よからぬ噂


「佐伯さん!初めて会った時から、ずっと好きでした!僕と付き合ってもらえませんか?!」
「気持ちは嬉しいんやけど…堪忍な」


苦笑気味にそう告げれば、「ありがとうございましたああぁああっ!!!」と泣きながら去ってゆかれました。…何で泣くん?私が悪いみたいで、もやもやするんやけど。
てか、この時期は告白ブームか何かなの?この3日間くらいで何回呼び出されたかわからんくらい、同じような台詞をぎょーさん聞いとる。
いい加減、うんざりしてきたわ…お昼食べる時間がなくなるやないか。


「相変わらずやなぁ…」
「あ、タツ。何、迎えに来てくれたん?」
「おん。はよ食わんと午後の授業始まるで」
「もうそないな時間?!うえー…まだ購買行っとらんのにぃ」


寮暮らしな私は、お昼はいつも購買。
自分でお弁当とか作れれば、経済的にも楽なんやけどー…寮のキッチンは勝手に使えへんからなぁ。買うしか手がないんや。
やけど、今日は昼休みになった途端に呼び出しくらったから、まだ買いに行けてない。しかもこの学園の購買、やたら混むし、ぎょーさん人が来よるし、すぐお弁当やパンがなくなってしまうんやもん。

はぁ…今日ももう、なーんもないんやろなぁ。でもお昼抜きなんて耐えられんし、どないしよ。


「そんなことやと思ったわ。ほれ、俺ら3人から神楽に差し入れ」


渡されたのは、焼きそばパンとクリームパンとメロンパン。オマケにいちごみるく!
わーい!私の好物ばっかりや!…甘いものばっかりなんは気にせんといて。
さすがに3つは食べきれんから、焼きそばパン食べよかな。

行儀悪いのは百も承知で、歩きながら焼きそばパンに齧りついた。
残りのパンといちごみるくは、タツが持ってくれとる。こういう所が優しくて大好きなんよね〜。見かけによらず、やけどなぁ。


「んー!美味しい〜!」
「1個で足りるんか?今日、塾もあるんやで」
「今は時間ないし、これだけでええわ。あとはHR終わったら食べる」
「さよか」


タツと一緒に教室に帰れば、廉がニヤニヤ笑っとった。
…なん?気色悪い。


「坊、神楽さんおかえりなさい。パン食べました?」
「おん、食べたよ〜ありがとぉな。…で、廉?その気色悪い顔はなんやの?」
「気色悪いて!!お嬢ひどい!!!」
「ほんまのこと言って何が悪いんよ」


ん、いちごみるく美味しい。


「で、ほんま何ニヤケとんのや志摩」
「せや!お嬢はモテはるな〜と思って」
「神楽さんは小さい時から人気でしたよねぇ。中学くらいからひどくなりはった気ィしますけど」
「…あー、せやな。ねこの言う通りかも」
「さっすが俺のお嬢!!」
「じゃかしい。誰がアンタのモンや」


―――バコンッ

飲み終わったいちごみるくのパックを握りつぶして、廉の顔に思いっきり投げつけてやった。
それも至近距離で。私ら4人共、席が近いからね。




―――放課後の祓魔塾。

少し授業が早く終わった私達は、早々に塾の教室へとやって来た。
私は残ってるクリームパンとメロンパン食べたかったし、タツは予習したそうやったし。
…あ、塾で出された課題でわからんとこがあったんや。今のうちにタツに聞いておこかな。


「なぁ、タツ。暗記してること悪いんやけど」
「食い終わってから喋れや…なん?」
「(ごっくん)…昨日出された課題でわからんとこあって、ちょぉ聞きたいんよ」
「珍しな、お前がわからんなんて。何処や」
「ここ」
「…あぁ、これな。これは―――」

―――バッターンッ!!!

「「神楽(ちゃん)来てる?!」」


わからんかったとこを聞こうとしたら、けたたましい音を立ててドアが開きました。
その先にいたのは奥村くんと、しえ。奥村くんは普段から騒がしい子やけど、しえがこない走って来るなんてどないしたんやろか?
てか、私の名前呼びはったよね?え、2人に何かしたような記憶はないんやけど…ほんまに、なん?


