掴んだ一つ星


結局、警察の実況見分が終わる頃には日付が変わっていた。夜は更け、時計は真夜中の1時を指している。うわお、マジですか…思ってたより時間かかるんだなぁ。って、簡単に済ませちゃったら証拠も何も見つからないか。
ふわ、と欠伸を1つ漏らした所で現場であるつゆりちゃんの家にいた葛西さんが戻って来た。全て終わったので私達を送ってくれるらしいのだけど…つゆりちゃんはどうするのだろうか。とは言っても、金目のものが目的ではないっぽい犯人がまたあの家に来ないとも限らないよね…それを考えると、このままあの家に彼女を1人置いていくのは少し危険だと思ってしまう。
警察で保護、というにはまだ証拠が不十分だし、動機もハッキリしていないから無理だろうな。となると、葛西さんの家で一時的に保護してもらうのが一番かな。そう思って葛西さんに提案をしてみたのだけれど、


「瀬上さん、の、家はダメですか…?」


か細い声で紡がれた彼女のお願い。幸い、久保くんも時くんも了承してくれたので急遽、我が家で保護することになりました。なので、急いで必要最低限のものを持ってきてもらって、葛西さんに家まで送ってもらうことに。
その道中、滝くんから連絡が入ってこれまた急遽、彼が家に来ることになったんだけどそれに関しては、久保くんが少しだけご機嫌ななめになりました。原因は恐らく、嫉妬。表情は変わってないけど、雰囲気が変わるからわかりやすいっちゃあわかりやすいんだよね…こういう時だけは。なーんでいまだに滝くん相手に嫉妬しちゃうかなあ?2人きりで会う約束をしたわけでもないのに。





「ちょっと煙草臭いかもしれないけど、一応シーツや枕カバー変えたから…私達はリビングにいるから、何かあったら来なさい」
「は、はい、ありがとうございます瀬上さん」
「…ほたる」
「え?」
「私も君のこと名前で呼んでるし、名前で呼んで。ね?」
「えっと、…ほたる、さん?」


ぎこちなくそう呼んでくれた彼女の頭を撫で、おやすみと告げてから部屋を出た。
さーてと、しばらく私と久保くんはリビングで雑魚寝かな。客人用の布団があるからそれを敷いて寝れば風邪はひかないし、体も痛くならないでしょ。つゆりちゃんは申し訳なさそうな顔してたけど、あの子を家で保護するって決めたのは私達だし、あんな顔しなくていいんだけどね。まぁ、自分から言ってしまったから―――っていうのは、多少あるのかな。やっぱり。

リビングのドアを開けば、さっき来たばかりの滝くんが時くんと楽しそうにゲームをしていた。別にそれはいいんだけど、滝くんや。君、当初の目的忘れかけてない?


「つゆりちゃん、寝た?」
「ベッドには入ったよ。でも車の中でも眠ってたし、すぐに寝ちゃうと思うけど」
「あ、瀬上ちゃーん。これ頼まれてたやつな」
「どーも」


受け取った資料は佐久間夫婦についてのもの。仕事とか、そういうのが一切わからなかったから滝くんに調べてもらってたの。こういうのは私より彼の方が得意だし、人脈もあるだろうって思ってね。もちろんお仕事として頼んだから報酬を、と思ってたんだけど、要求されたのはお金ではなく仕事のお手伝いでした。それで本人が納得してるなら全然構わないんだけどね。
それはさておき、早速もらった資料を読んでみるとしましょうか…ペラリ、と捲った先に記されていたのは名前や生年月日、それから出身地―――これはまぁ、ちょっと調べれば誰でも手に入れられる情報よね。私が知りたいのはそこじゃないんだ。
そのまま読み続けていくと、『研究者』の文字が視界を過った。これは私が知りたかったこと、の1つになりそうね。

『佐久間雄一。1955年5月15日生まれ。享年40歳。
24歳で製薬会社に就職し、後に薬開発部に移動となり研究者となる。それ以降は妻・美弥子と共に新薬の開発に勤しみ、1990年にはそれを完成させた。しかしその3年後、突如姿を消し、半年後に遺体となって発見された。死因は転落による頭蓋骨陥没。恐らく即死であったと思われる。
勤めていた製薬会社は裏でヤクザと手を組んで劇薬の開発をしていたと噂があり、佐久間雄一もその計画に関与していたと見られているが真偽は不明。
事故死と見られているが、彼らの体内から麻薬の成分が検出されたという情報有り。』

麻薬の成分が検出…?そんなのネットには一切出ていなかった。ということは、一時的に発表されたけど隠ぺいされてしまった可能性が高いわよねぇ。もしかしてつゆりちゃんが殺された、って断言したのはこれが関係している?
うーん…でも公に出ていない情報を、あんな子供が知り得ることなんかできないわよね?だとしたら、それ以外に何か先生達の身に危険が迫っていたってことになるけれど。

次のページを見てみても、これ以外に目ぼしい情報はなさそう…と思っていたら、一番最後の行に『この事件を担当していた刑事が1人、遺体が見つかってから1ヶ月後に不審な死を遂げている。』と書かれたのを見つけた。
刑事の不審死、ねぇ…関係ないかもしれないけど、もしかしたらこの刑事さんもつゆりちゃんと一緒で事故死ではないと感じていたのかもね。何かを、掴んでいたのかもしれない。


「俺の情報、役に立ったかい?瀬上ちゃん」
「ええ、十分よ。決定打ではないけど、手がかりになる」
「そりゃあ頑張った甲斐があったよ。また何かあったら連絡してきな」
「あれ、滝さん帰んの?」
「そろそろ夜も明けるからね、んじゃお邪魔しました〜」


玄関まで滝さんを見送り、再びリビングに戻った所でどっと眠気が押し寄せてきた。時間を確認してみればもうすぐ朝5時。そりゃあ眠くもなるよね…今日はバイトが休みで助かったかも。こんな寝不足の状態でバイトなんかしたら、途中で眠っちゃいそうだし。
ゲームを片づけている久保くんと時くんの後ろ姿を見ながら、ソファに倒れ込む。客人用の布団出してあるし、それを敷けばいいんだろうけど、…ダメだ、もうそんな気力ない。毛布に包まって寝てしまおう。


「ほたる、布団敷くからそっちで寝なさい。体痛くなるよ?」
「もー動けないんだもん…久保くん使っていいよ…」


それだけを口にして私はそのまま意識を手放した。
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