緊張と安堵
「坊、神楽、おかえりなさい」
新幹線を降りて、京都駅を出るとにっこり笑顔で柔にぃが出迎えてくれた。
私らが帰ることは連絡してある、て雪くんから聞いてはいたけど…まさか駅まで迎えに来てくれてるとは思わんかったわ。やって、今日は平日やで?この帰郷やって昨日の昼に急遽決まったことで、それから休みを取るなんてこと出来んやろうし、偶然休みやっちゅーのも考えられん。
…柔にぃ、私服やのうて明陀の服着とるもんね。絶対、今日仕事やわ。このお人。
「柔造?!」
「どないしはったん…?今日、仕事やないの?」
「仕事やけど、和尚と所長の命でお迎えに上がりました。神楽、荷物貸し」
「えっ…だ、大丈夫!私は大丈夫やから、タツの荷物…!」
「アホぬかせ。京都に着くまでぐったり眠り込んでたんはどこのどいつや。大人しく持ってもらい」
コツン、とタツに頭を小突かれ、柔にぃには有無を言わさん笑顔でもう一度「荷物、貸しや」と言われてしもうて、渋々荷物を渡すことにした。
確かにタツの言う通り、東京を出発してすぐに眠り込んでしもたけど。次に目が覚めた時は、もう京都に着いとったしなぁ。1回も目が覚めんほどに深く眠ってたらしい。タツ曰く、ぐったり死んだように。
ちゅーか、柔にぃも私らが帰ってきた理由。聞いてはるんやろか?
迎えもおじ様から頼まれた、言うてたし…もしかしたら、その時に聞いとるんかもしれんね。それに八百造さんや蟒さんもきっと聞いてはるんやろうなぁ…おじ様から。
…嫌、やなぁ。皆に心配かけんのも、心配そうな顔をさせてしまうんも。
ただでさえ、タツ達や燐くん達、それにシュラ先生にまで心配かけてしもてるっちゅーのに。
2人に気づかれんように、少し後ろで小さく溜息を吐いたつもりやった。せやけど、それは何の意味もなくて、それまで前を向いてたはずの柔にぃとタツが振り向いた。何の前触れもなく。…ちょおびっくりしてしもうたのは、私だけの秘密。
「な、…なん?2人して」
―――ぽんぽん、
「そないな顔すな。…大丈夫やから」
「あんなぁ、神楽。お前さんはもーちょい心配や迷惑かけぇや…全部飲み込もうとするんは止めよし」
「う、…」
「お前さんはまだ16や。俺らからすればまだ子供やし、甘えてもええ歳でもあるんやで?甘え過ぎんのはあかんけど、神楽の場合は甘えなさ過ぎや」
「神楽の悪いとこやな、それ」
俺らは心配するしか出来ひんのや…そのくらいさせぇ。
更には迷惑や心配かけんのは子供の仕事やー、とまで言われてしもた。いや、それはさすがに違うんちゃうかなぁ?柔にぃ。
心配するんは大切にしてる証拠。愛されてる証拠。せやから、黙って心配されとけばええんやって…柔にぃは私の頭を撫でながら、とても嬉しそうに笑った。
「柔造、帰ったか。坊と神楽ちゃんもおかえりなさい」
「ただいま、八百造」
「えっと、ただいま…です、八百造さん」
「そう緊張せんでも大丈夫やで、神楽ちゃん。…和尚は客間におりますさかい、そちらへ」
「俺もか?」
「和尚がそう言うてはりましたえ」
タツも一緒におじ様のお話、聞くんやなーってちょお驚いとったら、どうやら柔にぃと蝮姉さま、八百造さんと蟒さんとおば様も一緒にお話するんやって聞いて、思わずタツと顔を見合わせてしもた。さすがにそないな人数でお話するなんて考えてもいなかった。おじ様と2人でするものだ、と勝手に思い込んでいたから。
タツが一緒におってくれるのは心強いけど、でも…私の両親を、使い魔を知っとる方々が勢揃いするっちゅーのは、思ってた以上に緊張してまう。何を聞かされることになるのか、全く想像がつかんわ。
「っ、タツ…」
「大丈夫や、俺がおる。それでも怖いっちゅーなら、手、繋いでやる」
そっと握られた手ぇは温うて、安心できる。さっきまでの緊張が少しだけ、和らいだような気さえする。
私らの荷物は仲居さんが運んでくれるらしゅうて、そのままおじ様達がおるっちゅー客間へと向かった。
「…和尚、八百造です。坊と神楽ちゃん、それと柔造をお連れしました」
「入り」
そっと開けられた襖の奥には、さっき聞いてた通り、おじ様とおば様と蟒さん、そして蝮姉さまがおった。皆、ぞれぞれ神妙な顔つきで。
それを見るだけでまた緊張してしまうけど、ギュッと握られた手ぇが安堵を与えてくれる。心臓は忙しないままやけどな。
…大丈夫。タツがこうやって手を繋いでくれとる限り、隣におってくれる限り…私はきっと、逃げへんで向き合うことが出来るはずやから。