笑顔の、
他人を友達と呼べるんは、いつ以来やろ。
「神楽ちゃん!神木さん!こっちだよー!!」
「そんな大きな声出さなくてもわかってるわよ!」
「あはは。おはよぉ」
昨日、突然決まった予定。
塾生みんなで遊園地に行こう、と言われ、現在に至るわけなんやけど。
「お嬢、かいらし格好してはりますなぁ!」
「昨日のも似合ってたけど、今日のも似合ってんじゃん」
私は何故か、出雲ちゃんの私服を着せられております。
身長は彼女の方が少し低いんやけど、体型はそんなに変わりあらへんから着れるやろってことで。
ちなみに今の格好はと言いますと、ホットパンツに白と黒のノースリーブの重ね着、その上に灰色のカーディガンを着とる。靴は茶色のロングブーツ(これは私物やけど)。
ほんで、髪は高い所で一括りにされとるんやけど、いつも下ろしたまんまやから何や変な感じがするわ。
…あっ別に私が服貸してって頼んだわけちゃうで?!言い出したんは出雲ちゃんの方からで…私自身はパーカーにジーンズで行こ思っとったんやけど。
「せっかくだからオシャレしなさい!」って言われてしもてな?それに朴さんまでノッてきたもんやから、さあ大変。
簡単な化粧までされて、鏡覗いてみたら知らん人が映ってる感覚やったし。
「アンタ、休みの日に寮で会うと色気のない格好してるんだもの。ちゃんとオシャレすれば綺麗なんだから、服買いなさいよ」
「せやかて、普段はあんまり出かけんし…動きやすいやんか。パーカーにジーンズ」
「でもでも!神楽ちゃん、せっかく綺麗なのにもったいないよ!」
「杜山しえみの言う通りね」
…まぁ、こういうんに興味がないわけでもないんやけどな。
雑誌見たりするんは好きやし、素直にかいらしいと思うけれども。
「けど、ほんまによう似合っとりますよ〜お嬢!あ、せや。これお嬢達の分のチケットな」
「ありがとぉ。買っといてくれたんやね」
「うし!全員揃ったし、早く行こうぜ!!」
「奥村、お前はしゃぎ過ぎや」
「迷子にならないでよ?兄さん」
わいわい、がやがや。
塾におる時と何も変わらんはずなのに、めっちゃわくわくしてくるんは何でやろか。
楽しいのか、顔が自然とにやけてしまう。…あかん。このまんまやと、ただの変な人になってしまうやんか。
―――グイッ
「ぅわ?!」
「神楽ちゃんも早く行こう!置いてかれちゃうよ?」
「おん。行こう、しえ!」
何やわからんけど、今日一日めいいっぱい遊ばな損や!
開園と同時に中に入ったんやけど、さすがは三連休の一日目。ぎょーさん人がおるなぁ…当然のことなんやろけど。
せやけど、この人の多さでも皆のテンションは下がらなかったようで、楽しそうに笑おとる。
やから、私も笑顔になれるんやろか。皆が笑顔やから、楽しそうやから。
…京都におった頃、タツ達や明陀の皆とおる時以外にこないな気持ちになったこと…あらへんなぁ。
1人で図書室におるか、タツ達とおることがほとんどやったし。
友達が一切おらへんわけやなかったんやけど、こうやって出かけることせえへんかった。こっち来てから初めてなんが、どんどん増えてくわ。
「なぁ、なぁ!最初どれ乗る?やっぱジェットコースターかな?!」
「朝っぱらから乗れないでしょ!そんなもん!!」
「何だよ、出雲〜。もしかして怖いのかぁ?」
「はっ…こ、怖いわけないでしょ!ラクショーよあれくらい!!」
…出雲ちゃん。上手く奥村くんに乗せられとるん、気ぃついてないな。
「ジェットコースター…ねぇ」
「何や。お前、苦手なんか?」
「んー…乗ったことあらへんけど、多分平気なんちゃうかなぁ?高いとこも好きやし」
「ほんなら、なん?」
「朝ご飯食べてないんよ。お腹空いたし何か食べたいんやけど、その後にジェットコースターは無謀かなと思って」
「……無謀やな」
「あはは。やっぱりー?」
ほんなら、乗ってから食べよかな。
せっかく遊びに来てんのに、気持ち悪うなって帰るーなんてもったいないし。
「最初はジェットコースターでいいのかな?佐伯さんと勝呂くんもいいですか?」
「問題あらしまへん」
「私も大丈夫です。…あ、先生?奥村くんと出雲ちゃんの姿ありませんけど」
「えっ?!」
「ものすごい勢いであっちに走っていっちゃったよ…」
「だ、大丈夫やろか…奥村くんも神木さんも」
「迷子になるってことはないんやない?そんな心配せんでもええよ、ねこ」
せやけど、追いかけないわけにはいかんよね。行く場所は同じやから、今から追いかければ追いつくんやないかな。
…あの2人がほんまに迷子になってなければ、の話やけど。
ねこには心配ない、ってゆーたけど…この人の多さはちょぉ心配や。とりあえず乗り物の場所、地図で確認しよか。
―――パラッ
「……うん?」
「神楽さん?どないしはったんえ?」
「あんなぁ…ジェットコースター、3つあんねん」
「此処の人気アトラクションみたいだから。それがどうしたの?」
「あの2人…どれを目指しはったんやろか」
私の一言に、皆がビシッと固まりはった。
奥村くんはジェットコースターに乗りたい、と言ってはっただけでアトラクションの"名前"は一切、口にしとらん。
つーまーり!どれに乗るつもりで走っていかはったのか、私らには見当がつかんっちゅーわけや。…そもそも、あの2人て地図持っとったやろか…?