「お嬢なら此処におるけど…どないしはったん?」
「えらい剣幕ですねぇ」


いや、ほんわかオーラ出しとる場合ちゃうで?ねこ。そのオーラはめっちゃ和むけど、今はそんな場合ちゃう気がする。
廉が指差した先におるのは、もちろん私で。
バッと勢い良くこっちを向いた2人は、ずかずかとこれまたえらい勢いでこっちまで歩いてきはった。
今まで見たことない2人の剣幕に、さすがのタツと私も放心状態。これでもある程度のことには動じない鋼の心を持っとるつもりなんやけどなぁ。


―――バンッ

「神楽!」
「神楽ちゃん!」
「はっはい?!」
「な、何なんや…奥村も杜山さんも」


名前を呼んだっきり、何も言わん2人。
でも表情はえらい怒ってはるように見えて、何や知らんけど冷や汗出てきよった。
何故かドキドキしながら待っていると―――


「神楽ちゃん見知らぬ男の人に襲われたって本当?!!」
「はぁ?!!!」


しえのぶっ飛んだ質問に私は素っ頓狂な声を上げてしもた。


「ちげぇよ、しえみ!5股かけてて、それがバレて訴えられたんだろ?!」
「はああぁあ?!!!」


奥村くんの質問もぶっ飛んでて、今度は素っ頓狂な声だけでなく、椅子をぶっ倒して立ちあがってしもた。
てか、何やの?!そのしょーもない噂みたいなんは!!!男の人に襲われた覚えはないし、5股かけてた覚えもないんやけども?!
そもそも、しえは高校に通ってないはずなのに何でそんな噂を知っとるん!そっちのが不思議やわ!


「えっお嬢、そうなんですか?!それなら俺も相手してぇなー」
「ドアホ!!そんなんするかいなっ!それ以上、阿呆なこと言いよったら本気でどつくで廉…っ!」
「まぁまぁ、神楽さん…少し落ち着いて下さい。多分、しょうもない噂でっしゃろ」
「あ、やっぱり噂なの?」
「当たり前やんか…ほんまに襲われとったら、私此処におらへん」


ほんま何やのよー…頭痛くなってきたわ。


「…あぁ、せやから何やジロジロ見られとったんか」
「そう言われてみれば、昼休み後からえらい視線感じてはりましたねぇ…お嬢への」
「ええ…?そやった?」
「相変わらず、自分のことに関しては鈍感やのぉお前は」
「せやかて、自分のことには興味あらへんもんー…」
「噂だろうなって気はしてたけど、学校中で噂になってるみたいだぜ?すげー騒ぎ」


ええええぇえ…すごい騒ぎって、ますます面倒なことになってはるやないの!
しばらく学校、来たないんやけど…あかん?


「でも、どうしてそんなことになってるのかな?神楽ちゃんは何もしてないのに…心当たりある?」
「……心当たりがないわけでもないんやけど」
「なん?言うてみぃ」
「ここしばらく呼び出し多かったやろ?」
「おん」
「多分、それ」


ズキズキと痛み出したこめかみを押さえて、簡潔にタツへ告げる。
でもそれだけではわからんかったらしく、珍しく首を傾げてる姿が視界の端に移りよった。
…ま、ずいぶん説明省いたからなぁ。いくら付き合いの長いタツでも、これじゃあわからへんか。

一から説明するとこうや。ここしばらく、告白してくる輩が多かった(前からおったんやけどね)。
呼び出される回数が増えていくのと同時に、女の子からの呼び出しも増えていきよる。
用件はー…詳しゅう説明せんでもわかるやろ?女子高でもない学校で、女の子が女の子を呼び出す用件なんて1つしかあらしまへん。


「妬みっちゅーわけですか?」
「おん。…それかお断りした誰かの逆恨み、とかなぁ」
「そんな…ひどい……!」
「しえは優しなぁ。でもそんなん慣れっこやし、身体的ダメージはゼロやから大丈夫や」


正直、昔っからよぉあったことやさかい。それが今でも継続されとるってだけで…今更、気にせんでも良いことで。
呼び出されるっちゅーても、殴られたり水ぶっかけられたりとかはないし、ちょぉごちゃごちゃと言われるだけやし。
怪我とかさせられたらさすがに問題やと思うんやけどねぇ。…と、ボソッと言ったらえっらい勢いでブーイング食らった。タツと奥村くんからは拳骨付で。


「さすがに拳骨は痛いんやけど…」
「こンのドアホ!!!」
「怪我しなくても大問題だろ!何でお前怒んねーの?!」
「え、だって…怒ったってあっちの神経逆撫でするだけやないの。その方が面倒やわ」
「……神楽ちゃん」
「うん?どしたん、しえ」


呼ばれたから振り返ってみると、しえが泣きそうな顔で私の制服の裾を掴んどった。…どうしたんやろか。


「そういうの、昔からあったの?」
「…せやね。やっかみかうことはしょっちゅうやったかなぁ」
「誰かに相談したことあった?それとも今みたいにじっと耐えてたの?」
「しえ…?」


