歯車は確実に


祝日と学校の創立記念日が重なったらしく、奇跡の4連休が出来上がりました。
だけど、祓魔師の候補生である私達にはそんなもん存在しまへん。


「泊まりがけで訓練、ねぇ?」
「なんや気になることあんのか?」
「んー…そういうわけやないんやけど、」


今回の訓練、というか…正しくはシュラ先生と雪くんの任務に同行っていうことなんやけど。んで、2人の任務のお手伝い。
祓魔対象とか詳しい話はまだ聞いてへんけど、候補生を手伝いに連れていくっちゅーことは、京都遠征の時みたいな悪魔相手ではないとは思うねん。
…けど、何やろなー…なぁんか変な感じがする。そう思うんは雪くん達の任務に私達、候補生を連れて行けっちゅーたのが学園長やから、なんかなぁ?

あー、もう。色々気になってしもうて、気持ち悪い。
なんやねん、この変な感じは。


「あぁ、そうそう。今回の任務だけどな、まぁ、そんなに大げさなもんじゃない…祓魔対象も中級だしにゃ〜」
「作戦についてはまた現地で説明しますが、基本的に祓魔対象そのものを相手するのは中二級以上の祓魔師になります」
「俺達はどうすんだよ?」
「候補生の皆さんには2人一組になって頂き、そこら中で発生するであろう下級悪魔の掃討をお願いすることになります」


シュラ先生によれば、中級と言ってもそこまで手ごわい悪魔ではないらしい。せやからすぐ祓えるやろうし、終わり次第、自由行動してええんやて。
さっきまでモヤモヤしてたことが、先生であるお2人の言葉を聞いて少し晴れたような気がした。安心した、っちゅーのかな?完全に変な感じが消えたわけではないけど、けど、勘が良い雪くん達が気にしてへんのやったら…さっきまでの変な感じは、もしかしたら私の考えすぎなのかもしれん。
…もー少し肩の力、抜いても平気かもしれんね。


「神楽ちゃん!これ食べない?ポッキー」
「あ、食べる。おおきに、しえ」
「勝呂くん達もどう?たくさん持ってきたんだ!」
「おん、すまんな杜山さん」
「いただきます、ありがとぉ」
「おおきにー!」


こうしとるとなんや、ただの旅行に来た気分になってまうなぁ…ちゃんとした任務、なんやけど。
あぁ、でも…京都遠征の時は、まだ皆、ぎくしゃくしとったし…それに比べると、燐くんやしえがはしゃいでしまうんもしゃあないのかもしれん。あの時と違て、一緒に笑えるんやもんね?ちゃんと友達や、仲間や、て認識できとるから。
それに雪くんと燐くんのわだかまりも、あの頃に比べたら良うなっとる気がする。確かしえがちゃんとお話したから、って教えてくれはったっけ。

このまま―――卒業まで、何も起こらんといい。

誰も傷つくことなく、泣くことなく、悲しむことなく、憎むことなく…笑っておれたらいいなって思うんよ。
そりゃあ、訓練とか試験で辛いことはもちろんあるやろうけど、そういうことじゃなく、京都であったようなあんな悲しい思い。そういうんを誰もせんといいって、あの時からずっと思ってるんや。


「あのね、今日から泊まるのって老舗の旅館らしくて露天風呂もあるんだって」
「露天風呂?」
「そう!ほら、見て!すっごく綺麗でしょ?」


しえがバッと広げた雑誌を皆で覗いてみれば、確かに綺麗な夜景が広がっとる露天風呂の写真がでーんと載っていた。
……あれ?これって旅行、ではなかったよな?任務だったよな?


「これ、手配したん誰なん…」
「フェレス卿だよ。僕もさっき聞いてびっくりした」
「ほんまあの人なんなんよ」
「ま、あんまり深くは考えなさんな。学生なんだから素直に楽しんどけ〜…それより佐伯、」

―――グイッ

「ッ?!」
「アイツには―――気を許すなよ?」
「え、…?」


メフィスト…あの学園長には、気を付けろ。
耳元で囁かれた言葉には、緊迫感満載で―――思わず、ごくりと喉が鳴った。
普段のあのふざけたような雰囲気は微塵も感じない。それに、このお人のこないな鋭い目ぇ、初めて見たわ。

…というか、何で私にそないな警告をするんやろう?
あまりの気迫にうっかり頷いてしもたけど、何のことやらさっぱりすぎる。私、学園長と直接接点あらへんもん(胡散臭くて信用はしてへんけども)。
でもまぁ、シュラ先生がそう言うんなら何か企んどるのかもしれんし…一応、気を付けといた方がええのかもしれんね。


「よしっ!お前は素直で可愛いにゃ〜!」

―――わしゃわしゃわしゃっ

「ぅわ?!ちょ、シュラせんせっ…!」
「ちょっとシュラさん!神楽さんで遊ばない!!」
「見事にぼっさぼさだなぁ、ほら神楽、梳かしてやるよ」
「ちょっと、アンタがやったら余計にぼさぼさになっちゃうでしょ!私がやるわ」


ほんまに、ただ皆で旅行に来たみたいで。行きの電車内はごっつ楽しくて。
せやから―――あないなことになるなんて、こん時はだぁれも予想なんかしてへんかった。
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