「だああぁああ!!!あいつらはアホなんか?!」
「とっとりあえず追いかけようよ!ねっ?」
「しゃーない…三手に分かれて行ってみよか」
「3つありますし、それがええですね」
先生としえ、廉とねこ、私とタツに分かれて探すことになりました。無事に見つかるとええんやけどねぇ。
2人を探しに歩き始め、漂うええ匂いに思わず足が止まった。
はよ探さないかんのはわかっとるのやけど、お腹もそろそろ限界がきとるんよね。どうせ乗れるまで時間かかるやろし、食べても平気やろか。
数秒悩んだ結果、何とかなるやろっちゅー、さっきまでの思いと真逆の結論に達した。こういう時は人間の三大欲求の方が強いんや。
少し前を歩いとったタツを呼び止めた。
「ちょぉ待っとってもらってええ?あれ、買うてくるから」
「…ほんまに腹減っとるんやな」
「せやからさっきもそう言うたやないの」
「ま、時間かかりそうやしな。俺が買うてきたるわ、此処で待っとき」
「へ?あ、ちょっ…」
止める間もなく、タツは走っていきよった。
あー…別に自分で買えるんやけどなぁ。あんくらいなら。けどまぁ、ここは素直にタツの好意に甘えておきまひょか…あとで何か奢ったろ。
んー!それにしてもええ天気。人が多いのはあれやけど、こういう楽しい雰囲気は嫌いやない。
流れる音楽も、いつもなら厭わしいだけの喧騒も、普段より気にならへんし。
静かなとこが好きやけど、たまにはええな。こういうんも。塾に通うようになって慣れたんやろか。騒がしもんなぁ、あそこは。
「ねぇねぇ、キミ可愛いね!1人?良かったら俺らと遊ばない?」
ボーッと立っとったら、何や知らん男2人に声を掛けられた。
…ナンパか?こんな所まで来て、阿呆な奴らやなぁ…めんどいし、無視しとこか。
「あ、無視しないでよ〜悲しいじゃんかぁ」
「1人で回ってても楽しくないでしょ?ほら、俺らと回ろうよ」
「…別に1人じゃあらへん。人待っとるんで」
「おー!関西弁!!なぁなぁ、何処の人?大阪?京都?」
あー…至極、めんどいやっちゃなあ。
逃亡したくなるけど、それじゃタツが困ってしまうやろし…此処を離れるわけにはいかんよね。
てか、関西弁がそないに珍しいんか?別に何処出身でもええやんか、あんたらには関係あらへんのやし。
あぁ…本当に人と関わるんは、めんどくさくてしゃーないわ。
はよ何処かに行ってくれへんやろか。せっかく楽しい気分やったのに、どんどん気持ちがどす黒くなっていくような気がして。
イライラが増して、怒鳴りたくなってしまう。
「ねー、黙ってないで遊びに行こうって!」
―――グイッ
「っ!」
不意に引っ張られた腕。心臓がドクリ、と嫌な音を立てる。
鼓動がどんどん早くなって、呼吸の仕方もようわからんくなってきて。叫びかけた時、聞き慣れた低い声が聞こえた。
「ツレに何や用か」
…私はちっさい頃から付き合いがあるから、こんなん慣れっこやけど。
慣れてない人達にとっては、この見た目と目つきは怖いんやろなぁ…短い悲鳴を上げて、あっちゅー間に逃げていきよった。
本人は不本意やって顔しとるけど、一緒におると変な奴らは近寄って来ぉへんし…こないな言い方は失礼やけど、便利や。うん。
ま、一緒におる理由はそれだけやないんやけどな。
「おおきに、タツ。助かったわ」
「ほんま相変わらずやな、お前…ものの5分であないな状況か。ほれ」
「好きでなっとるんちゃうわ。ありがとぉ」
