読めぬ意図


つゆりちゃんと出会って半月が経った。あれからバイトをしつつ、ちょこちょこと情報を色んな方面から集めているのだけれど、こう…決定的な証拠がイマイチ見つからないのだ。
そもそも佐久間先生達は何で殺されたんだろう?あの人達は何の仕事をしていたんだろう?2人にお世話になっていたのは今から13年くらい前のことで、その時に家にお邪魔していたけど…幼い時の記憶なんてひどく曖昧なもの。彼らが何をしていたか、なんて覚えているはずもない。というか、あの人達、仕事に関しては何一つ話してくれてなかったと思うしね。まぁ、中学生のがきんちょに自分の仕事を教える人なんて、そうそういないと思うけど…自分の子供じゃない限り。
つゆりちゃんに聞いてみても、仕事のことは何も話してくれなかったと言ってたのよね…それに家にはそれを予想できるような遺品も一切残っていないって。でも殺されたことは間違いない、ってことは―――何か、彼女にとっておかしな点があったということなんだけど。


「んー…!」
「ほたる、少しは休憩しなさい。はい、コーヒー」
「あ、ありがと久保くん…それと何か甘いものない?糖分補給しないと倒れそう」
「んじゃこれ食う?ロールケーキ」
「いいの?時くんが食べたくて買ったやつでしょ?」
「2個も食えねーし」


そう言うなら有難く、と早速かぶりつく。程良い甘さが口の中いっぱいに広がって、使いすぎた脳にも糖分が回っていくような気がする。うん、やっぱり疲れた時は甘いものだよねー幸せ。


「それで?何か掴めた?」
「微妙ってとこ…2人の死因に関してはネットでも公開されてるんだけど、どーも変な点はなかったみたいなのよね」
「でもあの子、…つゆりだっけ?アイツ、親は殺されたんだってハッキリ言ってたよな?」
「そう、そこが肝なのよ!どうして殺された、って断言できたんだろ…」
「…うん、それは俺も気になってた。これ見てみると、2人の死因は転落による頭蓋骨陥没…どう見ても事故だと思うよね?」


久保くんの言う通り、死因におかしな所は1つもない。ただ、それはネットで公開されているものだからもしかしたら警察の方で何かを隠してるのかも、しれないんだけどね。でもそれは今私達には探ることが出来ない…せめて、佐久間先生達の仕事さえわかったら何か見えてくるような気がしないでもないんだけど。
まぁ、2人の仕事に関してはとある人に情報集めてもらってるし、その結果を待ってみる他ないかなー。あとはつゆりちゃんに先生達が死んだのは事故ではなく、殺人だって断言する理由を聞いてみなくちゃ。平日は学校に行っているだろうし、週末にでも会えないか連絡してみよう。
チラ、と時計を見てみるとただ今の時刻は22時半。もしかしたら寝ているかもしれないけど、思い立った時にしておかないと忘れちゃう確率が高いし、メールしとこ。携帯を取り出して新規メール作成の画面を開こうとしたら、急に携帯が震え出して思わず投げましたものすっごい勢いで投げました。それはソファにぶつかってカラカラと音を立てて、フローリングの床を滑っていく。
私の不可思議な行動に久保くんも時くんもびっくり顔。いや、久保くんはいつも通り、あんまり表情読めないけど。


「ビビった…何だよ、ほたる」
「ご、ごめん…」
「はい、携帯。着信、つゆりちゃんからみたいよ?」


渡された携帯の画面を見てみれば確かにつゆりちゃん、と映し出されていた。こんな時間に電話なんてどうしたんだろう。
彼女から電話がくる理由がわからなくて首を傾げながらも、とりあえず通話ボタンを押してみた。その瞬間、耳に飛び込んできたのはか細い声で助けを求める彼女の声。


「どうしたの?何かあった?」
『あ、あの…何か変な音がするんです、お…お父さん達が使ってた、寝室から』
「変な音?」
『何か、棚の中をひっくり返しているようなガタガタッて音がずっと、』
「…つゆりちゃん、君、今何処にいるの?」
『自分の部屋のクローゼットの中に…』


