カミサマ


「…うわ」
「げ。」
「ひょわー…」


予想以上の人の数に私達はげんなりとした声を上げた。どっかの体育館が人で埋まってんのよ?それ見ただけで吐き気がするわ…興味本位で来るような人はいないでしょうし、全部入会希望者なんでしょうね。『ナニ』かに縋った所で運が良くなったり、救われることなんてあるはずもないと思うけどねぇ。けど、それでも縋らないと立っていられないような人がいるのも確か…か、こんなご時世だものね。それはきっと人間の性、なのかもしれない。
それにしても入り口で手荷物検査までされるとは思わなかったなー。そこまでして外部には一切知られたくないものなの?少しでも宣伝してもらった方が認知度はもっと上がると思うんだけど。…とは思うものの、実際は怪しいカルト集団だーとか色々騒がれてるからなーそれもあって念入りにしてんでしょ。徹底的に、ね。


「なぁ、俺達ちょー浮いてない?」
「うん、浮いてると思うけど…」

―――バタン!

「やー間に合った、間に合った!!」
「…それ以上に浮いてる人いるから、多分だいじょーぶよ時くん」
「だな。安心した」


久保くんの隣に座った胡散臭い感じの男。どう見ても入会希望者には見えないし、どっちかというと―――『邂逅の牙』を探りに来たような感じに見えるのよね。私達と同じように。
ふと耳に入ったのは取材関係者を追い出すスタッフであろう男の声。うーわ、本当に一切テレビや雑誌に実態を載せたくないんだねぇ、この人達。何だかますます怪しさ満載カモ。ついでに言えば、さっきの男もね…追い出された人達を見ながらこの人、「あーあ、マヌケだねぇ」って笑ったんだ。
関わりたくはないけどどーにも気になって仕方ない、この男性。もしかして、…新聞や雑誌の記者さんなのか?悶々と考え込んでいるうちに講習会が始まる時間になったらしく、会場の電気は落とされステージ上には綺麗なおねーさんの姿。あの人がこの団体のお偉いさん…みたいだね。
長ったらしく、どーでもいい内容のお話が延々と語られる中(講習会だからこういうもんなんだろうけど)、ふわりと甘い…でもどこかゾワリと悪寒が走るような香りが鼻を掠める。これ、あんまり吸わない方が良さそうかも。正確なアレはわかんないけど、カラダに良くないのは確実。
少しだけぼんやりとしてきた頭を軽く振った時、背中を丸めて口を押えている時くんが目に入った。


―――クイクイ、

「?ほたる、気分悪い?」
「私じゃない、時くん」
「ん?」
「…なんか、きもちワリ…」


久保くんと一緒に時くんを連れてトイレへと向かった。…とは言っても、私は生物学上、立派な女なので中に入ることは出来ないけどね。こればっかりは仕方ないのでトイレの外でお留守番です。
ああ、でもぼんやりとした頭ン中がクリアになってくのがわかる。吐き気も治まってきてるし、やっぱり会場内に漂ってたあの変な香りが原因かなぁ。主になってる香りはお香で間違いないんだけど、それに何かを混ぜていたと見て間違いないと思うのよね。今日の講習会は信者勧誘が目的だろうから、それを考えると―――…


「催眠剤の誘導体、…ってとこかなぁ」
「お、可愛いお嬢さんは勘が鋭いね」
「…貴方、さっきの」


音もなく現れた男。それはさっきまで久保くんの隣に座っていた、明らかに怪しい人だ。何故か壁に手を置き、私を逃がさないようにしているのは…何故かしらね?というか、何が目的なんでしょうか。
そのまま何も言葉を発さずに笑顔を浮かべた男を睨みつけてると、キィとドアが開く音がした。と、同時にふっきげんそーな時くんの声が聞こえました。会場の外に出て気分も良くなったみたいね、良かった良かった。