「クレープって種類多いんやな…適当に選んだし、文句言うなよ?」
「だぁいじょうぶ。せやけど、付き合い長いんやし私の好みくらいわかってるやろ?」
やって、中身いちごと生クリームやもん。
買ってもろたクレープを食べながら目的の場所に向かうと、ラッキーなことに奥村くんと出雲ちゃんを見つけた。
「あ、おった。奥村くんと出雲ちゃん」
「ほんまや……奥村!神木!」
「おっ勝呂に神楽!!おっせーぞ」
「遅いやあらへんわ!勝手に突っ走りよってからに…っ!」
「神楽、あんた何食べてんの?」
「クレープ。食べててええよ、ちょっと電話してくる。タツー、廉かねこに電話したってー。私、しえにかけるから」
「おん」
食べとったクレープを出雲ちゃんに預け(あ、幸せそうな顔して食べとる)、他の場所を探してるはずのしえに電話をかけることにした。
―――RRRR…
『はいっ!神楽ちゃん?!』
「おん。奥村くんと出雲ちゃん見つけたで」
『ほんと?!良かったー…雪ちゃん!燐と神木さん見つかったって』
後ろから「全く兄さんは…」って呆れた声と溜息が聞こえはって、思わず笑ってしもた。
ふふ…双子のはずなのに、正反対の性格しとるんよねぇ。奥村兄弟って。
クスクス笑いながら今いる場所を告げれば、「すぐ行くね!」と元気良く返事が返って来た。
しえ達が探しに行った場所から此処までは、そないに遠くなかったはずやし…すぐ合流出来るやろ。
タツの方も連絡ついたみたいやし、直に全員揃うんちゃうかな。…もしかしたら、揃った途端に奥村先生の説教が始まるかもしれへんけど。
「出雲ちゃん、おいし?」
「まっ…まぁまぁ、なんじゃない?」
「ふふっさよか。私お腹いっぱいやから、全部食べてええよ。そないに残っとらんけど」
「そういうことなら…食べてあげないこともないわよ!」
ふぅん…出雲ちゃんが可愛いもの好きなんは知っとったけど、甘いモノも好きなんやね。
今度、チョコとか差し入れしてみよかな。喜んでもらえるかもしれんし。
女の子が幸せそに笑っとるのを見るんは、何やええなぁ。
「神楽ちゃーん!」
「あ、お嬢達おりましたえ。子猫さん」
お、思った以上に皆来るんが早かったなー…って思った瞬間、えらいスピードで奥村先生が奥村くんの首を絞めてはりました。ギリギリと音がするくらいに。それもえらい形相で。
…うん。先生が怒る理由もわからんでもないですが…さすがに奥村くんがあの世に行ってしまいますよ…!!
慌てた様子でしえとねこが止めてくれはって、何とか事を納めてくれたけど。
何となくわかってはいたけど、奥村先生も怒ると怖いお人なんやねぇ。相手が双子の兄だから、っちゅーのもあるかもしれんけど、意外と手加減せぇへんのやな。
「ねぇねぇ、神楽ちゃんっ!神楽ちゃんは何乗りたい?」
「へっ?」
「ほら燐はジェットコースターに乗りたいって言ってたし、他の皆もミラーハウスとかお化け屋敷乗りたいって言ってるじゃない?神楽ちゃんだけ何も希望言ってないから、何乗りたいのかなーって」
「何て言われても……私、遊園地あんまり来たことなくて…イマイチわからんねん」
「なら、全部制覇してやろーぜ!せっかく来たんだし徹底的に遊ばねーと損だろっ!な?神楽」
「…おん。たくさん、乗ろ」
常々思ってはいたこと第二弾やけど…ほんまに何なん?奥村くんの体力ってブラックホールか何かなん?
