちょっとした装飾と、クラッカーでしょー…あとプレゼントね」
「楽しそうだな、なまえ」
「ちょっと楽しくなってきた。驚くかな〜久保くん」
時刻は昼前。当事者である久保くんはバイトで夜まで帰ってこない予定だし、急いで買い物して作り始めれば、何とか間に合わせることができるはず!思い立ったら即行動!の私は、時くんを連れて買い物に出かけることにしました。
「よっし!こんなもんかなぁ」
「うお、美味そう!」
「時くんは準備終わったの?」
「バッチリに決まってんだろ!なまえもバースデーカード書いちゃえよ」
「ああ、そうね。忘れてたわ」
テーブルの上に所狭しと並べられた料理は、すごい量になっちゃったのよね…でもまぁ、残ったら明日のお昼にでも食べればいいし、いいかな。だってから揚げとかだし。
思いつきで買ってきたバースデーカードにお祝いの言葉を書き込んでいると、放置していた携帯が着信を告げる。相手は、…あっ久保くんだ。
―――ピッ
「もしもし、久保くん?」
『うん。バイト終わって、今帰ってる途中なんだけどさ何かいるものある?』
「んー…特にないかな。その代わり、早く帰ってきてくれると嬉しいんだけど」
『…珍しいね、お前がそんな風に言うなんて。わかった、ダッシュで帰る』
電話が切れた20分後、若干息を切らせた久保くんが帰宅。私と時くんはと言いますと、リビングのドア近くに待機してます。ちゃーんとクラッカーも準備してね!そしてドアが開いて、彼の姿が見えたのと同時に紐を引っ張れば、パンパーンッと小気味いい音がリビング内に響き渡ったのでした。
案の定、久保くんは何がなんやらって顔をして、珍しく目を見開いてる。ということは、作戦成功―――って所かなぁ?
「久保ちゃん、おっかえりー!」
「…ただいま。え、なに?」
「今日、君の誕生日でしょう?時くんとお祝いしてやろーぜ、って話になったのよ」
「―――ああ、今日って8月24日か」
「げ、忘れてんのかよお前…」
時くんがえー、って顔をすれば、だって興味ないもんって涼しい顔。時くんはきっと喜ぶタイプだろうけど、久保くんは私と一緒で誕生日なんてどうでもいいって思ってるタイプなのよねぇ。…それなりに付き合い長いし、それくらいはわかってるのよ。実は。
だから別に祝わなくてもいいかな、って思ってもいたんだけど、何だろ…久保くんと付き合うようになってから、この子を喜ばせてあげたいなーとかさ?思うようになっちゃったわけですよ!きっかけをくれたのは時くんだけど、いつだって…彼を喜ばせたいとか、笑顔にさせたいって思ってるの。思えるように、なったの。
「うわ、豪勢だね」
「誕生日だからね。ちゃんとケーキもあるから」
「なまえの手作り?」
「そ、手作り。飾りつけは時くんも手伝ってくれたのよ」
「へぇ。それは楽しみ」
「なぁ、久保ちゃん帰ってきたし食おうぜ!腹減った」
「もう時くんったら」
料理は少しだけ豪勢だけど、それを食べる私達はいつもと何ら変わりない。でも久保くんの表情が普段より柔らかいから、喜んでくれたのかなぁって。
(そうだ、久保ちゃん!これ俺となまえから)
(なぁに?プレゼントまであるの?)
(まぁね。開けてみなさいな)
(…あ、ジッポ)
(デザインかっけーだろ?!見た時に俺もなまえもピーンときてさぁ)
(即決だったのよねー。…気に入った?)
(うん。サンキュ、なまえ、時任)