とある少女
正十字学園―――――
一風変わった理事長が経営する学園。そしてその中には、悪魔を祓う祓魔師を目指すことの出来る祓魔塾も存在する。
これは正十字学園に通い、祓魔師を目指している…とある少女の数奇なる日々の記録。
「神楽ー!これ何でこうなんの?!」
「……奥村くん。コレ、昨日も教えた基礎中の基礎なんやけど」
「れ?そーだっけ?」
「はぁ…。今日は教えたるけど、明日また忘れとったらしばきますよ?」
「?!!」
「何回教えたっても覚えん奥村くんが悪いんよ。ほらシャーペン持ちぃな」
私の名前は佐伯神楽。言葉でわかると思うけど、京都出身。
お世話になってる方達の反対を押し切って、今年の春から正十字学園に通ってるんよ。
何でわざわざこの学校を選んだんかって?…此処にはね?祓魔師を目指す為に勉強する、祓魔塾っちゅーもんがあるから。
だから京都を離れて、この学園を進学先に選んだっちゅーわけ。
祓魔師になるのが…私の夢、やから。もっともっと頑張って、称号を取得して、一人前の祓魔師になって…京都に戻るんが夢であり、目標。
京都から出てきたから、当然寮暮らし。一人暮らし出来るお金も、技量もないから仕方ない。
それに寮で暮らすんも、意外と楽しいしね。この学園に寮があって助かったわぁ。
「おはよー!2人共、早いね」
「はよー、しえみ」
「しえかて早いやんか。おはよぉ」
この2人は祓魔塾の塾生。男の子が奥村燐くんで、女の子が杜山しえみちゃん。
2人共、素直でとても良い子なんよね。特にしえは可愛いし。
「あ、もしかして予習してるの?」
「ちゃうよ。高校で出された課題」
「明日までなんだけど、どーーーしてもわかんなくてさ!神楽に教えてもらってたんだ」
「そうなんだ。…祓魔塾の勉強とは、また全然違うんだね」
「そら、扱ってるもんが全然ちゃうからねぇ…あ、奥村くん。そこ間違ぉとるよ」
しえと話しながら、奥村くんが奮闘中の式を眺める。
そして自分の予習(高校のじゃなく、塾のやけど)にも手をつけて……私、そないに器用やないんだけどなぁ。何とかなるもんやね。
てか、この塾に入ってからー…というか、高校に入ってからなんやけど人に教えることが多くなった気ィするわ。
奥村くんを筆頭に、しえに廉やろ?それから時々、出雲ちゃんとねこ…あぁ、タツが聞いてくることも増えたなぁ。
中学の頃はタツに教えてもらう方やったのに。私も。…本音を言うと、人に教えるん嫌いなんよね。面倒だから。
そもそもタツの方が上手いと思うんやけど…人に教えるんは。
「神楽、これでいいのか?」
「うん?ちょぉ待ってなー……ん、大丈夫。合っとるよ」
「よっしゃ!これで全部終わったー!マジでありがとなー神楽!」
「こんくらい構へんよ」
「神楽ちゃんの教え方、すっごくわかりやすいもんね!燐っ」
「おう!俺でもわかるもんな」
「褒めても何も出ぇへんよ〜」
塾が始まるまでまだ時間あるな…飲み物でも買うてこよ。
―――ガタッ
「ちょぉ飲み物買うてくる」
「おー」
「いってらっしゃーい」
さぁ、何を飲もかなーと考えながら廊下に出た所で声を掛けられた。
振り向いてみれば、タツと廉とねこがおった。
「おはよーさん、3人共」
「嫌やわ、お嬢!クラス一緒やないですか!!てか、何で先に行ってしもたん〜?」
「奥村くんと先約あるって昼に言うたやないの…気色悪い言い方せんでよ、廉」
「そんなことより神楽さん、何処行きはるん?もうすぐ塾始まりますよ?」
「あぁ、うん…でもまだ時間あるやろ?喉渇いたから飲み物買うてこよと思って」
「ならコレ飲み。お前好きやったろ?」
タツが差し出してきたのは、パックのいちごみるく。昔からよく飲んでる、私お気に入りの飲み物やったりする。
これしか飲まん!って勢いで飲んどるから、私が好きなん知ってるのはおかしないけど…何でタツが持っとるんやろ?甘いの、あんまし得意やなかったと思うけど…。