やって朝から動き回って、騒いで、ほとんど休憩してへんのに…何であないに元気なんよ!!私かて体力には自信ある方やけど、さすがにしんどいで。
「はあ…」
「大丈夫ですか?神楽さん」
「ん。ちょぉ疲れたけど、まだ何とか平気」
「色々回りはりましたからねぇ…はい、これどうぞ。いちごミルク味ですよ」
「ありがとぉ、ねこー」
どうやら此処はソフトクリームが有名らしくて、皆で休憩がてら食べることにしたんや。
てか、種類豊富なんやねぇ…目移りするわ。私はいちごミルク見つけたから、即決まったんやけど、しえと出雲ちゃんと奥村くんはかなり悩んではるみたい。
「ねこは何にしたん?」
「僕は坊と同じ抹茶です」
「あはは。2人らしいチョイスやね」
今日は暖かいし、外でソフトクリーム食べても寒くあらへんね。
「食べ終わったら次、何乗る?」
「もうほとんど乗り終わったみたいだけど…皆は何か乗りたいものあります?」
「あ、私もう1回ミラーハウス行きたい!」
「ほんなら私も行きたいな。あれ面白かったし」
「おお!珍しくお嬢が乗り気!!!」
普段、ノリが悪いみたいな言い方せんでや。廉。
…まぁね?否定はせえへんけども。本当のことやし、こういうわいわい騒ぐのは元々好きではないし。
昔っから少し離れて、楽しんでるお人らの姿を見てる方が好きで。遊びに行く時は大体が廉やタツに誘われて、手ェ引かれて行くほどやったなぁ。無理矢理ではなかったから、私も大人しく付いて行ってたんやけども。
ソフトクリームを食べながら皆が話してるんをボーッと見てとったら、頭に温かいものが触れた。気配から察するに…タツの手ェか?
「…楽しいか?今日」
「おん。楽しいよ、めっちゃ楽しい」
「さよか。…ま、いつもより自然に笑おとるし安心したわ」
「何やのよ、普段は愛想笑いしとるみたいな言い方ー」
「否定出来るんか?」
「出来っ……ない、です、けど」
「ははっせやろなぁ」
ほーんと…タツの観察眼には敵わへんわ。必死に隠しとっても、いつの間にか気ィつかれとるし、笑おて誤魔化そ思っても効かんし。幼なじみやから、と思っとったけどー…廉やねこが気付かんことでも、タツは気ィついてしまうことも多い。
タツにとって私は…目の離せん幼なじみなんやろか。それとも―――――…
「(は…阿呆らし。タツは色恋に現抜かしとる場合ちゃう、って言うてたやないの)」
いつでも見ててほしい、いつでも見つけてほしいって思うんは…ただの幼なじみへの感情ちゃうよねぇ?
「最後!アレ乗ろうぜ!」
そう言うて奥村くんが指差したんは、観覧車。
恋人同士で来た遊園地なら、最後にこれは外せんのやろけど…え、このメンバーでこれ乗るん?全員、いっぺんには乗れへんで?4人が限界、やろか。
…個人的な気持ちとしては、タツと乗りたい所やけど…嫌がるやろな。しえと出雲ちゃんと乗ろかなぁ。
「雪男、神楽っ一緒に乗ろうぜ!」
「そうだね。行こうか、佐伯さん」
―――グイッ
「は?!ちょ、奥村兄弟っ…!」
人の意見は無視かいっ!!!てか、他の皆の意見も何も聞かんで決定してしもてええんか?!
2人の行動の早さに、タツ達も何も言えんまま、ポカーンとしてはるで!
