秋の味覚たち
久保くんも時くんも出かけていて、家にいるのは私1人だけ。時刻はもうすぐ17時になるところ、…ああ、いい加減夕飯の材料を買いに行かないといけないんだけど、今日は何にしようかなぁ。大分寒くなったからお鍋?でもまだ季節的には秋だからちょっと早い気がしないでもないんだよなぁ。
(こういう時、2人がいれば何が食べたいか聞けるのに…)
いつの間にか私の生活の中心は、久保くんと時くんになっていた。誰かと一緒に暮らすとか、過ごすとか、私には向いてないと思っていたのにねぇ。昔の私が今の状況を見たら、思いっきり驚きそうだ。私自身、どういう心境の変化なんだろう、っていまだに不思議に思うもの。
…うん、変なこと考えてないでさっさと出かけよう。そうしないと久保くん達が帰ってくるときにご飯ができてない!ってことになりかねない。重い腰を上げて出かける準備をしていたら、滅多に鳴らないインターホンが来客を知らせた。
ドアスコープで確認してみたら、何やら大きな段ボールを抱えた葛西さんだった。
―――ガチャッ
「葛西さん?!」
「よう、ほたる。今日はお前さん1人か?」
「あ、うん。2人は出かけてるんです。…それよりも、」
その段ボールはなに?と問いかける前に、重そうだし、上がるように促した。リビングにその荷物は下ろされたのだけど、本当に重そう…一体、何が入ってるんだろうか。
「あー…重かった」
「そりゃあこの大きさじゃね。これ、何が入ってるんです?」
「ん?まぁ、開けてみりゃあわかるさ」
それなら遠慮なく、とベリベリガムテープを剥がしてみると、中にはたくさんの食料。きのことか野菜とか、…あ、これ旬のものばっかりじゃない。わ、栗とかさつまいもとかもある…!果物もたくさんあるし。
んん?だけど、どうして一人暮らしの葛西さんがこんなに食材を買ったのだろう。この人、料理はそこまで得意そうじゃなかったし、普段は外食が多いって出会ったばかりの頃に聞いたことがあったけれど。
理由を聞いてみると、後輩が実家からたくさん送られてきたからおすそ分けです、と持ってきてくれたんですって。でもその量が本当に尋常じゃなくて、葛西さんの所属している課は独り身が多いから全く減らなかったみたい。皆でどうするか、って悩んでた時に新木さんが「久保田くん達に持っていったらどうです?」って言い出して。私達は3人で暮らしてるし、時くんも結構大食いだから消費できるんじゃなかろーかという安易な理由で、私達に白羽の矢が立った―――ということらしいです。
うん、まぁ確かに3人で暮らしてるし、時くんも食べる方だけど…それでもこの量は半端じゃないですよ葛西さん。そう零せばだよなぁ、とあの人も苦笑い。心の中ではそう思いながらも持ってきてしまった、という現状なのだそうだ。
…けど、食材達には罪はないし…言い出しっぺの新木さんも、持ってきてしまった葛西さんも別に悪いわけじゃないか。責める気持ちもないし。
「買い物行く前で良かったかも。今日の夕飯はこれで作っちゃお」
「味の保証はするぜ。リンゴとか柿は課の奴らと食ったが、甘かったぞ」
「へぇ、それは楽しみ!…そうだ、葛西さんもご飯食べて行きません?今日は非番なんでしょう?」
「いいのか?」
「うん。というか、消費するのを手伝ってもらえると有難いですし」
「あー…原因は俺だしな。…じゃあ、食べていくかな」
ついでだから調理も手伝ってください、とにっこり笑って告げれば、役に立てるかわからんぞ、と言いながらも上着を脱いでスタンバイしてくれました!こういう所、やっぱり優しいな〜って思うんだよねぇ。
2人でキッチンに並んで調理し始めて1時間。大量にあった食材は粗方減りました、それでもまだ結構な量が残ってるんだけど…野菜とか全部天ぷらにしちゃうのももったいないよねぇ。冷えちゃうとあまり美味しくなくなっちゃうし。これは明日以降に煮物とか、お味噌汁に使うとしようか。
「あれ、おっさんがいる!」
「おう、おかえり。時坊、誠人」
「おかえりなさい。もうすぐご飯出来るけど、お腹空いてる?」
「空いてる!何だコレ、めっちゃ美味そう!!」
「…どーしたの、この食材」
「後輩が実家から送られてきたんだと。それのおすそ分けだ」
「段ボールで?」
あはは、やっぱり久保くんもそこに目がいくよねぇ。時くんはもう料理の方にしか目がいってないみたいで、そんなこと全く気にしてないみたいだけど。
「さ、どうぞ。召し上がれ?」
「天ぷらめっちゃうめぇ!」
「それは良かった。葛西さん、後輩さんにお礼言っておいてください」
「ああ、わかった。伝えとく」
「それにしても、家に帰ってきてほたると葛西さんのツーショット見るとは思わなかった」
「キッチンに並んで立ってるとこ見ると、親子みてぇだよな」
「時坊、…それはさすがに傷つくぞ」
テーブルの上に並べたのは大量の野菜ときのこの天ぷら、かぼちゃの煮物、それからきのこたっぷりの炊き込みご飯(3合)なのだけれど…男3人が揃うと、このくらいの量は何でもないみたい。さすがに葛西さんはそこまで食べられないみたいだけど、時くんの食欲は相変わらず旺盛のようだし、久保くんも口に合ったのかいつもより食べているような気がする。
さすがに全部は食べきらないだろう、と思っていたんだけどねー…いつの間にかお皿は綺麗になっているし、炊飯器の中のご飯もあとお茶椀1杯分あるかないかってくらいしか残ってない。うん、さすがにここまでは予想していなかったなぁ。
「やっぱり旬なだけあってどれも美味しいよねぇ。あとでリンゴか柿を剥こうか」
「果物もあんのか?」
「うん。今、冷蔵庫で冷やしてる。あと栗ももらったんだよ」
「…ほたる、明日、栗ご飯作って」
「いいけど、…久保くんって栗ご飯好きなの?」
「―――…うん」
「ふふっじゃあ頑張って作るよ」
さつまいもは蒸かしておやつにしよう。きっと甘くて美味しいだろうから。
「…変わったな、お前ら」
「え?」
「急にどーしたの、葛西さん」
「いや…独り言だ、気にすんな」
「?変なおっさん」
未来のことなど、口にすることがなかった奴らが次のメシの話をしているだけでこんなにも、胸が熱くなるとはなぁ…本当に変わったよ、誠人、ほたる。