確実にまた一歩


「ん、…」


今、何時だろうと目を開くと、ふかふかの感触。寝る瞬間は確かにソファの上だったのに、気が付いたら布団の上で久保くんに抱きしめられていた。その腕を解いて体を起こせば、何故か時くんがソファの上で寝てるし。
…何でよ。君は自分の部屋で寝れば良かったでしょうに。久保くんと私はつゆりちゃんにベッド貸しちゃってるから、しばらくはリビングで寝る予定だけど。
あっそうだ!つゆりちゃん学校だよね?!此処からそう遠くない、って言ってたし、道もわかるようなこと言ってたけど…!


―――キィ…

「あ…ほたるさん、おはようございます」
「おはよ、つゆりちゃん。少しは眠れた?」
「はい、大丈夫です」


朝ご飯を食べる時間はあるとのことなので、食パンにチーズを載せて焼いて、インスタントのコーンスープで簡易朝ご飯の出来上がりー。本当はハムがあれば良かったんだけど、生憎きらしちゃってたんだよねぇ。今日、買い物の時に買い足してこよう卵も一緒に。そしたらハムエッグが作れるしね。
私はまだ眠気がひどくて食欲がわかないので、ミルク多めのカフェオレだけ。どうせ久保くん達が起きるのは昼近くになってからでしょうし、その時に一緒に食べればいい。食材がないから外食にはなるだろうけどね。
というか、つゆりちゃんを送り出したらもう一眠りしちゃおっかな…さすがに睡眠時間2時間ちょっとじゃ眠くて仕方ないもん。


「多分、大丈夫だとは思うけど気を付けてね。帰りはあんまり遅くなるなら連絡くれれば迎えに行くし」
「わかりました。その時は連絡しますね」
「ん。じゃあいってらっしゃい、つゆりちゃん」
「!…はいっいってきます」


初めて見せてくれた笑顔は、あの人達―――佐久間先生と美弥子さんにそっくりで。もう何年も会っていないのに、亡くなったことも知らなかったのに、寂しいって思うなんて…そんなの、都合良すぎんでしょ。


―――ぎゅう、

「なーにしてんの?玄関先で。体冷えちゃうっしょ」
「…何でもない。つゆりちゃん見送ってただけよ」
「そ?時任もまだぐっすりだし、俺らも寝直そ。…ベッド行く?」
「リビングでいい。起きた時くんが寂しがっちゃうもの」


ふあ、と欠伸をして、もう一度温かい布団の中に体を埋めることにした。





次に目を覚ました時にはもうとうにお昼を過ぎていて、久保くんと時くんの姿がなかった。バイトでも入ったのか、と体を起こしてみれば、ソファの上に書き置きがあった。えーっとなになに…『昼飯買いに行ってくる。』か、この字は完璧に時くんだろうなぁ。その間にシャワーと洗濯と洗い物、しちゃおうかなぁ。
着替えを用意してシャワーを浴びていると、玄関が開く音がした。それと同時に時くんの賑やかな声と、久保くんの穏やかでのんびりとした声が聞こえてきて帰って来たんだなーとぼんやりと思っていた。お腹も空いたしさっさと出て、ご飯にしよう。


―――ガチャッ

「おかえりー2人共」
「シャワー浴びてたのか、何処行ったのかと思ったぜ」
「水音聞こえてたでしょ?はー、お腹空いたー」
「色々買ってきたよ。甘いものも買ってきたから、後で食べな」
「やった!」


買ってきてくれたお弁当やらおにぎりやらを温めて、テーブルの上に広げていく。時くんが結構食べるから仕方ないんだけど、3人で食べる量じゃないよねこれ。まぁ、余ったら夕飯に回せばいいだけの話だから大して心配もしてないんだけど。
ご飯を食べながら、昨日滝くんが集めてくれた情報のことをかいつまんで2人に説明。本来なら私が受けた仕事だから久保くん達には関係のないことではあるんだけど、話せって言われちゃったら話すしかないでしょ?何だかんだ言って、情報集めるの協力してくれてるし…今となっては無関係、ってわけじゃないもの。