えええ…どないしはるん、この素敵な何とも言えん状態。
とか何とか考えとる間に観覧車に乗せられとるけどな。…あ、景色綺麗。
「全く…奥村くんは通常運転だとして、奥村先生までどないしはったんです?」
「通常運転って何だよ!」
「言葉のまんまやー。…で、何で全員の意見無視してこないなことになってるんよ」
「お前、いつも勝呂達かしえみと一緒にいるじゃん?あんまりゆっくり話したことねぇなーと思って」
いや、そんなことあらしまへんけど。結構、話してる方やと思いますよ?私の中では。
やけど、話なんて何処でも出来ると思うんやけど…わざわざ観覧車に乗る必要はなかった気がするんやけどなぁ。
「それもそうなんだけど…兄さんが乗りたい、って言うもんだから。でも思ってたより景色が綺麗なんだね」
「あぁ…それは私も思いましたよ。こういうんは初めて乗りましたけど…ええもんですね」
陽が沈み始めてるから、尚更綺麗に見える気ィがするわ。
…そうや。他の皆はどないグループ分けして乗りはったんやろか。
いや、廉は出雲ちゃんと乗りたいとか言いそうやけど…他の皆は意外と嫌がりそうや。タツと出雲ちゃんは特に。
下で私達が降りてくるのを待っとる確率が高いかもしれんね。無理に乗る必要はあらへんし。言い出したんは奥村くんで、誰も同調せんかったもん。
「…ほんで?お話するんやろ?何か聞きたいことあるん?奥村くん」
「まず呼び方!」
「はい?」
「その呼び方、どうにかなんねぇの?」
「それは僕も思ってたよ。佐伯さん、僕達のこと"奥村くん"か"先生"って呼ぶでしょ?」
「雪男を呼んでる時は"先生"だからまだいいんだけどさ、俺のこと呼ぶ時ってややこしいんだよなぁ」
ふむ。言われてみればそうやなぁ…時々、まとめて"奥村兄弟"って呼ぶこともあるし。
そん時は先生は何とも言えない顔で苦笑しとって、奥村くんは「えー…」って顔しとったっけ。さすがに呼び方考えなあかんかな、と思ったんやけど…結局そのままにしてたわ。
んー…何や今更感が満載やけど、良い機会か。
先生には学校で会った時、塾ん時みたいに呼べへんし。
「…燐くんと雪くん」
「「へ?」」
「せやから、呼び方。燐くんと雪くんでどやろか」
呼び捨てにすんのは何や勇気いるし(奥村くんは私のこと呼び捨てで呼んではるけど)、名字は2人同じやからダメやし、やから燐くんと雪くんにしよと思ったんやけど…あかんかったかな?先生は雪男くんって言うより短くて呼びやすいし。
しえみたいに"雪ちゃん"もかいらしいかなぁって思ったんやけど、仮にも男の子やからね。かいらしいって言われんの、嫌やろうから。
んー…それにしても、2人からの反応が何もないんやけど。え、まさかだんまりになるほど嫌やったんかな…?!せやけど、言い出したんはあっちやし!!
「あ、あの…そんなに嫌やったら、もう少し考えますけど…?」
「ぅえ?!あっちが…っ!!嫌じゃねぇ!全然嫌じゃないから!!!なっ雪男!」
「うん!大丈夫だから、佐伯さん!!ちょっと呼び慣れてない呼び方だったから、僕も兄さんもびっくりしただけで…!」
「ほんなら良かったけど。じゃあ、これからそう呼ばせてもらいます。塾では雪くんでなく、今まで通り先生やけど」
「先生呼びは、授業中だけでいいよ」
「…あ、私からも雪くんにお願いあるんやけど」
「どうぞ?」
「雪くんも私のこと、名前で呼んでぇな」
にっこりと笑って告げたら、雪くんはビシッと音がするくらい固まりはった。
それも地上に着くまでの間ずーっと。
観覧車を降りてみれば、他の皆は案の定下で待っとったみたい。各々、好きに過ごしてたみたいやね。
「おかえりなさい!どうだった?」
「思っとったより、景色が綺麗やったよ。しえも出雲ちゃんと乗れば良かったのに」
「誘ったんだけど断られちゃって…」
…うん。そやね。出雲ちゃんは素直になれへん子ぉやから、乗りたいと思っても言えへんよね。
それはわかっとるんやけど…私やしえの前ではもうちょい素直になればええのになぁ。もしくは朴さんの前でもええんやけど。
「神楽、何やええことあったんか?笑っとる」
「うん?んー……そやね、ええことかもしれん。また少しな、皆と近づけた気ィがするんよ」
「…ほーか。そりゃ確かにええことや」
嬉しくてニコニコしながらそう言えば、タツも優しい顔で笑てくれて、更にわしゃわしゃと頭を撫でてくれた。
ちょぉ乱暴なんやけど、タツに撫でられんの好きなんや。
ちっさい頃からこの頭を撫でてくれる温かさと、優しさは変わらへん。大好きで、失くしとうないモノ。
ずっと、ずーっと…タツの隣におれたらええのに。…それはきっと無理なことなんやろけど、それでも願いたい。
どんな理由でも、義務でもええから―――私はこのお人の隣に、傍におりたい。