泥棒…って所かしら。
久保くんに葛西さんに連絡を取ってもらうようにお願いして、つゆりちゃんにはそのまま動かないように指示を出す。息を殺して、そこにいるってことを悟られないように。それから携帯もサイレントにして、何か連絡したい時はメールにするように、と念を押した。
すぐに行くから待ってて、と口早に告げて電話を切った。


「つゆり、何かあったのか?」
「多分、泥棒だと思う。久保くん、葛西さんは?」
「連絡取れたよ、今から向かってくれるって。俺らも行くっしょ?」
「もちろん。時くんはどうする?」
「行く!」


簡単に出かける準備をして、大急ぎでタクシーを捕まえて彼女の家へと向かうことにした。





「でっか、…」
「ほたるは小さい頃に来てたんじゃないの?」
「此処じゃなかった。引っ越ししたんじゃないかな」


そんな話をしながらエレベーターで彼女の家がある階に上がると、もう葛西さんはご到着していた。どうやら非番だったらしく、部下の新木さんはいないし1人で来てるみたい。葛西さんの隣には怯えた様子のつゆりちゃんが立っていた。
声をかけて近寄れば、つゆりちゃんの表情が少しだけ緩んだような気がした。


「よう、中にいたらしい泥棒はもういねぇらしいぞ」
「そっか…つゆりちゃん、怪我は?」
「大丈夫、です、何とも」
「オッサン、何か盗られてんのか?」


時くんがそう問いかけると、これから確認してもらう所だとのことなので、私達も一緒に中へ入れてもらうことにした。
案内された先生達の寝室はものの見事に荒らされていた。ベッドも引っくり返され、棚や引き出しの中も全て引っ張り出されている。…あれ?通帳はそのままになってる…もしかして預金が入ってなかったから、そのまま置いていったのかな?何気なく開いたソレには預金額450万と記されていました。え、何でこんな額が入ってるのに置き去り?泥棒なら金目のものを持っていくはずよね?こんなお宝、置いていくはずがないのに…どうして?

そっと寝室を出て他の部屋を確認してみるけれど、あの部屋以外は綺麗なまま。全く荒らされた形跡がなかった。つまり、泥棒の目的は金目のものではないってこと…?でもそうだと仮定して、何を盗りに来たんだろうか。


「…先生達がナニかを隠していた、ってこと?」
「なにか?それって何だよ」
「それは私にもわからないけど、でもこれだけ荒らしてるのにお金が入ったままの通帳も銀行のカードもそのままなんだもん。ただの泥棒じゃあないでしょ」
「他の部屋も荒らされた様子ないもんね。明らかにこの部屋の主のモノを探してた感じはあるなぁ」


とりあえず、本格的に警察に調べてもらった方がいいってことで葛西さんが応援要請の電話をかけることになった。もしかしたら何か証拠が残ってるかもしれないし、そこから何か手がかりが見つかるかもしれないものね。…ということは、私達は警察が来る前に退散した方が良さそうね一般人だし。


「お前らは終わるまで俺の車ん中にいろ、その女の子…つゆりちゃん、だったか?話を聞くことになるだろうし」
「はーい」


葛西さんの指示に従い、私達は駐車場に停めてある葛西さんの車で一時待機することになった。本当ならつゆりちゃんも実況見分に立ち会った方がいいらしんだけど、怯えきってしまってるし、盗られたものがないかどうかはさっき確認してもらってるから問題ないだろう、ってことだった。…本当に大丈夫なのかな、それで。まぁ、何かあれば私達の携帯に連絡が入るだろうからいいか。
車に乗り込んですぐ、つゆりちゃんは疲れ切っていたのか私の肩を枕にぐっすり眠り込んでしまった。そりゃあ怖い思いしただろうし、心労も半端ないだろうね…仕方ないか。
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