もっと、
今日は塾が休みの日。授業は午前で終了。ついでに言うと、明日から3連休。
クラスの子らは嬉しそうに「休みだー!」と言ってたなぁ。
連休ちゅーても、祓魔塾もあるやろし、課題もぎょーさん出されとる。
たまには買い物とか行きたいんやけどな。本屋も行きたいし。せやけど、なかなか難しいかもしれへんなぁ…行きたいけど。ものすごく行きたいけど。
「…無理なんことを思ってもしゃーないか。中庭で本でも読んでよ」
本日最後の授業は選択で、HRもなかったから授業終了と同時に下校になったわけで。
タツ達とは取ってる科目がちゃうし、別に約束もしてへんかったからそのまま校舎を出た。
校内に残ったらあかん、とは言われてへんし…少しくらいええよね。
天気もええし、暖かいから、中庭で本読むには適してる日和やと思うんよ。
そういえば、タツや廉やねこ達はどうしとるんかな。図書館で勉強しとるんやろか。
…や、でも今日は午前で終了やし、お昼食べに何処か行ったりしてるかもしれへんね。
「ほんまええ天気やなー…」
えらいだだっ広い中庭にあるベンチに腰を下ろして、読みかけの本を広げた。
昔っから本を読むんは好きで、ジャンルは特にこだわりがあらへん。
エッセイも読むし、ファンタジー小説や、恋愛モノ、推理モノ、歴史書…あぁ、こうやって思い浮かべてみると、ほんまジャンルがバラバラや。せやかて、どれにもそれぞれの面白さがあるんよねぇ。ジャンルが違うから。
けど、最近よう読んでるんは祓魔系の本やね。今読みかけなんもそれやし。
塾の教科書とはまた違うくて、こっちのが読みやすいかもしれんね。奥村くんには良さそうや。教科書っちゅーよりは、小説っぽいかも。
「あっ見つけた!神楽ー!!」
「奥村くん?……と、皆?」
「ようやく見つけたぜ。校内探してもいねぇんだもんよー」
手をブンブン振って私の名前を呼んだんは、奥村くん。
その後ろにはタツ、廉、ねこ、出雲ちゃん…あ、奥村先生にしえまでいてはる。
何かあったんやろか?…あ、塾休みやなかったとか?
「どうしたん?勢揃いで」
「教室でお嬢のこと待ってたんやけど、戻って来る様子があらへんから探しに来たんよ」
「そうなん?けど、今日はHRカットされとったし…授業終わってそのまま中庭に来てたんや」
「神楽さん携帯は?坊が何度か電話しとったんですけど…」
「携帯?………あ、鞄に入れっぱなし」
普段、あんまり携帯いじらへんから連絡来ても気づかんことが多い。
それが原因なんか、あんまり1人で行動すなって怒られることがしょっちゅうで。
んな過保護な…と思ったんやけど、確かに連絡取れんくなるし、探してる方からしてみれば大変なんかもなぁと思ったりもする。…実際、今日またタツに呆れた顔させてしもたし。
もう少しだけ、携帯いじるようにしよかなぁ。せめて、1人でいる時くらいは。
「あ、本読んでたの?」
「あんた、気がつくと本読んでるわね」
「好きなんよ、本の匂いって何や落ち着くし。それで勢揃いしてどないしたん?今日、塾は休みやなかったっけ?」
読みかけの本にしおりを挟んで、パタンと閉じ、そう問いかければ。
「佐伯さん、この後暇かな?」
祓魔師のコートを着ていない、学園の制服を身に纏った奥村先生がにっこりと笑って、そう問いかけてきた。
「…何やこういうの久しぶりな気ィする…」
アイスを食べながら、ボソッとそう呟けば。
しえが「楽しいね!」って、満面の笑みで返してくれて…私も自然に笑顔になる。
奥村先生の問い掛けに応と答えれば、何も説明されることなく、街へと連れ出されました。
行先は大きなショッピングモール。
説明もなく連れて来られたもんやから、最初はワケがわからんかったけど、しえと出雲ちゃんが簡単に教えてくれた。
どうやら廉と奥村くんが、皆で何処か遊びに行きたい!と言い出したみたいやね。塾も休みやし、せっかくやからーってことらしい。
それは全然構わないんやけど、奥村先生も一緒に来るなんて珍しいことや。
あのお人は塾の授業を受けてる限り、とても真面目で、こういうんは苦手なんじゃなかろかと思ってたんやけど。
「神楽ちゃん!あのお店見に行かない?」
「うん?ええよ」
食べ終わったアイスのカップを捨てて、しえが指差したお店に向かう。
そのお店はかいらしい洋服がたくさん並んでいて。ふわふわとした洋服達は、確かにしえに似合いそうやなぁ。
…ん?けど、しえっていつも着物着てるんやなかったっけ?
