誰にも言えない
「めっちゃ眠い……」
「神楽さん、女性がしたらあかん顔になっとります」
「せやかて眠くて仕方ないねん、…気にしとる余裕あらへん。ちゅーか、どうでもええわ」
ボソリ、と呟いて机に突っ伏せば、またそういうこと言うて…って、ねこが苦笑してる気配。えらい顔しとる自覚はあるけど、ほんまに気にしとる余裕ないほどに眠いんやって。
ここ最近、学園長に言われたことをずーっとバカ真面目に考えとって寝不足やねん。そないになるまで考えることないやろーて自分でも思うんやけど、一回考え始めると悶々としてしもてあかんなぁ…。
それを繰り返しとったら、毎日寝不足っちゅー阿呆なことになってるんです。
せやけど、それでも時間は刻々と過ぎていき、気が付いたら高校生活最後のテスト週間がやってきてしもたんです。
まぁ、授業はそれなりに聞いとったからそこまで困ってもないし、心配もしてないんやけどなー。
どっちかっちゅーと、テスト中に爆睡しそうで怖いわ。
「何や、寝不足か?」
「わ、お嬢、目の下クマさんすごいですよ?!」
「げ…ほんまか」
「色が白いから余計に目立つんやな。…今日はもうテスト終わったし、帰って寝たらどないや?」
「そうしたいのは山々なんやけど、燐くんとしえに勉強教える約束しとって…」
2人ともテストが心配やから勉強見てほしい、て少し前に連絡がきてたんよね。しえはともかく…燐くんは最後の最後まで変わっとらんなぁ、ほんまに。
これで教えんのも最後やと思うと、ちょお寂しいような気もするけどな。
ふあ、と欠伸を1つして立ち上がる。
そろそろ約束の時間やから行かんと2人から怒られてしまうわ。あー…あかん、今日はさすがにちゃんと寝よう。あのことは一旦、綺麗さっぱり忘れてしっかり眠らんと倒れそう。
心配そうに私を見とる3人にほな、また明日ーと声をかけて教室を出た。
「お嬢、どないしたんやろ?具合悪ぅて寝れんのやろか?」
「具合はええみたいですよ。そういうんやのうて、なんちゅーか…考え事、しとる感じやろか?」
「ああ…確かに少し前からえらい考え込んどるな。寝とらん原因は恐らくそれ、やろな」
「悩み事とかかなぁ?けど、眠れんほどに考え込むんやったら俺らを頼ってくれればええのに」
「「それが出来る奴(お人)やったら、こないに心配せえへん(しまへん)」」
「そないに声合わせんでも、…でもまぁ…確かにお2人の言う通りやんなぁ」
テストが始まったからか、普段そないに人の多くない図書室も大方埋まっとった。
人が仰山おるのは苦手なんやけど、まぁ図書室やからうるさくする人はおらんやろうし、大体がテスト勉強しにきとるんやしな?んな神経尖らせる必要もあらへんか。
図書室ん中にある自習室に移動すれば、そこは案外人が少なかってん。これは好都合やね、2人に説明したりすることになるやろし。
腰を下ろして何がわからんのか聞いてみれば、
燐くんはほとんどの教科。
しえは数学と英語。
…うん。しえはいい、2教科やから。
せやけど、燐くんのほとんどの教科ってなんやの?!今更ながら、全教科に近い量を教えなあかんのですか?!もー…勘弁したってやぁ…。
「ひとまず、…明日の教科から先にやろか。ええと、明日はー」
「数学と古文だったんじゃないかなぁ?」
「燐くん。どっちのが心配?」
「どっちもだけど、…数学」
「ほんなら、2人まとめて教えんで。問題集開いてー」
素直にはーい、と返事をする2人は、同い年やけど弟や妹に見えてえらいかいらしいなぁ。ちょお和んだわ。
…っと、それは置いておいて。範囲のページを開かせて、ひとまず自力で解いてもらうことにした。わからんとこは逐一聞いてもらうことにして。
2人まとめてやからそれぞれのわからんとこをハッキリさせんと教えられんのよ。それを知る為にはまず自力で問題を解いてもらうんが一番効果的!わからんとこも大体、わかってくるしねー。
…さて、問題解いてもろてる間は暇やなー。静かやしこんままやとぐっすり寝てしまいそうで危ない。
私も明日の教科、見直ししとこか。
「あれ?兄さん、…神楽さんとしえみさんも一緒だったんだ」
「雪男?何してんだ、お前」
「何って失礼だな…テストの勉強しに来たんだよ。3人は何を?」
「神楽ちゃんに教えてもらってるの!明日の数学、ちょっと不安で…」
「あぁ、成程。それだったら僕もお手伝いします、神楽さん1人では大変でしょうし」
「ほんま?助かる」
兄弟だし、ということで燐くんは雪くんに丸投げしました。お互いにえー、って顔しとったけどそんなんは無視です。無視。
