彼女の体調不良
side:勝呂
妙に大変やった任務を終えて、1週間が経った。
せやけど、あの日から神楽は相変わらず食欲がない、とか言うてほとんど食わへんし、それにぐったりと眠ることが増えた。授業中は耐えとるみたいやけど、昼休みや塾のない放課後なんかは死んだように眠っとる。そうでもせえへんと持たないとか言うてたか。
…最初はただ疲れとるだけや、と思うてた。
初めて使い魔を呼び出した時も血が足りなくなって、体力も使い切って、丸一日寝とったしな。せやから、今回もそれやろうと勝手に思っとったんや。
なのに、1週間経った今でも神楽の体調不良は回復の兆しを見せん。回復する所か、悪化しとんとちゃうか、て思うくらい。メシも食うてへんし、心配にもなるやろ…。
今日も今日とて、俺の膝を枕にして眠っとる。
「おーっす!…って、神楽寝てんのか?」
「おう。最近はずっとこんな感じや。ちゅーか、お前、その荷物は何やねん?」
「重箱、ですか?」
「そうそう。ほら、勝呂達が最近神楽がほとんどメシ食ってねーって言ってたろ?だから、弁当作ってきたんだけど…」
ほら、と開けた重箱の中にはバランスを考えられたであろうおかずがぎっしりと詰められとった。相変わらず、料理の腕だけはプロ並みなやっちゃなぁ。
「寝てるとこ起こすのは忍びないですけど、少しだけでも食べてもろた方が良くないですか?このままやとお嬢、本気で入院せなあきまへんよ?」
「僕もそう思います。なんや顔色も良くありませんし…」
「だよなー。おーい、神楽ーちょっとだけ起きろー」
「う、ん…」
「少しでええからメシ食え。奥村が作ってきてくれたんやて」
体を起こすのを手伝って、布団代わりにかけとったブレザーを肩にかけ直してやれば、えらい舌足らずに礼を言われた。こりゃあ、完全に半分夢ん中や。
まぁ、せやけど、何とか起きたし少し胃に食いもんいれさせんと、志摩の言う通り入院せなあかんくなる。それは本人も嫌やろし。
弁当箱のふたに煮物と、小さめのおにぎりを置いてやれば、少しずつ口に入れ始めた。ん、よしよし、ちゃんと食うてるな。
「…おいし、」
「そりゃ良かった。脂っこいもんはいれてねぇから、食いやすいと思うぜ」
「うん、これなら食べれそうや。おおきに」
浮かぶ笑みはいつも通り、に、見えなくもない。けど、やっぱりどこか元気がなくて調子が狂う。
コイツは、…神楽にはいつだって笑顔でいてほしい、と思うのに、いざっちゅー時はどうしたらええかわからん。体調不良に関してはほんま、俺に出来ることなんて何もないんが正解なんやけど…ちゅーか、ほんまに体調不良なんやろか?
本人に聞いてみても、食欲がないのと眠気以外は何ともないとか言うてたけど。それがほんまか嘘かはわからん。せやけど、風邪の症状はあらへんらしい。
うーん、と考えとると、若先生と霧隠先生がお揃いで姿を見せた。
一体どないしはったんやろ。
「あれ?雪男とシュラじゃん。どーしたんだよ」
「んー?ちょーっと佐伯に用事があってにゃー」
「私、ですか…?」
「…やっぱり顔色良くないね。体調悪い?」
「体調、ちゅーか…ずっと眠気がとれんねん。寝ても寝ても疲れが取れへんし、眠気も消えてくれんのです」
ポツリ、ポツリ、と話し始めた神楽に、珍しく霧隠先生が神妙な顔をしてはった。最後まで話を聞き終わると、「やっぱりな」と呟いて何処かへ電話をかけ始めて。
…と、思ったら、ほんの数分でケータイを畳んでこっちに戻ってきはった。そらもう、いい笑顔で。
「交渉成立!佐伯、明日からしばらく京都に行ってこい!」
―――ビシィッ!
「………へ、京都?」
「シュラさん、ちゃんと説明しないと神楽さんもわからないでしょう?」
「そーいうメンドイのはお前に任せるにゃ、ゆ・き・お!」
「…この野郎…!」
そう言って、スキップしながら霧隠先生は去っていきよった。…こめかみに青筋浮かべた若先生を残して。
残された若先生は大きな溜息を1つ吐いて、神楽に何や説明を始めた。京都へ行け、て言われた理由やな。
若先生が言うには、神楽のひどい眠気や食欲不振は、恐らく1週間前の任務が原因であろうということ。あの時の完全体の召喚と、使い魔が言うとった真の契約…それが関係しとる、らしい。俺らにはようわからんけれども。
せやけど、若先生や霧隠先生、そして他の先生方にもそれを説明できる人はおらんらしく、本当にそれが原因なのかはハッキリと断言は出来んそうや。
やから、それを説明できるであろう人がおる京都に行け、っちゅーことらしい。
「奥村先生、その説明が出来る人て誰なんです?」
「…勝呂達磨さん。勝呂くんの、お父さんですよ」
「は?和尚?!」
「神楽さんには身寄りはいない…そして使い魔に関する文献を保管しているのは勝呂くんの実家。…そうですね?」
「え?あ、はぁ…まぁ、その通りですけど」
確かに青い夜で被害を免れた神楽ん家の文献は、全部俺ん家で保管しとるっちゅー話は聞いたことあったし、それに保管しとる蔵に2人で忍び込んだこともあった。
…ああ、そうか。せやから、神楽は何も見ることなく、誰に聞くこともなく、あの日…使い魔を呼び出して契約出来たんやな。今回の完全体を呼び出せたんも、その時に読んどったのか。相変わらずええ記憶力しとんなぁ。
まぁ、そういう理由で…少し和尚と話をして、ついでに体を休めてこいっちゅーことらしい。
「何かよくわかんねーけど、京都に行けば調子良くなるかもしんねーってことか?」
「ざっくり言うとね。きっと対処の仕方とか、手騎士の多い京都出張所ならわかるんじゃないかな?」
「奥村先生の言うことは一理あるかもしれませんね。神楽さん、行ってきたらええんとちゃいます?お休みするのも必要ですよ」
「せやねぇ、お嬢はちーと気張りすぎる節がありますよって!お嬢が休んでる間、ちゃーんとノートもとっときますから」
「…志摩さんに任せたらあかん気がするので、それは僕に任せといて」
「子猫さんひどい!!」
理由はわかった。今のコイツには確かに休養と、対処法が必要や。
せやけど、…勝手知ったる実家に帰るだけとはわかっとるが、なんや1人で行かせるんは心配やなぁ。かと言って、俺もついていくとは言えへんし。神楽も1人で行けんようなガキやあらへんしな。
むしろ、ついていくっちゅーたらやめぇって怒られそ。
「塾の方は俺がノートとっとくさかい。気にせんとゆっくりしてき」
「……おん。そうするわ」
「あ、それなんですが…勝呂くんも一緒に京都へ行ってください」
「は?俺も、ですか?」
「故郷に帰るだけですので心配は無用かと思いますが、それでも不安でしょうし…誰かがついていた方が神楽さんも安心するでしょうから」
にっこり笑った若先生に逆らえるはずもなく、俺は頷く他に術はなかった。
そんなこんなで、俺は神楽と一緒に急遽京都へ帰ることになったわけで。