呼び名


ほんまに燐くんはいつでも唐突や。


「なー神楽ー」
「うん?」
「何で勝呂のことたつって呼んでんの?」


…ほらな?今だって。


「何で、て…なんで?」
「質問に質問で返された?!」


や、せやかて何で今更呼び方について聞かれんのかわからんもん…出会った頃ならまだしも。
夏休みも過ぎて、出会った日から4ヶ月は経ってんのやで?疑問にも思うやろ。
てか、廉やねこにもツッコまれたことなかったなータツって呼んでんのは何でか、なんて。…ま、幼い頃からずーっとこの呼び方やし、疑問にも思わんか。


「いや、勝呂の名前ってりゅうじって言うんだろ?」
「何でひらがな、…まぁ、ええか。せやね」
「どこにもたつって呼ぶ理由、ねぇよなーって思ったら気になっちまって」
「理由、なぁ…」


私の返答を待つ燐くんは目ぇをキラキラさせとるけど、そないな立派な理由があるわけやない。酷い…独占欲、みたいなもんで。
あ、あれ?これ、…今思い出しても人に話せるような理由あらへんぞ…?
てかごっつい恥ずかしくなってきた!!ああもうっこないなこと聞かれるんやったら、私も廉やねこみたいに坊呼びに変えとけば良かった〜〜〜〜!!!

ぐぬぬ、と頭を抱えて唸ってれば、珍しく心配そうな燐くんの声が聞こえた。
…あ、せや。燐くんと話しとる最中やったんやっけ。うっかり忘れかけとったわ…あかんねぇ。


「うー…しょーもない理由、なんよ」
「しょーもない?」
「そう、えろう下らなくて…しょーもない、私の醜い感情や」


ちっさい頃、おば様にタツの名前ってどんな字書くん?って聞いたことがあったんや。
ほんで「竜に武士の士でりゅうじ、って書くんよ」って教えてもろて。そしたら竜がたつ、って読むこともあるんやって聞いて…ああ、それなら誰も呼んどらん、って思ってん。
竜士はおじ様とおば様が呼んではるし、坊は明陀の皆が呼んどる。…きっとな?私だけの呼び名が欲しかってん。
だーれも呼んどらんくて、私だけの…特別な呼び名。
最初はな?竜士、って呼んでたんやけど、それを聞いてから今の呼び方に変えたんや。


「…な?しょーもない理由やろ?」
「そうか?」
「え?」
「神楽はそれだけ勝呂が大切で、好きだってことなんじゃねーの?」


誰かをそう思うことは、別にしょーもなくねぇし下らなくもねーだろ。
燐くんがあっさり私の醜い感情を下らなくない、って言うはるから…びっくりしてしもた。
けど、この子ぉは嘘つけるタイプではないし…きっと本心。
真っ直ぐ過ぎる彼の言葉が、ゆっくりゆっくりと私の胸に染み渡っていくような気がした。…なんやちょっとだけ、ホッとした?かも。
あ、ちょぉ違うか…ようやく何であんなにもタツって呼びたかったんか、理解できたんや。
私はきっと、あん頃からずーっと好きやったんやね。タツのことが。
だからあのお人の特別になりたかったし、逆に私の特別でいてほしかったんやと思う。うん。

あは、十何年経って気ぃつくとか…私はどんだけ阿呆やねんなぁ。
好きになったんは最近や、と思っとったけどそうやなかったんやね。ほーんま鈍いやっちゃなぁ、私も。


「あー、でもそっかぁ。神楽と勝呂って仲良いなーって思ってたけど、そういう気持ちもあったんだな」
「…あかん。これ、思っとった以上にハズい…!」
「いーじゃん!誰かをそーやって思えるのって大事だと俺は思うけどなー」
「や、別に恋愛することがハズいとかじゃなくて…き、君にそれが知れたことがハズいっちゅーとんのや!」


成り行き上、仕方なかったとはいえ…こん気持ちがバレてしまうのは、やっぱりハズいねん。てか、燐くんって意外と勘が鋭いんやね…。


「あっお嬢はっけーん!」
「志摩?」
「なんや、奥村くんと一緒やったんですね。捜しましたえ」
「へ?私を?なんで?」
「若先生が呼んでんのや。携帯に何度も連絡したんやで?俺らも若先生も」


…あ。ケータイ、教室に起きっぱや…!


「おーまーえーなぁー…」

―――ギリギリギリッ…

「いったあああぁあああ?!タッタツそれ痛いからやめえぇええ!」
「いっつも言うとるやろ!お前はすぐフラーッとおらんくなるんやから、携帯はしっかり持っとけや!何の為の携帯やねん!!」
「ごめんてええぇええ!!!」
「…ったく…ほれ、若先生待っとんのやから行くえ!」
「え、タツも行くん?」
「俺も呼ばれとんのや。ほんならまた後でな、志摩、子猫丸、奥村」
「いってらっさーい」
「はい、また後で」
「じゃーなぁー勝呂、神楽!」


さり気なく繋がれた手は、あん頃と変わらぬ優しさと温かさ。
外見は年月が経つごとに変わっていくけど、これだけは…何十年経とうとも変わらんねぇ。
…タツはいつか、この呼び名の意味に気ィつくことがあるんやろか?
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