青の炎と赤の炎


―――飛び散る赤き翼は深き闇の底へと舞い降りる


―――深き眠りにつきし漆黒の闇を纏いし番人よ


―――赤き翼を手に取り 汝の糧となる輩を喰らう為 姿を現せ


「この名に、この血に宿りたまえ!火神・火之迦具土神!!!」


愛刀・天ノ鬼に垂らした私の血が、何かの形を作り上げる。
そして姿を現したのは、京都で見た時よりも大きく、血のように真っ赤な羽根を持つ―――佐伯家の使い魔、火之迦具土神。
なんちゅーか、…おじ様の使い魔やった伽樓羅みたいや。てか、悪魔やっちゅーのはわかってんのやけど…ごっつ綺麗や。

…って!見惚れとる場合やない!完全体を呼び出すだけでえらい体力と精神力、あと血が持ってかれとるんや。さっさと燐くんの剣に火之迦具土神を憑依させんと、あの悪魔を倒せなくなってまう。


「燐くん!」
「おうっ!こっちは準備OKだぜ」
「…ええ?さっきも言うたけど、もって20分が限界や。君にはキッツイ思いさせてしまうけど…」
「んなのお前も一緒だろ?それにあんまり時間がねぇなら、一気に決めちまおうぜ」


そう言ってニカッと笑った彼は、少しも迷いがない。
京都で自分の炎を認めることが出来た、て言うてたけど…ほんま、迷わん子ぉなんやね。敵わんくらい強い。

ほんなら、私もそれに応えんと。

不浄王よりはちっさいけど、でもでっかい悪魔や。そして腐の眷属…きっと今も、タツ達はコイツが生み出している下級悪魔を相手に戦っとるはず。
その悪魔は大元のコイツを倒せば新しく生み出されることはない。せやけど、生み出されてしもうた悪魔が一緒に消えるとは限らん。ちゅーことは、コイツもろともそれらも消さないとあかんのやな。
京都ん時ほどではないけど、瘴気で周りの木々が腐り始めとんな。急がんと!


「燐くん、降魔剣出して」
「ん」


出された剣に腕を翳し、その血を一滴垂らせば―――青と赤の炎が一気に燃え上がった。
はは、…私の炎は魔神の炎に飲まれるて思ってたんやけど、そんなことなかったんやね。青と赤の両方の炎が、降魔剣を、燐くん自身を包んでる。
ひとまず、これで火之迦具土神を憑依させるんは成功したっちゅーことや。…あとは、私が意識をしっかり保てばええだけの話。まぁ、そないに簡単なことでもないんやけどなぁ…今、すでにクラクラしとるし。
せやけど、ここで倒れるわけにはいかん。
役目を終えた愛刀を地面に突き刺し、火之迦具土神の完全体を保つ印を組む。私に出来んのはここまで…ごめんやけど、任せたで燐くん…!


「どぉりゃああああぁああっ!」

―――ザシュッ!

「ギィアアアアアアァアアアッ!!!」


学園長の言うてた通りや…さっきまで効いとらんかった炎が、悪魔の体を焼いとる。半信半疑やったけど、ほんまやったんや…!
けど、少し火力が足りとらん。燐くんもまだ修行中や言うてたし、きっと全部の力を解放するのに恐怖を感じてる部分もあるんやと思う。
…せや。京都で不浄王を倒した時―――――


「燐くん!"火生三昧"や!!真言と修多羅、覚えとる?!」
「あ、不浄王の時の…!わ、悪い!全然覚えてねぇーーーー!!」


あああ…まぁ、せやろなぁ。燐くん、暗記とか苦手やったし。それに騎士希望やから、詠唱なんぞ覚える気もなかったんやろし。
ほんなら、私が唱えてそれを復唱してもらう他ないか。


「私が唱える…復唱なら出来るやろ?」
「お、おう!多分大丈夫!…だと、思い、たい」


復唱すら不安ってどういうことなん…せやけど、今はそれをどうこう言っとる場合やない。
すう、と息を大きく吸って"火生三昧"の真言を唱えようとした時やった。目の前が暗くなって、足元が揺らいだ。
う、そやろ…まだ火之迦具土神を呼び出して5分くらいしか経っとらんのに、もうあかんのか?今ここで倒れてしもたら、悪魔を倒す術がのうなってしまうのに…!

