おにいちゃんと一緒


恒例となった蝮姉さまとの修行を終え、汗だくになった体をシャワーで洗い流し、一息ついてた所やった。柔にぃがひょっこり顔を出したんは。


「どないしはったん?今日は仕事お休みなん?」
「おん。蝮との修行は終わったんか」
「はい、終わりました」


これから蔵にしまってある書物でも読もうかな、と思ってたとこなんやって言えば、ほんならちょお付き合ってや〜と笑顔で連れ出されてしもた。
え、ちょ、付き合うんはええけど、一体何処に連れて行かれるん?!にこにこ顔の柔にぃ見てるとこっちまで笑顔になるけれども、せめて行く場所だけは教えてくれんやろか!!





「甘味処…?」


ずるずると引っ張られて辿り着いたんは、ちっさい頃、よう連れてきてもろた甘味処やった。大きゅうなってからはほとんど来なくなってしもたけど、一度だけ、タツと廉とねこと3人で学校帰りに寄ったことがあったっけ。なんや懐かしいなぁ。
中に入ってみれば、あん頃となーんも変わっとらんくてやっぱりどこかホッとするような…そんなお店や。

平日の真昼間やからお客さんは全くおらんくて、私と柔にぃの貸し切りみたいになっとんなぁ。お店自体は大好きやし落ち着く雰囲気やけど、貸し切りっちゅーとなんや急にそわそわしてきてまう。
いや、別に貸し切りにしたわけではないんやけどね。自動的にそうなっただけで。
…けど、何で急に柔にぃはこのお店に私を連れてきたんやろ。


「神楽、なんにする?」
「え?あ、えっと…どないしよ、ここの甘味どれも美味しゅうて迷ってしまうんよなぁ」
「ははっお前さんは昔っからそうやったなぁ」
「…嫌やわ。なんや成長してへんみたいで」
「そういう所はかいらしい部分やさかい。変わらんでもええわ」


んんー…でもほんまどれにしよ。わらび餅も美味しいし、抹茶パフェも絶品やし…あ、せや、羊羹も美味しいんやった!
長期の休みしか帰ってこれへんし、最近は全く来てへんかったからどれもこれも食べたくなってしもて困る。ほんまに困る…決められへんよ〜!
お品書きと睨めっこしとったら、いつの間にか柔にぃが女将さんを呼んで注文してしもた。え、私まだどれにするか決めてへんのやけども…?!

柔にぃが頼んだんは、抹茶パフェとわらび餅。
それと最中の3つ。

へ?何で2人しかおらんのに、3つも頼んだん?この人。
疑問に首を傾げていると、お前さん、いっつもこの3つで悩んでたやろ?て聞かれた。…そういえば、確かにちっさい頃も抹茶パフェとわらび餅と最中で悩んでたっけ。ほんで悩むたびに誰かが頼んでくれて、必ず一口くれてたんよなぁ。柔にぃの言葉で思い出したわ。
てか、この人もよう覚えとるなぁ。


「せやけど、よう覚えとったね?私の好きなもの」
「そら覚えるわ。此処来るたびにその3つを凝視しとったんやから」
「ええ?そやったっけ?」
「せや。大概、坊と蝮と交換しとったけどなぁ」
「…2人とも、優しいさかいに」


そういう所、全く変わってない。特にタツはな。
いまだに一緒にご飯食べに行ったりすると、迷った時、どっちか注文してくれるもん。ほんで一口分けてくれる。呆れ顔しつつもな?
せやから、私もまーだ甘えてしまう。あのお人が甘やかしてくれるから、…て、それは言い訳か。甘える・甘えないっちゅーよりかは、私がタツに構ってほしいだけなんやと思う。そうすれば、傍におれるから。


「お待たせしました、抹茶パフェとわらび餅と最中です」
「おおきに」


ボーッと考え事しとるうちに頼んだもんが勢揃い。
はぁ…やっぱり美味しそうやなぁ、ここの甘味!早速、と言わんばかりに抹茶パフェを一口食べれば、口の中いっぱいに幸せが広がった。
久しぶりに食べたけど、めっちゃ美味しい〜ここのが一等好きやなぁ。うん、幸せ。


