ずっと待ってた。


時くんが捕まえてくれたシムラさんを警察の方々にお任せして、家に帰ってきたのは今から30分くらい前のことだ。どれくらいぶりかわからないくらいに、久しぶりに感じるなぁ。しばらく離れてみて思ったけど、思っていた以上に私はこの家での暮らしが気に入っていたみたい。
あの時は目的が読めない、相手の正体がわからないっていう状況に参ってるだけだと思ってたけど…帰ってきてわかった。私、この家に帰ってこれないっていう状況が辛くて堪らなかったんだ。全く自覚なかったけど、ドアを開けた瞬間に感じた異常な程の安心感はきっと…そういうこと、よね?

ソファにそっと腰を下ろして辺りを見渡してみるけれど、リビングもキッチンもこんなに広かったっけ…?いや、元々広い部屋だとは思ってたけど、今まで感じてた感覚とはちょっと違うような気がする。でも別に物が減ってるわけでもないし、私が帰っていない間に何か変わったことがあったってわけでもなさそうだし―――――ああそうか、いないんだ。いつも傍にいた久保くんと時くん、彼らがいないからこんなにも広く感じるんだ。


「…早く、帰ってきてよバーカ」


家に着く少し前。警察に行った時くんから電話があった。捕まったあの男の人があらかた自供したことや、新木さんが骨にヒビがはいる怪我を負ったこと、それから犯人は捕まったけど久保くんはまだ釈放されていないということ。
やっぱりそうか、真犯人が捕まったからといって全てが綺麗に片付くわけがなかったんだね。きっと彼にはまだ、運び屋どうかってことが問題として残ってるんでしょう。薬の売買に関与してる可能性が高い、って思われてるんだろうなぁ…それに関しては否定しきれないような気がしないでもない、けど。仮にそれが事実だとしても、彼がヘマするとは思えないし簡単に足がつくような真似をするとは思えない。だって用意周到だし、頭は切れるし?どう考えたって証拠を得ることは出来ないでしょう。できるわけが、ないんだ。

さってと…変なことを考えるのはここまでにして、そろそろ色々と片づけてご飯の準備もしなくっちゃね。まずは洗濯物かな。ひょこっと洗面所を覗いてみれば、脱いだ服や使ったタオルをいれるカゴはそこそこいっぱいになっていた。今すぐ回さなくちゃ着るものがない、ってレベルではないけど…今日着ている服を3人分いれたらちょっとヤバそう。…回しとこ、時間が時間だけど。
洗濯機を回してから冷蔵庫の中を確認すれば、見事に空っぽだった。野菜が少しだけあったけど、大分前に買ったものだったのか全滅。使えそうな感じではない。これはもう買い物に行かないと何も作れないわ。洗濯機を回してる今のうちに急いで買い物に行ってこよう。





「よし、こんなもんかなー」


お腹を空かせて帰ってくるであろうわんことにゃんこの為に、今日はちょっと頑張ってみた。ご飯が炊き上がるまでまだ時間あるし、2人もまだ帰ってくる気配ないし…お風呂の支度と寝室の掃除、してようかな。
料理や掃除、洗濯をしていると考え事しないで済むかなーと思ってたんだけど、そうでもない。むしろ、動いてる方が考え事しちゃうってどういうことなんだろう。いや、きっとじっとテレビ見ててもいつの間にか考え事しちゃってるんだろうけどさ。
ボスン、とベッドに寝っ転がればふわりと香る久保くんの香り。シーツに包まれば一層強く香る香りに安心してそっと息を吐く。…あ、何か私ヘンタイみたいだ、マズイなぁこれ。


「帰って、…くるのかなぁ」


全く考えてなかったわけじゃない。いずれは釈放されるかもしれないけど、もしかしたら今日は帰ってこれないんじゃないかって。それどころか、もう二度と―――あそこから出て来れなかったら。それを考えるだけで体が震えてしまうくらいに、怖くなる。
変なの。あんなにも拒んでた感情だったのに、一度、認めてしまったらこんなにも内側の奥深くまで入り込んでくるなんてさ。あの人の時と似てるけど、でもちょっとだけ違うような気がする。何が違うのかはよくわかんないけど、あの頃よりちょっとだけ幸せなような、そんな変な感じ。
シーツに包まっているうちにゆるゆると瞼が重くなってきた。んー…まだしばらく帰ってこないだろうし、少しだけ寝ちゃっても問題ないかなぁ。襲いかかる眠気に逆らわず寝よう、と瞼を閉じた時、外から声が聞こえた。





「ほら早く久保ちゃん!」
「待ちなさいって時任。てか、家に何もないよ?夕飯どうすんの」
「だいじょーぶだって!たっだいまー」
「…時任、家には誰もいないんだから律儀に言わなくても、」


誰も、いないと思ってた。
そこに広がるのはいつだって真っ暗な空間だったから。だから、今日もそうなのだと思っていたのに―――暖かな、光が見えた。


「おかえり、2人共」


そう言って笑っていたのは、愛しくて愛しくて堪らない人。
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