今は制服着てるけど、塾に入りたての頃はいつも着物を着とって。家でも着物しか着ぃひんから、制服もらった時も着方がわからへんって言ってたような。
ほんで、私や出雲ちゃん、あと朴さんが着方を教えてたんよね。何や懐かしなぁ。
まぁ、そんなんは置いておいて。せやし、しえは洋服買わんお人やと思ったんやけど…。
「しえ、洋服着るようになったん?普段、着物しか着ぃひんのやろ?」
「うん!今も着物ばっかりだよ?」
「え、ほんなら何で此処…?」
「神楽ちゃんに似合うんじゃないかなって思って」
ぅえ?!!それはない!絶対にないよ、しえ!!!
やって、こんな男勝りな性格やし、ちっさい時からタツや廉のお下がり着とったし、こんなスカートとか制服でしか着ぃひんもん!おじさまやおばさまは、女の子なんやしーってえらい着せたがっとったけどな?断固拒否しとったけど!
それにしても…こんなふわふわの、服。
どう考えても私には似合いそうにないんやけど、しえは私のどこを見て似合うって思ったんやろ。
「神楽ちゃんって顔整ってて、美人さんだけど…こういうのも似合うと思うんだぁ」
「……それは絶対あらへんわ」
「そうかなぁ?可愛いと思うんだけど」
「着てみればいいじゃない神楽」
「え、出雲ちゃんまでそんなこと言うん…?」
何故か出雲ちゃんまで加わって、あれよあれよと言う間に試着することになってしもた。
私は試着室で、服を前に悩んでた。
渡された服はシンプルなワンピースなんやけど、色が薄いピンクて…。
や、かいらしいとは思うで?私やて女やし、こういうかいらしいもんは好きや。嫌いやない。
せやけど、似合うもんと似合わんもんがあるやんか?人には絶対に。
お下がりを卒業した後は、男モンばっか着とるしなぁ。色も青か黒やし…こんな色の服着るんは初めてや。
かと言って、ここで引くんは女が廃るっちゅーもんやし(そんなわきゃあ、ない)。
着てみる、しかないか。覚悟決めて。
「着れた?神楽ちゃん」
「お、おん…」
「着替えたんならさっさと開けなさいよ、おっそいのよ」
―――シャッ
「あっちょぉ出雲ちゃん?!!」
「…何だ、似合うじゃない。あんたが散々言ってたから、どんだけ似合わないかと思ってたのに」
「神木さんの言う通りだよ!すっごく可愛い!!」
め、珍しく出雲ちゃんが褒めてくれはった…!!!
しえにも満面の笑みで可愛い、と言われ、顔に一気に熱が集まっていく。
2人の声に何故か廉や奥村くんが集まって来た。何でアンタ達は躊躇もなく、女の子が入るお店に入って来れるん…?!普通、タツ達みたいに入って来れんもんやないのか!!
「俺、神楽の私服初めて見た。似合うじゃん」
「お嬢、めっちゃ似合う!かいらしい!!普段からそういう格好したらええやないですか〜」
「……皆してなんやの。私を辱めて殺したいんか」
「んなわけねーじゃん。なぁ!雪男達もこっち来いよー」
奥村くん…!どうしても私に止めを刺したいんか!
