旅行感覚
目的地に到着し、しばしお世話になる旅館に着いたんやけども…これ、しえに見せてもろた雑誌よりも豪華な作りしとらんか?や、雑誌で見た外観や内装もすごかったけども!
ふわー…ほんまに此処に泊まるんかいな。任務で来とるシュラ先生や雪くん、ほんで他の祓魔師の方々はええとしても、私ら高校生には豪勢過ぎんやろか。萎縮してまうわ。
立派で豪勢過ぎる建物を前にあんぐり口を開けたまんまほけっとしとったら、「奥村と同じ顔しとる」とタツにデコピン食らいました。それ何気に痛いんですよ、勝呂さん。
てか、奥村と同じ顔ってなんやの…と横を見たら、確かにあんぐり口を開けて間抜けな顔しとる燐くんがおりました。うん、タツの言うてたことはほんまやね。
「奥村くん、佐伯さん。部屋割りなどの説明をしますから、中へ入ってください」
「あ、はーい。燐くん、いこ」
「おう」
足早に旅館の中へ入ると、やっぱり外観同様に内装も立派で豪勢や。素直にすごい、て思ってしまうけど…雰囲気としては虎屋の方が好きやなぁ。この前帰ったばかりなのにもう恋しくなってきてしもた。
あかんなぁ。ホームシックって歳でもあらへんのに。
皆の元へと足を進めれば、それを確認した雪くん―――もとい、奥村先生はこれからのスケジュールや旅館の案内、それと部屋割りについて説明を始めた。
部屋は二人一組、もしくは三人一組になっとるらしい。ちゅーことは、私達は同じ部屋ってことなんかなぁ?
シュラ先生かて女性やけど、他の祓魔師の方の中にも女性いはるし…多分、私らと同じ部屋にはならへんやろ。奥村先生もそうなるんかなぁ?けど、燐くんのこと気にかけてはるし、彼と同室っちゅーこともあるか。
そんなことを考えとると、部屋割りが発表された。
私と出雲ちゃんとしえは3人で一緒の部屋。まぁ、これは予想通り。…けど、男性陣の部屋割りにはあんぐり口を開けて驚いてしもた。
「ちょお待って?!何でこんお人と一緒なん?!!」
「…うるせぇ、黙れ」
廉と宝くん。
「奥村と一緒か…何や喧しくなりそうやなぁ」
「む、それどういう意味だよ勝呂ー!」
「まぁまぁ…楽しくなりそうやないですか」
タツと燐くんとねこ。
「…あれ?雪男はどうするんだ?」
「僕は他の人と同室。任務で来てるからね、その方が動きやすいんだよ」
「ふーん」
「今の所、祓魔対象の悪魔が現れたという報告はありません。それまではそれぞれくつろいでもらっていて構いませんので」
ただし、旅館の外には出ないように。
それだけ注意して、彼は他の祓魔師の方々の所へと行ってしもた。まぁ、説明は受けたし部屋の鍵ももろたし…ひとまず、荷物置きにいこか。
「しえ、出雲ちゃん。荷物置きに行かん?」
「そうだね、どんなお部屋か気になるし」
「確かにそうね」
もろた鍵に書かれてた部屋の名前は、番号ではなく花の名前。私らが泊まるんは『蒲公英の間』っちゅーらしい。なんやかいらしいね。
もしかしてこの旅館の部屋って、全部花の名前になっとるんやろか?
