君なりの優しさ
side:雪男
遅くに任務を終えて寮に帰って来て、数時間後には学生として学校に通わなければいけない。授業が終われば、今度は祓魔塾の講師としての授業の準備などが待っている。
…この道を選んだのは僕自身だ。誰に決められたわけでもないし、強要されたわけでもない。僕が、…兄さんを守りたいって思ったから、だから祓魔師になったし、塾の講師にもなったんだ。
だけど、それは疲れないってことでは断じてない。
僕だってただの人間だ。忙しく毎日動いていれば疲れは溜まるし、寝不足にだってなる。そんなのは当然のことではある、んだ、けど。
それを表に出すのはあまり良くないことだし、塾では特に講師としての"奥村雪男"であるべきだから余計に疲れた顔とか、してはいけないと思ってる。同い年だけど生徒である彼らに、変な気を遣わせてはならない。
―――ぬっ
「なんやえらい疲れた顔してるねぇ、雪くん」
「ッ?!神楽、さん…?」
「あは、びっくりさせてしもた?堪忍」
「いや…大丈夫…」
どうぞ、と少しずれて座れば、笑顔で「ありがとう」と返された。その花が咲いたような笑顔に少しだけ、疲れが消えたような気がする。あくまでも気がするだけであって、実際の疲労は蓄積されたままだろうけど。
ふう、とそっと溜息をついたつもりだったんだけど、それは神楽さんにバッチリ聞こえていたようで、顔を覗きこんで「大丈夫?」と心配顔。
…ダメだな、生徒に心配されたとあっちゃ…講師失格だと思う。
大丈夫だよ、と伝えようと口を開こうとした瞬間、頭を撫でられた。突然すぎる出来事に僕はしばらく固まることしか出来なくて、でも神楽さんはそんな僕に気が付くこともなく楽しそうに撫で続けている。
え、ちょ、これどういう状況だ…?!
「あ、あの神楽さ、」
「雪くんは頑張り屋さんやね」
「え…?」
「祓魔師として任務に行って、講師として私らに教えてくれてはって、更には学生として授業も受けとる…これのどこが頑張り屋さんやないって?」
「だけど、…それは僕が自分で決めたことだし」
「…せやな、きっとそれは間違ってへん。でもな?」
撫で続けていた手を止めて、むぎゅっと僕の頬を挟みこんだ。
さっきよりも近くなった距離に思わずドキッとしてしまったのは、何て言うか仕方ないと思うんだ!だって目の前に神楽さんのドアップだよ?至近距離だよ?そりゃあもう、やましい考えとか想いがなくてもドキッとするって!!
何か言いたいのに頬を挟みこまれてるもんだから、口を開くことが出来ない。むーっとする僕に気が付いていないわけないのに、やっぱり神楽さんは楽しそうに笑っている。
楽しそうに笑ってくれているのはいいことだけど…でもいい加減、手を離してもらえると有難い。うん。
「雪くんはな、もー少し肩の力抜いてもいいと思うで?タツやないねんから眉間にシワ寄せんと」
「ぅわ!ちょ、急に眉間押さないでよ…っ!」
「ふふ、そうやって先生やない時の顔の方が私は好きでっせ?」
「!!」
「あとこれ差し入れ!ほな、また放課後に塾でなー」
ぽん、と膝の上に置いてかれたのは袋に入ってるクッキーと甘めのカフェオレ。
…いや、気遣ってくれるのは嬉しいけど、甘いモノを甘いカフェオレと共に食せと?!それはちょっとした拷問ではないのかな神楽さん…!
クッキーとカフェオレ片手に項垂れていると、何か紙のようなものがヒラリ、と落ちてきた。何気なく拾い上げてみれば、そこに書かれていたのは優しい彼女のメッセージ。
「…これ、残りの時間も頑張れそうだ」