もっと傍に


その電話は、いやに唐突やった。


「映画?」
『お、おん。貰い物なんやけど、その、使わんのももったいないし、』


明日、塾休みやろ?暇やったら、一緒に行かん?
珍しく歯切れ悪く伝えられた言葉。せやけど、そのたどたどしさがなんや嬉しくてクスクスと笑みが零れる。
笑い声がタツにも聞こえとったみたいで、なに笑っとん?て不機嫌そうな声が聞こえてきた。何でもない、と返せばまた拗ねたような声音でなんやねん…て言ってんのが耳に届く。
ふふ!なんやえろうかいらしなぁ…私誘うのに緊張なんかせえへんやろうに。


「ほんで?何時に何処に行ったらええの?」
『あ、せやな………お前、早い時間でも構わんか?』
「おん」
『…ほんなら10時に女子寮の前で、待っとる』


それだけ言うとブツッと切れてしもた電話。女子寮の前て…なん?タツの奴、迎えに来てくれるっちゅーことなんやろか?
うわ、ちょっと嬉しすぎやしないか…?!映画に誘ってくれたことだけでも嬉しいっちゅーのに、迎え、とか…なんちゅーか、付き合うとるみたいで、今からごっつ恥ずかしいんやけど…!


「あかん、…私、明日もつやろか…」





―――ただいまの時刻、9時50分。タツが来るまでもう少し。
ルームメイトは少し前に出かけて行ってしもて、部屋におるんは私1人です。それが余計に緊張を高めてしもてる気がするんやけど。やって、誰かと話しとれば少しは気が紛れるかもしれんやん?…や、無駄なような気がしないでもないけど。

はー、と大きく深呼吸をしてもう一度鏡の前に立つ。
今日着てる服はおじ様とおば様に頂いた服やったりする。京都遠征に行った時にぎょーさんもろたんや。
デート、てわけではないけど、それでも好きなお人の前ではかいらしい格好でおりたいとかガラでもないことを思ってしもてん。ちっさい頃から一緒におるし、ジーンズにパーカーで一緒に出掛けたこともあるから、なんや今更感満載やけども!
…あれやね。恋は人を変える、て聞いたことあったけど、それほんまやね。今まで服装なんて考えたこともなかったんやけどなぁ。
あ、ヤバイ!そろそろ時間や!

慌てカバンを引っ掴んで外に出てみれば、さすが優等生。タツはもう門の所におった。女子寮の前やから、若干居心地悪そうにしとるけど。
今日が学校休みの日やなかったら、きっとジロジロ見られとったんやろなぁ。


「タツ!」
「…おはよーさん」
「おはよ。堪忍、待たせてしもたよね?」
「や、そんな待っとらんけど、…けど、居心地は良くないわな…考えなしやったわ」


タツによれば、私を待っとる間に何人かの子らとすれ違ってたんやって。訝し気な視線を向けられたらしくて、気まずくてしゃあなかったらしい。
まぁ、そやろなぁ…門の所に男の子がおったら誰でも気になってしまうもん。


「ほんなら行こか」
「おん!…あ、そういえば何の映画のチケット貰ったん?」


誘われたことが嬉しくて、映画のタイトル聞くの忘れてしもたんや。メールで聞いても良かったんやけど、どうせ行くんは翌日やし…ってことで、そのままにしてたんよね。
ゴソゴソとタツが取り出したチケットを覗き込めば、それは公開当初から気になっとったアクション映画。わー、これ観に行こうか悩んでたんよ!
でも1人で行くのもなぁ、て思ってたから尚更嬉しい。

目当ての映画がやっとる映画館は、電車で2つ先に行った町。
初めて降り立つそこは駅前から発展しとるらしく、更に学校や会社が休みの日っちゅーこともあり、えろう混雑しとった。すっごい人やなぁ…。
これ、少しでも余所見してしもたらタツとはぐれるんとちゃう?それだけは勘弁やなー。初めて来る町で迷子とか、洒落にならん。帰れる気がせぇへんもん。


「ん」
「へ?」
「は、はぐれたら困るやろ!せやから、手ぇ出し」
「…お、おん…」


はぐれんように、離れんようにギュッと手を繋いで私達は映画館を目指した。
今のこの状態って…恋人同士に見えるんやろか。


「(…いつか、)」


いつか、このお人の手ぇを握るんが当たり前になったら…ええのに。
幼なじみとか、仕えるべき相手とか、そんなん関係なく、勝呂竜士の恋人として…隣に立てる日が来たらええのになぁ。

ちっぽけな悩みや。それにきっと、叶えるんは難しい願いでもある。
必要なんは少しの勇気やとは思うんやけど、それでもどうしても一歩を踏み出すことが出来んのは怖いからや。拒絶されんのが、怖いからや。
このお人に拒絶されたら私は立ち直れんもん。大げさかもしれんけど、そんくらい私の中でのタツの存在はでっかいもので。きっと、タツ中心に私の世界は回っとるんやと思う。


「なぁ、タツ!今日は1日空いとるん?」
「そうでなかったら誘っとらんわ…神楽は?」
「私も1日空いとる。せっかく少し遠出してるんやし、買い物とかしたいんやけど…」
「ええよ、付き合う」


ふっと浮かべられた笑みは、私の大好きな優しい雰囲気の笑みやった。
ああ、やっぱり私はこのお人が好きで、好きでしゃあないです。
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