「出口で入会手続きしてくだろ、お宅らも」
「―――あんた誰?てか、ほたるに何してんだよっ!」
「おいで、ほたる」

―――グイッ

「っとぉ…?!ちょ、久保くん、急に引っ張ると危ない!」


てか、何で君まで不機嫌MAXなのよ久保くんや。そして引っ張られた勢いで男子トイレに入っちゃったんだけど、これ大丈夫?私、訴えられたりしない?
んまぁ、それは置いておくとして…だ。どうやら私達は5日前に街中ですれ違ってるらしい。臨時のバイトを終えた帰り、時くんが宗教勧誘に捕まった時に。あの時は確か、2人が「それギャグ?」ってツッコミいれてたのよねー私も思わなかったでもないんだけど。どうやらこの人はそれを見ていたらしく、ナイスツッコミしていた彼らがこんな講習会に参加しているから興味を引かれたんだって。
ふぅん…けど、ただすれ違っただけの私達の顔、覚えてるものかしら?記憶力がすごいってだけかもしれないけど、それにしてはおかしいわよね。だってそれだけなら声をかけてくる必要なんてないんだもの。


「それ―――職業柄?オニーサン」
「そういうこと。―――こんなオニーサンに協力してくれるならァ何でも好きな物オゴってあげよう!」


渡された名刺に書かれていたのは、アサニチ新聞という文字。


「やっぱり、」
「そっちの人ね」
「名前は『滝沢亮司』―――さん?」
「タッキーって呼んで」
「それは嫌。」
「却下に決まってんでしょ、阿呆なんですか」


何はともあれ、ちょっとお話を聞く為に近くのファミレスに移動することにしました。どうやら本気で奢ってもらうつもりらしーよ、この2人。確かにお腹は空いたような気もするけど、協力してくれたら…とか何とか言ってたわよね?一体、私達に何をさせるつもりなのかしら。
頼んだご飯やデザートを頬張ってると、スッと出された1枚の写真。そこに写っていたのはさっき講習会で演説していた、


「三ツ橋佳代…だったっけ、さっきの宗教団体の幹部代表だってパンフに書いてありましたね」
「この教団は教祖ってモンが存在しないから、彼女が事実上のナンバーワンってカンジだわな」
「てゆーか、おミズの姉ちゃんみたいだったぞ」


彼女について詳細を聞いてみると、時くんの勘は当たってた。この人、26歳で大手企業の事務職を辞めてから新宿のクラブで5年間働いてたんだってさ。
でも面白いのはココからだ。4年間の空白をおいて2年前、突然カルト集団の広報重役になったんですって。何故2年前なのかというと、この団体って元々長崎の宗教法人を買い取って立ち上げた団体らしいのよ。たった2年でこれだけ組織拡大してるから謎や不審点も多いそうで。

―――あ、私、なんとなーく話が読めてきちゃったカモ。


「この人、暴力団幹部かなんかの愛人だったんでしょ」
「さっすが頭の回転早いね〜瀬上ちゃん!どォ?興味あるでしょ。俺に協力する気になった?」


するわけないでしょーうっさんくさい。


「ごちそーさまでした。ほたる、帰るよ」
「ん。…あ、帰りにコンビニとドラッグストア寄ってもいい?」
「いいよ」
「ダメダメ!それじゃ食い逃げじゃんか人としてどーよソレ!!しかもなに世間話まで始めちゃってんの!」
「うっさんくさいんだよな〜俺達に何を協力しろっての?」


オニーサン曰く、この教団の内部を探る人手が欲しいとのこと。それも絶対に呑み込まれないコマが、ね。このオニーサンが同業者を信用できないとか、そんなことはどーでもいいんだけど…宗教的概念に呑まれて洗脳状態に陥らないような屈強な精神が絶対条件とかさーわからないでもないけど、1つだけわからない。
どうして、私達が大丈夫だって思ったのか。


「俺達が何の目的で教団に近づいたのかも言ってないんだけど」
「それも大いに興味深いけどね。利害関係は一致してるんじゃないの?―――お前さんにもわかるでしょ」


自分だけの神様持っちゃってる奴。
ニヤリ、と笑みを浮かべて投げかけられた言葉。それは一体、誰に向けたものだったのだろう。私?時くん?それとも―――久保くん?
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