やり直しましょう
フェレス卿が手配しとってくれたらしいホテルに何故か全員で泊まることになり、ごっつ驚いたんは今から1時間前のこと。
高校卒業と同時に日本を発った私と雪は、当然ながらこっちに住む家がない。まぁ、当然やんな?学生時代は寮暮らしやったんやし。ほんで、急遽帰国することを知ったフェレス卿がこんホテルを手配しとってくれたんやて。
…まぁ、それは有難いから遠慮なく受け取るにしてもや。なーんでおのお人は皆で飲むっちゅーことを知っとったんやろか?ほんまに盗聴とかされとるんちゃうか、て怖くなる。やって燐くん達はだぁれも言うてない、て言うとるんやもん。怖くなるのも頷けるやろ?
京都から来とったタツ達は宿を探す手間が省けた、て喜んどったけど。
そんなこんなで、慌ただしくホテルに移動してきた次第です。
「はー…こないに遅くでも広いお風呂に入れるてええなぁ」
荷物整理もそこそこに、私は1人大浴場へとやってきていた。
長旅の疲れを癒したかったし、向こうではゆっくり湯船につかることも出来んかったからね〜久しぶりにお風呂でのんびりしたかったんよ。
普段より眺めにつかって外へと出れば、同じように大浴場へと来ていたであろうタツとバッタリ出くわした。わお、さっきぶりやね。ああ、でもようやくちゃんと顔を見れたような気ぃするわ。向こうも会うとは思ってなかったんやろ、えらいびっくりしとるわ。
「お前も風呂来とったんか」
「おん。廉とねこは一緒やないん?」
「あいつらは部屋着いて早々に寝落ちしたわ。酒がまわったんやろ」
「廉はめっちゃ飲んどったもんなぁ」
飲み会の様子を思い出してくつくつ笑えば、タツも私と同じように笑っていて。3年も離れてたとは思えんくらい、あの頃と同じ感覚が蘇ってくる。ずーっと一緒におった、あの頃の感覚を。
せやけど、少しだけ違うのは…私達が気持ちを通じ合わせているということ。
付き合うとるのかはまた微妙な所ではあるけれど、それでも両想いになったという事実は消えることなく存在しとる。あの時言うた通り、私は全く会えん期間があってもこのお人以外を好きになることはなかった。女々しいほどに、いまだに恋焦がれとるんよ。
願わくばタツも同じ気持ちなら良い、と。ヴァチカンにいる間、何度思ったか知れん。何十年でも待っとる、て言うてくれたけど…実際の気持ちは目の前にいる本人にしかわからへんことや。聞きたい気もする、けど、聞きたないて思う自分もおる。
ああ、あかん。私、こないに臆病者やったんやね。改めて実感したわ。
「あ、の…タツ、」
「……な、俺、志摩達と同室やねん。ちょお話したいから、お前の部屋行ってもええ?」
「!う、…うん」
ほな行こか、と繋がれた手ぇはあの頃と同じくらいに温くて安心できる。微笑みながら話す横顔も、基本的には何も変わっとらん。
タツが何を話したいのか、それは全然想像がつかんけれど。けど、このお人の温もりに触れてまだ希望はあるのかもしれん、て思ってしまった私は…浅ましいのやろか。
「こうやって話すん久しぶりやな」
「全く連絡取ってなかったもんなぁ…堪忍」
「ええねん。俺かて連絡せんかったし、それに…下手に連絡取ると、会いたくなりそうや」
その言葉に思わずドキッとしてしもうたのは、私だけの秘密。
こんなん本人に知れてしまったら恥ずかしくて生きていけんわ。再会した時からずっと、ドキドキしてしゃあないんに。このお人はどこまで惚れさせたら気が済むんやろか…ほんまに疑問やわ。きっと自覚はないんやろうけれど。
ベッドに腰掛けて話すのは、ちょっとした昔話。祓魔師になる為、一生懸命勉強や実戦訓練に励んでいた毎日のことや。それと、祓魔師になってからのことも。
当然のことやけど、高校卒業した後は違う道を進んどったからどんな風に過ごしていたのかとか何にもわからん。何にも知らん。辛かったこととか、嬉しかったこととか、悲しかったこととか…離れとった3年間のことは、なぁんにも共有できんのや。それが私の決めたこととはいえ、こうやって目の当たりにするとやっぱり寂しい。
逆に私が過ごした3年間のことは、タツは共有することはできんということ。それも当たり前のことやけどな。…アンタも、それを寂しいと思ってくれはるんやろか?
「好き」
気ぃついたら自然と零れ落ちていた脈絡のない言葉。自分でもびっくりしたけど、それ以上にタツの方がびっくりしとったみたい。でもすぐに嬉しそうに笑ってくれて、ぎゅーって抱きしめられました。ああ、この感覚も久しぶりやなぁ…やっぱりこのお人の体温は安心できるわ。
そのまましばらく抱き合ってると、自然と唇が重なった。
あん時はただ触れ合うだけのキスやったけど、今度は最初から全てを暴かれてしまいそうなほどに激しくて。ただついていくことに必死。
「神楽…」
「ん、む……ぁ、タツ、」
「好きや、神楽。お前が欲しくて、欲しくてしゃあない…!」
「ええよ、…アンタに全部あげる。せやから、アンタの全部を私にちょうだい―――竜士」
その言葉を合図に、私達は柔らかいベッドの海へと体を沈めた。