どんな時も


色んなことがあった実戦訓練の翌日。
私は雪くんからもらったカタログを机の上に所狭しと並べていた。今までは隠れて読んでたんやけど、ね。
昨日の一件でタツ達にも知られてもうたし…ま、隠す必要もないかなて。

そもそも隠してたんは、きっと反対されるやろと思ってたから。余計な心配をかけてしまうと思ってたから。
心配してくれるんは嬉しい。でも悲しい顔をさせてしまうんはどうしても嫌や、タツにも廉にもねこにも…笑っててほしいてずーっと思ってる。
せやから時が来るまで黙っていよ思て、雪くんにも内緒で色々教えてもろてたんや。
でもなぁ…黙ってた方がタツ達を不安にさせてしもた、なーんて…昨日まで気ィついてなかったわ。


「なに広げとんのや、…カタログ?」
「あ、タツ。せやねん、雪くんにもろたやつ」
「…あぁ、銃器のか。前にこそこそ見とったんはこれ?」
「こそこそて…人聞き悪いなぁ」
「せやかて、ほんまのことやろ?さすがにあれは傷ついたで」
「う、…堪忍」


まぁ、ええけどなーってニヤリと笑ったタツ。
いつもより少しだけ意地悪い笑みを見て私も一緒に笑うけど、けど、あん時の泣きそうな顔を思い出して…胸の奥がズキン、と痛んだような気がした。
隠し事をしたことがないわけやない…タツかて私に全部話してるわけやないやろし、全部言わなあかんわけでもない。
それでも―――1つの隠し事が、タツにあんな顔をさせてしもたんも事実。
初めて聞いたんや、タツのあんなに悲しそうな声。懇願するように、縋るように抱き着いてきた腕も初めてのもんで…動揺した。


「(あんな顔、させるつもりなかってん…せやけど、上手くいかんなぁ)」


さっきまで私の後ろからカタログを覗きこんでたのに、気ィついたら隣の席に座っとってちょっとだけびっくりした。
けど、当の本人は真剣な顔でカタログを眺めとって…そこで初めて、タツの志望も竜騎士だったことを思い出した。そりゃ真剣に見るわな、まだ竜騎士の授業は始まってないけど。

んー…でもタツやったらどんなんがいいんやろか。力ある奴やし、ショットガンとかかなぁ。
あ、でもバズーカとかも似合いそうやなー…デメリット多いけど。


「…なぁ、神楽」
「んー?」
「何で竜騎士志望してること隠しとったん?」
「はは…やっぱり聞いてきよったか、それ」
「当たり前やろ。…で?」


勝呂さん…目が怖いです。


「志望の届けは前に出してしもたやろ?志望増やしたんも京都でのことがあったからで、…んーと、せやから、まだ言うことでもないかなぁって思っててん」
「おん」
「なんちゅーか…私、志望増やしたで!って言うのも変やって思ったのも1つ、かな」
「…肝心な理由、また別やろ?」


その一言で私はビシッと固まってしもた。
前々から鋭い奴や、とは思っとったけど、そんなとこまで気ィつかれてるとは正直思ってなかったんやけどね。…ほんま、隠し事が出来ん相手や。

溜息を1つ吐いて、私はタツに向き直る。向き直って初めて、タツの真っ直ぐな瞳が怖いて思った。
射抜くような真っ直ぐさが、鋭さが、胸の奥んとこまで突き刺さってるような気がして…逸らすことが出来ん。カッコいいと思う反面、こん瞳に拒絶されたらとか考えてまう。


「怒られる、て、思ってん。反対されるて思ってん…せやから、」
「言えへんかった?」


下を向いたまま素直に頷けば、長い長い沈黙が流れる。痛いほどの、沈黙や。
それを苦痛に思ったことなんて今まで一度もなかったけど、それを初めて感じてたりします…あかん、これめっちゃ気まずい…!!!
いや、私が悪いんやろうけども!ああもう、怒って構わんから何か言ってくれタツ…!!怒られたいわけやないけど。

どれくらい沈黙しとったやろか。不意に溜息が、聞かれた。
…あぁ、呆れられてしもたんやね…スカートを握る手ェに力がこもる。


「お前はほんまもんの阿呆やな」
「………は?あ、あほ…?」
「せや。アホやアホやとは思っとったけど、ここまでやったとはなぁ」
「な?!そ、そんな哀れな奴見るような目をせんでも!」
「しゃーないやろ、お前がアホなんやから」


またアホって言うた!!そないに連呼せんでも、1回言われればわかるわ!何回も言われな理解出来ん程やないっちゅーの!!!
てか、京都でも連呼されたわ!そして叩かれたわ。…あれは完全に私が悪いから、反論出来んけど…!
あん時は自分でもやってしもた、て自覚あったからな。


「うう、ひどいわぁタツ…」
「それは―――自分もやろ、神楽」
「へ?」
「お前がしたいこと、やりたいこと…俺が否定すると思ってた、てことやろ?そういう奴やって思っとったってことやろ?」
「あ、…」


そう言われて、初めて私は自分の過ちに気ィついた。
また無意識にタツを傷つけてしもたことに。


「ちゃ、ちゃうねん!そんな風に思ったこと、一度も…!」
「…わかっとる。そういう奴やない、思ってないてことはわかっとる、つもりやけど…」


それでもやっぱり、傷つく。
言ったタツの顔は見えんかったけど、けど、きっとあん時みたいに泣きそうな顔をしてるんやろなって想像するのは容易で。


「心配かけたない、って思ってくれたんやろ?」
「…お、ん…」
「せやけど、俺から言えばそう思うんなら、尚更言うてほしかったわ」
「どう、して?」
「そんなん、…神楽がほんまにしたいこと、やりたいことは背中押してやりたいやんか」
「っ!」
「まぁ…心配がないわけやないで?京都での一件もあるしな。けど、それを頭ごなしに反対なんてしたないし、それを決めるまでにもいっぱいいっぱい考えたんやろ」
「…何でそこまでわかるん…」


不貞腐れた顔でそう告げれば、何年幼なじみやってると思ってんねんと頭を小突かれた。
お前が俺のことを理解してくれてるように、俺だって理解してるつもりや…とかまで言われて、髪の毛が乱れるくらいぐしゃぐしゃに撫でられた。


「それに竜騎士目指すんを反対するなら、正十字に通うこと、祓魔塾に通うことから反対してるっちゅーねん」
「ふは、…それもそうやね」
「一緒に頑張ろ、なんて甘くもあらへんし、綺麗なモンでもないけど…それでも、お前の隣に立つんはいつだって」


―――俺で、ありたい。
凛とした瞳でそう言い切ったタツの本心はわからへん。でも、それが嘘ではないていうことだけはわかる。
今はそれだけでええ。私がこのお人の隣におることが許されるんやったら、それだけでかましまへん。
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