「ほんま美味そうに食うなぁ、神楽は。ほれ、これも食べ」

―――コトン、

「おおきに、柔にぃ!良かったらパフェどうぞ?」
「ん、こっちこそおおきに」


学校の話とか、塾の話とか、任務の話とか、寮生活の話とか…これでもか!てくらい仰山話した気がします。
柔にぃとは10歳くらい歳が離れとるから、こうしてゆっくり話をする機会ってあんまりなかってん。遊んでもろたことはあったけど、私らの物心つく頃にはもう正十字に通う為に家を出て行ってしもたし、戻ってきたと思ったら祓魔師として出張所に勤務しとったから。
せやから、こうやって私から学校でのこととか話すんは…初めてに近いかも。
私に兄がいたらこないな感じだったんかなぁ、とか。たまに思ったりもするねん。このお人、めっちゃ面倒見がいいから。子供好きみたいやし。
両親はおらへんかったけど、寂しいて思わなかったんはおじ様達やタツ達、それと志摩家と宝生家の方々がいてくれはったからなんやろね。きっと。


「なぁ、神楽」
「うん?なに?」
「お前さん、…坊がお好きか?恋愛感情の方で」


突然の質問にどう答えればええかわからんで、思わず固まってしもた。
質問の意味はようわかるし、それへの答えも私の中では1つしかあらへん。あらへんけど、…そのまま答えてしもてええんやろか?やって、あのお人は明陀の次期座主になるお方で、私は守る者。
どう考えたって…身分違いや、て言われるんがオチで。

けど、柔にぃを前にして嘘はつけんし、何故か気持ちを誤魔化したくないって思ったんや。
素直に頷けば、一瞬だけ驚いた顔になったけど、すぐにいつもの大好きな笑顔で笑ってくれはった。とても、とても嬉しそうに。


「ほーか、ほーか。お前さんもちゃんと恋、しとったんやなぁ」
「…何でそないに嬉しそうなん?」
「んー?そら嬉しいに決まっとるやろ。妹分である子ぉが人を好きになれたんやから」


…そうか。柔にぃもちっさい頃の私を知っとるんやもんね。心配して当然か。
心配してくれとることも、自分のことのように喜んでくれとることも嬉しゅうてお礼を言えば、また笑ってくれはった。


「なんや少し恥ずかしいわ…」
「かいらしい顔してまぁ……せやけど、優しい顔してはる」
「そう?自分ではわからへん」
「気持ちを伝えるんは容易ではないけど、…お前さんの気持ちをないがしろにしたらあかんで?」
「……努力、する」
「ほんでいつか、幸せや!て満面の笑みで言うてくれ」


ほんまに嬉しそうに、幸せそうに笑う柔にぃは私の頭をぐっしゃぐしゃになるまで撫で続けて、甘味処を後にした。

夕暮れに染まる街を2人で並んで歩いて、虎屋に辿り着くと…玄関前にタツと蝮姉さまの姿が見えた。あんな所で2人揃って何をしてるんやろか?
意図が読めぬまま柔にぃとただいま、て言いながら近寄ってみれば、蝮姉さまがえっらい勢いで柔にぃに掴みかかりよった。これまたえっらい顔して。…美人さんなのにあないに怒ってばっかやともったいないなぁ。
怒ってる顔より、楽しそうに笑てる方が私は好きなんに。


「さーるー……貴様あああぁああ!なに勝手に神楽を連れ出しとんねん!しかも誰にも何も言わんで!!」
「ちょお出かけるくらい、誰の許可もいらへんやろ!少しは外に出て気晴らしせぇへんとまた参ってまうやろが!!」
「また始めよった……おかえり、神楽。何処行ってたん?」
「ちっさい頃、よう連れていってもろてた甘味処。久しぶりに食べたけど、やっぱりあそこの和菓子が一等好き」
「あぁ、あそこか。確かにあそこのはどれも美味いな。…俺も食いたいし、あっち戻る前に一緒に行かん?」
「!…おん、絶対。約束やで?」
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