階段近くに旅館内の案内図があったから見てみれば、全ての部屋に花の名前がつけられとった。向日葵とかすみれの間とか、…あ、百合とか薔薇もある。これ考えるん大変やったやろうなぁ。
…そういえばタツ達の部屋は何処なんやろ?さりげなーく聞いてみれば、廉達は朝顔の間で、タツ達は石楠花の間やそうで。
それを聞いて改めて案内図に目を向けてみると、朝顔の間は離れとるけど、石楠花の間は私らの部屋の隣やった。それに気ィついた廉は顔面蒼白状態…あれやろな、逃げ場があらへんとか思ってるんやろなぁ。
廉とは真逆で、嬉しそうな顔をしてるのは燐くん。部屋が隣なら、あとで遊びに行くね!としえと話してる姿が目に入った。あー、ほんまこの2人は見ていて和むわ。かいらしなぁ。
「旅館の中なら歩き回ってもいいんだよな?荷物置いたら探検しに行こうぜ!」
「探検て、…子供か」
「せやけど、ええんやない?ある程度、把握しといた方が都合ええし。なぁ、廉と宝くんも行くやろ…て、あれ?宝くんは?」
「もう部屋行ってしまいしたよ。俺は一緒に行くんで、ちょお待っといてぇな!荷物置いてきますっ」
部屋に走っていく廉を見送って、私らもそれぞれの部屋へ向かうことにした。荷物を置いたら、部屋の前に集合っちゅーことにしてね。
鍵を開けてドアを開けると、広がったのはえらい素敵な内装の部屋でした。うわ、やっぱり綺麗やなぁ…!
「すっごーい!こんな素敵な部屋に泊まれるなんて夢みたい!」
「確かにすごいわね…雑誌で見たのと同じ、」
「ほんまやねぇ…てか、雑誌で見たんより豪勢な気ィもすんやけど」
端っこに荷物を置いて、あっちへうろうろ、こっちへうろうろ。
なんちゅーか、…3人で泊まる部屋にしては広ない?明らかにあと2〜3人は寝れんで。けど、旅館の仲居さんも3人部屋言うてたしなー…。此処、個人で泊まるには高すぎて来れなさそうや。今回は雪くん曰く、理事長が全額出してくれはるらしいけど。
変なとこ太っ腹よなぁ、あのお人も。何人分かわかって言うてはるんやろか。…ま、どうでもええけど。
カラリ、と障子を開けてみれば、眼下に広がったんは綺麗な海やった。
すっごいなぁ。近くに山もあったし、夏に来たら山でも海でも遊び放題やん。楽しそう。
「わ、海見えるんだ!綺麗だね」
「な。夏やったら海で遊べるんやけどなぁ…」
「何言ってんのよ。行ったじゃない、海。……任務だけど」
「そこやねん。任務でしか夏の思い出作れんかったんよねぇ!皆で京都観光行けたんは楽しかったけど…」
「来年はお祭りとか花火とか、皆で行ってみたいね」
あ、それナイスアイデアや。
3人でわいわい話しとると、ノック音が聞こえた。誰、と一瞬思ったけど、すぐに燐くん達と約束してたことを思い出して、慌てて貴重品をいれたバッグを引っ掴んでドアを開けた。
そこにおったのは案の定、準備を済ませた燐くん達。もしかしたら宝くんもいるのかな、と思ったんだけど、彼は部屋におるみたいやね。ま、ええけど。
「え?海?」
「うん。お部屋の障子を開けたら海が見えたんだ、綺麗だったよ!」
「ほー。さすがに障子までは開けんかったなぁ」
「そういえばそうですね。海辺を散歩とか気持ち良さそうですけど…」
「外に出るんはあかん、て雪くんに釘刺されてしもたからなぁ」
それを破ったらとんでもなく恐ろしいことになりそうや。
穏やかなように見えて、意外と怒ると怖いお人なんです、雪くんって。授業中に眠ってしもてる燐くんに寄越す冷たい視線はほんまに人を殺せると思う。うん。
「…あ、こっからも海、見えますよ?」
「本当だ。すっげー、真ん前じゃん!!」
うっわー、外出てぇー!!とうずうずしとる燐くんを見て、しえと思わず笑い合う。やって、尻尾がふわふわ揺れとってかいらしいんやもの。犬みたい。
あれやなぁ。ほんまに尻尾って感情を素直に表してくれるんやね。勉強になったわー、何に使えるかはわからんけど。
皆でお話しながら旅館の中を見て回っとると、ほんまにただ旅行に来ただけのような感じがしてまう。
任務のお手伝いに来とるんやし、ほんまはもっとこう…緊張感、とか、ないといけないんやろうけれども。けど、こないなとこ滅多に来れるようなとこではないし、見とかんと損やっちゅー気はする。虎屋の雰囲気のが好きでも、人間気になるもんは気になるんです。
「神楽さーん、早う来ませんと置いてかれますえ?」
「おん、今行くー」