コトダマ


文字通り滝くんを叩き起こした時くん。そんな滝くんは些か涙目になりながらも準備をして、早々に家を出た私達。途中、コンビニで朝ご飯を買って食べながらアンナちゃんに聞いた住所を目指せば、そこそこ大きなビルが姿を現した。…うん、でも此処で間違いないみたい。
シムラさんが所属しているオフィスに行き、呼び出してもらおうと思ったんだけどどうやら今日は出勤してないみたい。一度呼びに中に行った所を見ると、…無断欠勤ってとこ?元々休みだとわかってるなら戻る必要なんてないもの。今日は出勤してないです、って最初に言っちゃえば済むことだしね。

でも休みだからといって、このまま大人しく引き下がってなんていられない。どうにか本人にコンタクト取る方法は―――と考え込んでいたら、時くんまさかの爆弾発言。自宅の住所を教えてもらえないか、って言い出しやがった。いや、うん、確かにもうそれしか方法はないかもしれないけど!んな直球に聞いちゃったらオネーサン訝しんじゃうでしょ!ああほら、完全に私達とシムラさんの関係はどんなのかーって訝しんでる目になってるじゃん。もしくは、何の用だ?って目だ。
はぁ…仕方ない、フォローをしようと思ったら私よりも早く滝くんが口を挟んだ。


「実はちょっと…あの人に小金貸してるンスけどね?なかなか返してもらえなくって」
「名刺もらってたから此処まで押しかけちゃったんですけど…プライベートなこと、ですので。直接コンタクト取れれば会社にご迷惑はおかけ致しませんので」
「そういうことでしたら…少々お待ちくださいね」


滝くんの演技に乗っかる形で言葉を紡いでみれば、あら不思議、何とオネーサン信じてくれたみたい。うーん、これ時くん1人じゃなくて本当に良かったかも。


「…なぁ、何でわざわざホテルまで様子見に来たんだろ」
「よく言うだろ?犯人は現場に戻るんだよ。…どっちでもな」
「どっちもって、」
「どんな状況になってるのか気になるってこと。自分の犯罪に酔って楽しんでるような奴も、単に小心者の奴でも―――ね」


この場合、シムラさんって人はどちらかしら?アンナちゃんから少し話を聞いた限りだと、後者のような気もするけどね。
ま、それはどーでもいいんだけど。無事にシムラさんの住所はゲットすることが出来ましたー。さぁて、肝心のオジサマはご自宅にいらっしゃるんでしょうかねぇ?怖くて家に引き籠っているパターンならまだいいんだけど、もうすでに逃げちゃってるパターンだったら嫌だなぁ…もし逃げたとしてもきっと、逃げ切ることなんてできないとは思うけど。いい加減、警察も気が付いてるでしょ…このシムラさんの存在に、さ。
だって状況証拠からして久保くんが実行犯じゃないってことは、とっくに証明されてるはずだもん。それなのに一向に釈放されないってことは、彼の過去の素行や黙秘以外にも…どうしても捕まえたい理由がある、ってことだと思うのよね。彼を取調べしてる人が。薬の取引や、あと『W・A』も関係してんだろうなー…その現場にちょこちょこ顔出ししちゃってたし。


「此処だな、教えてもらった住所」
「みたいだね、…って、あら?新木さん?」
「時任くん、瀬上さん…?!何でここにッ」


教えてもらった住所のアパートに辿り着いたのはいいんだけど、そこで葛西さんの部下である新木さんが裏手で肩辺りを押さえて蹲っているのを見かけた。どうしたの、と声をかけていたら表側から同じ刑事さんらしき人が走ってきた。

そしたら新木さんが「志村が逃げた!」と一言。

…ああ、さっき誰かが走って行ったなーっと思ってたけど、あれが"シムラ・ケン"ってことか。それなら追いかけないわけにいかないっしょ!!


―――ダッ!

「瀬上さん、時任くん!ダメだ、危ない戻れ!!」


後ろから新木さんの声が聞こえたけど、ごめん、今回は何が何でも引けない。だってあの人に逃げられたら困るんだもの、私も時くんも。絶対、絶対捕まってくれなくちゃ―――私達の大切な人は、戻ってこれないから。

しばらくいった裏路地の辺りで1人の男の人が走っているのが見えた。さっき見かけた背中と似てるし、きっとあの人が私達が捜していた人に間違いないわ。グッと足を踏ん張って跳躍すれば、何とか男の背中にしがみつくことに成功した。でも逃げようとしてるだけあるわ、ゴミ置き場に捨ててあったビニール傘で応戦しようとしてくんだもん…それだけ捕まりたくない、ってことよね。まぁ、その気持ちはわからないでもないけど、…悪いんだけどさ。それは無理なお話よ?


―――ビッ

「ッ、!」
「ほたる!!…っの野郎……!」


時くんに傘ごと放り投げられた男…もとい、シムラさんは涙を流しながら「『捕まらない』って…言ったのに、何度も言ったのに」としきりに呟いていた。まるで呪文のように。
きっとそれは、言霊。口にした言葉は途端に力を持つ、とか何とか言われてるけど…果たして嘘か、真か。何度も口にしていれば叶うこともあるのかもしれないけどさ、私からしてみれば気休めにしかなんないよ、そんなの。確かに言葉の持つ力は重たいものだけれど、んな都合のいい話があって堪るもんですか。
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