「じゃあ何だ?つゆりの両親はヤクザに殺された可能性があるってことか?」
「そういうこと。まだ可能性があるってだけで、確定じゃないけどね。不審な点も多々あることだし」
「不審な点?」


2人の遺体から麻薬の成分が検出された、という情報が一時的に出回っていたこと。でもそれは今となっては跡形もなくなっていること。そして、担当刑事の不審な死。
私が気になったのはこの2点だ。つゆりちゃんが事故死ではなく殺人だ、と断言していたのも気にはなるけど、こっちは本人に聞けばきっと何か情報が得られるはず。それより問題になるであろう不審点はこの2点だと思うのよね、だってどう考えたってどっちもおかしい気がするでしょ?
担当刑事の不審死は偶然かもしれないけど、遺体から麻薬の成分が検出されたことに関しては、何か裏で動いているような気がしてならないのよねぇ…うーん、調べたいけどどう調べようか。滝くんもこれ以上は調べられなくて、あんな曖昧な情報提供になったんだと思う。ってことは、調べようがない可能性が高いってこと。
…ひとまず、不審死を遂げた担当刑事さんの知り合いの人に話を聞いたり出来ないかなぁ。


「俺達じゃあ話を聞かせてもらうの難しいかもね。その辺りを詳しく知ってるのって、どう考えても同じ警察の人だろうし」
「そうよねー…どうしたもんかなぁ」
「オッサンは?同じ警察だし、何か聞き出せそーじゃん」


時くんの言葉に納得はしたんだけど、…私の個人的な仕事にあの人を巻き込んでしまうのは如何なものかと思ってしまう自分がいます。つゆりちゃんのことを話せば協力はしてくれると思うんだけど、ねぇ?
けど、今の所で情報が得られそうなのは葛西さんしかいないのは確か―――ではあるのよね。至極面倒なことを押し付けてしまう自覚はあるけれど、そうする他、今はどうにもできない。腹を決めてお願い、してみることにしましょうか。
ご飯を食べ終えてから葛西さんに電話をしてみれば、すぐに出てくれた。あらびっくり、この時間じゃあ難しいかなと思っていたんだけど。どうやらちょうどお昼休憩をとっていたみたいね。


『それでどうした?』
「あのですね…93年に遺体が発見された佐久間雄一と美弥子夫妻の事件って覚えてる?」
『佐久間、…ああ覚えてるぞ、事故死で片づけられた事件だな』
「その1ヶ月後にその事件を担当していた刑事さんが亡くなったっていうのは?」
『それもよく覚えてる。不審死で片づけられて、いまだに詳細がハッキリしていねぇが―――俺の、同僚だった』


まさか葛西さんとその亡くなった刑事さんに共通点があったなんて…これは思っていた以上の収穫が期待できそうだわ。
その人のことを詳しく聞いてみると、独り身で早くに両親も失くしてるらしく、身寄りがいなかったみたい。遺品に関しては一番親しかった葛西さんが一部を引き取っているとのことだった。その中にはその人が愛用していた手帳もあったんだって、葛西さんはその中身を見てはいないらしいけど…もしかしたら、佐久間先生達の事件のことが何か書いてあるかもしれない。


「…その手帳、見せてもらえないですか?」
『は?』
「詳しいことは会った時に話します、お願いします葛西さん!」
『……しゃあねぇな、ちゃんと話せよ?今日、仕事が終わったらそっちに行くから待ってろ』
「本当ですか?!ありがとう!」


これでまた何か手がかりを得ることが出来るかもしれない。それと昨日の泥棒の件もどうなったのか聞いてみよう、何かわかってるかもしれないしね。
- 32 -
prevbacknext