気持ちだけで立っていよ思っても、体は正直で、ゆっくりと傾いでいくんがわかった。眩暈も治まらんし、これはほんまにあかんな…。
足に力も入らんくて、倒れるのを覚悟したんやけど…何か温かいものに包まれて、ふっと意識が戻った。


「神楽!しっかりせぇ!!」
「タ、ツ…?」
「せや。立ってるのが辛いなら俺が支えたる、せやから…もう少しだけ気張りぃ!」


背中に、肩に感じる温かさが、私の意識を繋いでくれた。
グッと足に力を入れ直して、もう一度前を見据える。真言を、修多羅を唱え終わるまででええんや…もう少しだけ、耐えて。私の体。


「「シュリマリ ママリ シュシュリ オン クロダ ノウ ウンジャク!」」


真言はここまで…あとは、修多羅と共に放つだけ。
不浄王の時は炎に飲まれそうになっていたけど、今度は大丈夫。やって君の炎は誰も傷つけへん…火傷もせえへん。そうしたい、て君が強く思ってるから。
それに今回は私の炎も一緒や。少しならコントロールできるはず…!さあ、止めといこうやないの!!


「「 火 生 三 昧 !!!」」


修多羅と共に放たれた大きな火の球は真っ直ぐに悪魔に向かい、その姿を消滅させた。
瘴気によって腐り始めていた木々も、彼の放った炎で浄化されて元に戻ってる…あぁ、やっぱり君の炎は人を傷つけるもんやないんよ。あん時は飲み込まれそうになって苦しそうやったけど、今回はちゃんと自分の意思を保ったまま、炎を操れとるやないの。
直に青と赤の炎が消えて、肩で息をしとる燐くんの背中が見えた。彼の剣から憑依しとった火之迦具土神が出ていくのが見えた。
無事に、終わったんや…ね。

終わったんや、とわかった瞬間、完全に全身から力が抜けた。意識はまだギリ保てとるけど…あかん、世界がぐるぐる回っとる。これ、タツが来てくれんかったら地面とお見合いしとったんやろうなぁ。


「おい神楽!大丈夫か?!」
「あー…な、んとか……」
「すぐに若先生達も来るさかい!もう少しの辛抱や!!」


ぼんやりとする意識の中、駆け寄ってくる燐くんや、別の道から姿を現した雪くん達の姿が視界の端に映る。
それと同時にポンッという音と共に、火之迦具土神が姿を見せた。印を解いてしもたから、初めて見た時の姿やけど…。


『本当に面白い小童だ。その小さな体で我の完全体を呼び出すなど、無謀以外の何物でもないわ』
「はは、…まぁ、せやろなぁ…」
『だが、我はお前が気に入ったぞ。小童』


思わぬ言葉に飛びかけた意識が薄らと戻ってくる。
気に入った、て…どういうことや?


『我はお前を真の主と認め、真の契約を交わそう。…もう一度、名を名乗るがいい』
「神楽…佐伯、神楽や…」
『神楽。我の力が必要になった時は、真名を呼べ。お前にはその資格がある…さあ、小さな主よ。今は眠るがいい』


小さな炎へと姿を変えた火之迦具土神は、スウッと私の体の中へと入っていった。
真の主とか、真の契約とか、真名とか…わからんことはたくさんあるけど、あかん。瞼が重くて、もう開けてられん。
それに逆らうことなく目を閉じて、私はゆっくりと意識を手放した。
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