そんなことを考えながら、ボーッといちごみるくを見つめとったら、えっらい低い声で「いらんのか」と言われた。
もう慣れっこだから全然怖ないけど、相変わらず短気な子ぉやねぇ。
「有難く頂くけど…何でタツが持っとるん?あんた、いつも茶ぁか水しか飲まへんやんか」
「間違って押してもうたんや。捨てるんももったいないやろ」
「…それもそうやね。おおきに」
「おん」
プスリ、とストローを差して一口飲めば、いちごみるく特有の甘さが口の中いっぱいに広がって。
さっきまで奥村くんの課題の手伝いや、塾の予習で使いに使った脳に染み渡る気ィするわ。やっぱりコレが一番美味しいわぁ。
甘いモノとかいらしいモノには自然と笑みが零れてまうんよねぇ。
まぬけな顔になりがちやから、気をつけてはいるんやけど。
「お前、ほんまにそれ好きやな…ちっさい頃からずっと飲んどる気ィするわ」
「美味しいやんか、いちごみるく」
「甘ったるぅて飲めん」
「坊は甘いもん得意やないですからねぇ」
「お嬢、一口くれん?俺も喉渇いたわー」
「嫌や。あんたかて飲み物持ってるやろ?それ飲みぃ」
ベーッと舌を出して、そそくさと教室に戻る。
予習する為に出した教科書や筆記具を出しっぱなしやし、そろそろ先生が来る時間やったしね。
後ろから廉の情けなぁ声と、恐らくタツが廉のことを殴ったであろう音が聞こえた。きっとねこは苦笑いしとるんやろなぁ…あの子も間に入ってなきゃいかんから大変やわ。
タツ、廉、ねこ…3人とは所謂、幼なじみっちゅーやつ。もうわかっとると思うけど、私と同じ京都出身。
私がタツって呼んでるのは、勝呂竜士。
他の2人は「坊」って呼んでるんやけどね。何故なら、明陀宗座主血統の家に生まれとるから。いずれ、明陀宗の一番上に立つお人なんよ。タツは。
見た目はいかついし、ピアスしとるし、真ん中だけ金髪のソフトモヒカンやから怖がられることが多いんやけどね?全然そないなことあらしまへんの。すごく優しいし、面倒見が良い兄貴肌なんや。礼儀正しいしね。
次は廉。こいつは志摩廉造って言って、明陀宗僧正血統の家の末っ子。
女の子はピンクが好きやから、っちゅー阿呆な考えから髪をピンクっぽい茶色に染めたらしい。
確かに昔っから女の子大好きなスケベやったなぁ…(遠い目)
それに面倒くさいことが嫌いで、飄々とした性格の奴なんやけどー…何や憎めん奴。それなりに頼りにしてたり、してなかったり…やね。
最後はねこ!三輪子猫丸。私らん中で一番小さくて、一番温和で、そして一番心優しい子。
4人でいる時はなだめ役にまわることが多いんかなぁ?私もタツも短気で喧嘩っ早いから。
少し気が弱い面もあるんやけど、芯はしっかりしとる。…ねこは強い子ぉなんよ。あ、でも猫好き過ぎるんはたまーにキズ、やね(苦笑)
まぁ、何が言いたいんかいうと…自慢の幼なじみっちゅーこと!
面と向かっては言えんけど、住み慣れた京都を離れてこの学校に通っていられるのも、塾で頑張れることが出来てるんも、3人が一緒やからなんよ。私一人じゃ―――こないな笑っておれんもん。
昔っから支えになってくれとるタツらがおるから、私はこうやって前を向いておれるんや。
…死ぬまで言うたらんけどなー、絶対に。恥ずかし過ぎるわ、こないなこと。
―――ガラッ
「授業始めますよ、席に着いて下さい」
「あ、若先生や。おはようございますー」
「はい、おはようございます」
「神楽、隣空いとる?」
「おん、空いとるよ〜座りぃや」
奥村先生が来て、それまで好きなことしてはった皆もガタガタと席に着く。
私の隣にはいつも通り、タツがいて。後ろの席には廉とねこがいる。そしてその周りには、同じように祓魔師を目指す仲間達。
いつもと何も変わらん…日常の風景。結構、気にいっとる風景だったりするんや。