そんな私の必死の願いを聞くことなく、奥村くんはお店の外にいた先生、タツ、ねこを引っ張って来よった。
…あ、先生達も顔が赤ぉなっとる。
まぁ、そりゃ恥ずかしなぁ…女の子しかおらへんし。売ってるんが下着やないだけマシやろうけども。
「ほらほら!よう似合うでっしゃろ〜?」
「ちょっ…廉……!!!」
「…ほんまや。かいらしいですよ、神楽さん」
「佐伯さん、よく似合ってるよ」
「ねこと先生まで…」
もー…顔あっついわ。
ほんまにね?恥ずかしさで死ねると思うねんよ、人って。はよ脱ぎたいわ、コレ。
「ほら勝呂もこっち来いって!」
「お、奥村っ…!」
「勝呂くんも似合うと思うでしょ?」
しえにずいっとタツの前に押し出されて、目が合う。
タツの顔は真っ赤で、きっと私の顔も真っ赤で…なん、このシュールな感じは。
顔を真っ赤にした2人が向き合ってる状況って、ようわからんけど…おかしないか?傍から見たら、絶対に笑える状況や思う。
とりあえず…何か言ってくれるんか、とちょぉ思ったんやけど…タツは「知るか!」って言いよった。
ほんで、そのままお店の外にずかずかと歩いていってしもたんやけど。タツらしいっちゃあ、タツらしいよなぁ。
「あんた、とりあえず着替えてきなさいよ。お昼食べてまだまだ遊ぶんだから!」
「え、あ、おん!」
…なんやろ。すごく、楽しい。
制服に着替え直して、お店の外で待ってる皆の元に急ぐ。
ほんで皆でご飯を食べて、また色んなお店を回って。歩き疲れた頃にはもう、外は赤く染まっておった。
「もうこないな時間か…」
「大分、遊んでたんだねぇ」
「そろそろ帰らんと、夕飯食いっぱぐれるな…神楽と神木もやろ?」
「おん。寮暮らしやからねぇ」
「なら、そろそろ解散にしたら?どうせ明日も集まるんだし」
は い ?
え、出雲ちゃん…今、何や気になること言うてはった気がするんやけど。私の聞き間違い、とかやあらへんよね?
「佐伯さん、ボーッとしてるけど…大丈夫?疲れた?」
「へっ?!あ、いや…大丈夫、ですけど…何や知らんとこで話が進んでる気がして」
「知らない所で?………あ、今日のこと?」
「それもありますけど、出雲ちゃんが明日集まるって言うてはるから」
「…え、志摩くんから聞いてない?」
きょとん、とした奥村先生から尋ねられたけど、廉からは一切聞いとらんのが現状やから、素直に首を横に振った。
やって、ほとんどしえや出雲ちゃんと話してたし、ほとんど話す機会なんてあらへんかったもん。好きなように遊んどったしねぇ。
事情を察してくれた奥村先生は、溜息1つ吐き出してから説明してくれはった。
えーと、明日・明後日は塾がないんやって。理事長から直々の命で。
ほんでそれを奥村先生から聞いた奥村くんと廉が、今日と明日は皆で出かけよう!と提案したらしい。
せやけど、あまりに急に決めたもんやから今日はショッピングモールで遊ぶことになったというわけなんやて。
「ほな明日はどうするんです?」
「あぁ、それは…」
「それがなっメッフィーランドに行くことになったんだよ!!」
―――ぎゅうっ
「…兄さん。女の子に抱きつかないの、それも後ろから。セクハラになるよ?」
「や、別に私は構いませんけど…奥村くんやし。それより、メッフィーランドって任務で行った遊園地やろ?」
「そうそう!あん時は任務だったからあんまり遊べなかったじゃん?だから皆で行こうぜってことになったんだ」
遊園地なんてほとんど行った記憶ないわ…それこそ、あの任務で行ったんが初めてちゃうかなぁ?確かゴーストを退治しに行ったんやったね。
「神楽ちゃん明日は用事ある?それとも空いてる?」
「用事はあらへんよ。課題が出されとるくらいで」
元々、この三連休は出された課題片付けるんと塾くらいしか用事がなかったし。あとは本でも読もうか、と思ってたくらいやもんね。
尋ねてきたしえにそう言えば、満面の笑みで「良かった!」と言うてはる。
いまだ抱きついたままの奥村くんも、笑いながら「じゃあ神楽も参加決定だな!」って嬉しそうにしとる。
まだ行く、とは言うてへんのやけど…まぁ、構わんか。
今日も楽しかったし、友達と遊びに行くなんてこと…あんまりした記憶もあらへんもんね。
「あんたの答えは聞いてないわよ。問答無用で行くの決定してるんだからね」
「ええー…そこは私の意見も聞いてぇな」
「神楽さん行かへんの?」
「行くやろ?用事あらへんのやし、こういうの好きやったろ」
にこにこしとる、ねこ。珍しく優しい顔で笑っとる、タツ。
…そんな風に言われてしもたら、断れんやんか。断るつもりなんて、これっぽっちもあらしまへんけど!
「…行く。絶対行く!何時に何処、行けばいいん?」
「さっすがお嬢!あんなぁ―――…」