制服を掴む手にギュッと力が籠る。うっすらと涙の膜が張り始めた大きな2つの瞳が、不安げにゆらゆらと揺れている。

…あぁ、ほんまに優しい子ぉやね。自分が何かされたわけでもないのに、こうやって心配してくれとる。
しえは誰かの痛みを自分が受けた痛みのように受け取って、それを癒そうとしてくれはるから…少しだけ心配になるんよ。
その優しさが―――――この子の背ェに重く圧し掛かるんやないかって。
優しい子ぉは…依存されやすいよって。


「堪忍な…心配や迷惑かけるん嫌なんよ」
「そんなのたくさんかければいいじゃない!黙って耐えて、何もなかったように笑ってられている方がずっと嫌!!」


そうして、とうとうしえの瞳から一粒の涙が零れ落ちた。
ボロボロと流れ落ちてくる綺麗過ぎる涙に、胸が締め付けられるような感覚。
誰かが、自分の為に泣いとる。
改めてそれを認識した途端、胸の奥とか鼻の奥とかがツンとして、熱ぅなって…表現し難い気持ちが全身を駆け巡ったような気ィする。…こんなこと、今までになかったな。

あぁ、でも―――


「(タツ達が怒ってくれはったことは…前にもあったな)」


その時もこんな気持ちになったような覚えがある。
嬉しいような、くすぐったいような…不思議な気持ちなんよね。


「杜山さんの言う通りですよ、神楽さん。神楽さんの忍耐力はすごいと思いますけど、溜め込んで飲みこむんはあきまへん」
「……それ、昔からよぉ言われるな」
「お嬢は何回も言わへんとわかってくれないやないですか」


廉に呆れたような顔されると、ダメージでかいわ。(何でですの?!! by廉)


「昔っから言うとるやろ。悩んでる暇あるんなら頼れって」
「言われとるねぇ…頭ではわかっとるんやけど、意地が邪魔するっちゅーか」
「阿呆。意地張って、それで取り返しのつかんことになったらどうするんや」
「…タツに言われたないわ」
「勝呂もなかなかに意地っ張りだもんなー」
「てめっ…奥村ぁ!!!」


あー…また始まりよったわ、タツと奥村くんの追いかけっこ。
毎日、毎日よう飽きひんなぁ。見てる側としては面白いから、別にええんやけどね。迷惑さえかけられなければ。
でもそろそろ塾が始まる時間やし、奥村先生に怒られるんとちゃうかなー。
……止めたるべきなんやけど、まぁええか。私のせいで追いかけっこしとるわけやないし、止めたる義理はあらへんわ。
とりあえず、お昼の残りのパン食べよかな。


「あれ?お嬢、まだパン残ってはったの?」
「おん。食べよ思った時に、奥村くんとしえに話しかけられたから」
「えっあっご、ごめんね!」
「別に謝らんでも大丈夫。それより―――…おおきに、しえ」
「!…っう、うん!!神楽ちゃんは大事な友達だもん!」
「あははっありがとぉな。しえも何かあったらちゃんと言うんやで?」
「ありがとう!」
「何やかいらしねぇ」


ほわんと言うアンタの方がかいらしわ、ねこ。


「もー!アンタは私の癒しやわ、ねこー!!」

―――ギュウッ

「わぁっ?!神楽さん?!!」
「あっ子猫さんだけずっこいわ!お嬢、俺も俺もー!!!」
「エロ魔神ぎゅーしたら何されるかわかったもんやないから、絶対に嫌やー」
「ひどっ!!杜山さんー傷心の俺を癒したってやぁ」
「え、え?!」
「しえに触んなや変態」


どさくさに紛れて何しようとしとんのや、廉は。あまりに腹が立ったので、顔面に拳骨いれたったわ。


「あたた…相変わらずやねぇ、お嬢は。黙ってれば別嬪さんやのにー」
「京都でもよう言われてはりましたね、明陀の皆さんに」
「せやねぇ…」
「そういや大人気だもんな、神楽って」
「背が高いし、スタイルも良いし、モデルさんみたいだもんね!美人さんだし」


もう少しおしとやかにすれば、もっとええのにと言われたけど…そんなんしたら私じゃないやんか。
別にモテたいわけやないし、人気もなくてええ。私はただ、楽しく生活出来れば何の問題も不満もないんやから。
人からの評価なんてなくても生きていけるんやし。どう思われようと関係あらへん。
……あぁ、だからか。タツ達にもっと自分を大事にしぃと怒られるんは。
- 3 -
prevbacknext
TOP