やって、私より確実に燐くんの扱いに慣れとんのは雪くんの方やもん。今日みたいに寝不足で頭がほとんど回っとらん時に燐くんに勉強教えるんは至難の技なんで。ごめんやけど、丸投げする他ないんです。
よし、と自己解決した所で解き終わった、というしえの問題集の採点に取り掛かった。
…不安だ、と言っていた割には…ちゃんと解けとるやんか。引っ掛け問題も気を付けてたんか、間違ってないし。何や、前日に教えて!ってくるくらいやからどれだけのもんかと思うとったけど、よくよく考えればしえは出来る子ぉやったんよねぇ。頑張り屋やし。
心配することあらへんやん。
「ほい、しえ。ちゃんと解けとるし、そないに心配することあらへんよ?あとはしっかり復習して、自信持つだけ」
「ほんと?!えへへ、神楽ちゃんにそう言ってもらえると大丈夫な気がする!」
「すげぇなぁ、しえみ…」
「しえみさんは元々、努力家だから。ほら、兄さんも頑張って!これだと最後のテストで赤点取っちゃうよ」
「げっそれは勘弁!!!」
慌てて問題集に再度取り掛かる燐くんの姿は、傍から見る分にはめっちゃおもろい。本人は至って真面目なんやろうけどね。
さーて、私が受け持ったしえの数学は問題なさそうやしどないしよ。先に英語のわからない所を聞いてまうか、それとももう少し数学を詰めていくか…せやけど、この分なら英語も問題なさそうな気もするんやけど。
「…ねぇ、神楽ちゃん。この問題ってこの公式を当てはめるんじゃないの?」
「うん?……あぁ、これはちゃうよ。こっちの式やのうて、こっちのページにあった……ん、これや。こっちの式で解いてみ?」
「ええっと、………あ、解けた!解けたよ神楽ちゃんっ!」
「ん、よう出来ました。他に数学で不安なとこある?」
「ううん、大丈夫!あ、あの…英語も、お願いしてもいい?」
「もちろん。そういう約束やもの」
「ごめんね、ありがとう!」
わからない、というか、しえが不安やと思うとる部分の説明だけして、そのまま問題集の応用問題を解いてもらう。
さっきの数学を見る限り、1つ1つ教えていくよりこっちのが効率ええような気がしたんで。応用問題がすんなり解ければ基礎問題もおおよそ出来るはずやからね。
ほんで、しばし待ってみると横から「出来ました」と、不安気な表情を浮かべたしえが問題集をおずおずと差し出してくる。ふふ、そないにびくびくせえへんでも大丈夫やと思うけど。
採点しとる最中も不安気で、なんや頭撫でたくなってまうなぁ。この表情。やっぱりしえはかいらしいわ。
「英語も問題あらへんね。けど、長文読解が苦手みたいやから、そこ中心に復習しとけば大丈夫やないかなぁ」
「わかった!神楽ちゃん本当ありがとう、助かりました」
「いえいえ、このくらいお安い御用や」
「……あ、神楽さん。ちょっといい?話したいことが…」
「ん。外、出よっか」
燐くんとしえにごめんね、と声をかけてから私達は図書室の外へ。
扉をしめた雪くんの顔はえらい真剣で、彼が言っとった話したいことがおおよそ…予想がついてしもた。それはきっと、少し前に学園長から言われたこと。
「ええっと、…」
「……ヴァチカンの、件?」
「あ、…うん。ほら、テストも明後日で終わりだし…卒業までもう日がないでしょう?」
「せやね」
「それに…神楽さん、思い悩んでるように見えたから」
目の下のクマ、ひどいもん。
そう苦笑交じりに言うてるけど、心底心配してくれとる表情で…少しだけ、申し訳なく思ってしまった。彼だってそのことについて、しっかり考えなければいけないのになぁ。
テストだってまだ全部終わっとらんし、心配かけるのはあかん。
…そう、思うんやけど…このことはタツ達に相談するわけにいかんし、もちろんしえや出雲ちゃん、燐くんにだって出来ない。相談できるとすれば、同じ状況におる雪くんだけや。
せやから頼ったらあかん、と思いつつも…気持ちをぶつけたくなってしまうのやもしれん。
「…雪、くんは…?」
「悩んでる。…いや、悩んでたっていうのが正解かな?」
「!ちゅーことは、決めたん…?」
「うん。めちゃくちゃ悩んで、寝れなくなって、でも…これが一番最善だろう、って今は思う」
「そうなんや、…すごいなぁ」
「すごくないよ。決めたけど、それでもまだ…揺れそうになってるから」
けど、笑う雪くんの顔は、瞳は―――凛としとった。後悔だけはせんように、覚悟をした顔やった。
…せやねん。後悔をするような答えだけは、導き出したらあかんねん。
きっとこの問いに正解も不正解も存在せえへん。せやから、それならば後悔をすることだけはないようにせなあかんねや。
この問いの答えだけは、誰にも頼ったらあかん。私が、私自身がしっかりと考えて、悩んで、ほんでどうするかを決めんと何の意味もない。