怪しい雲行き


座学で学んでも、ぎょーさん本を読んで知識を増やしても…それを生かせんかったら、何の意味もないと思うんや。


「え、実践訓練?」
「はい。今日の授業は実際に悪魔と対峙して頂きます」
「付き添いは私と雪男でやるからなー」


いつものように祓魔塾へ来てみれば、珍しくシュラ先生と奥村先生がおった。
シュラ先生はこうやってたまーに塾へ顔を出しはるんやけど、授業に参加することはあんまりなくて。
せやけど、シュラ先生の身のこなしとか詠唱とか剣捌きとか、同じ女性として憧れるねん。いつか、ああなりたいて…思っとる。

…あかん。話が逸れてもうた。
えーと、今日の授業は悪魔を祓うっちゅーことでええんかな?せやけど、どないすんのやろ。悪魔を呼び出す、っちゅーわけやあらへんよな?


「実践訓練に必要な悪魔は、学園長がある場所に用意しているとのことですが…」


何度か見たことがあるけど、あのお人は信用してええんやろか?正十字学園の学園長やからね、あんまりこういうこと言ったらあかんのやろけど…何やうさんくさい気がすんねや。
私の気のせいやったらええんやけど…何やろなぁ、この変な恐怖感みたいなの。この実践訓練で、何や起きそうな気ぃがして。
心配しすぎなんかもしれん。ただの気のせいかもしれん。ただ、訓練が怖いだけなのかもしれん。
理由はいっくらでも出てくる。…のに、胸騒ぎが治まらんのは…何でなんやろか。


「神楽さん?ボーッとしはってどないしたんです?移動しまひょ」
「え?あ、おん…今行くわ」


やってしもた…考え事に没頭し過ぎて、皆が移動しとんのに気ィついてなかったわ。ねこが声かけてくれんかったら、私置いてきぼりやったかも。
訓練にも遅刻しとったかもしれんねぇ。うん。ねこには感謝せなあかんね。
持ち歩いてる天ノ鬼を手に、廊下で待っとってくれたタツ達の元へ向かう。
何や不安がぎょーさんあるけど、ひとまず置いとこ。
気ィが散っとったままやと怪我してまう恐れがあるもんね。それだけは避けんと。
授業とはいえ、実際に悪魔と対峙するんやし…しっかりせな!

皆に追いついて、最初に思ったこと。
え。此処でやるん?やって、廃墟とはいえぎょーさん建物があるんやで?ビルやったものや、家やったものとか!
いくら壊れかけてるからっちゅーても、更に壊すんはマズイんちゃう…?何やこう…色々と。周囲への騒音とかな?


「奥村先生…パッと見、住宅街やった場所に見えるんですけど」
「ええ、その通りです」
「ぅえ?!そんな場所で訓練なんぞしてええんですか?!」


あ、やっぱりそう思うよなぁ。廉も。
此処でやれ、ゆーんならやりますけど…あとで怒られたりすんのは勘弁やもん。その前にハッキリさせとくことが出来るんなら、しときたい。


「大丈夫らしいですよ。学園長から指定された場所は此処で間違いありませんし、恐らくは此処も学園の所有物なのでしょう」
「どんだけでっかいんだよ、この学園…」
「燐くんの意見に賛成やわ」
「私も…。ということは、壊れても大丈夫ってことなのかな?」
「奥村先生の言い方だとそうなんじゃないの?」


ええなら別に構わんけど…一体、何なんやこの学園は。
お金持ちのお人らが通う学園やっちゅーのは、受験する時に知っとったけど。
…まぁ、知らんくても学園の建物とか中の広さ見れば一目瞭然なんやけどねー。ほんまでっかいから。

この廃墟が立ち並ぶ此処って…祓魔塾の実践訓練の為に作られた場所なんやろか?いくら何でもそれは勘ぐり過ぎのような気もするんやけども。
せやけど、あの学園長は何を考えとんのか全く読めん方やからなぁ…イマイチわからんわ。勘ぐり過ぎなんか、当たってるんか。


「まぁ、メフィストが此処を指定してんだ。お前らは余計な心配しないで訓練に集中しろよー」
「では、訓練について説明しますのできちんと聞いていて下さいね。…特に奥村くん」
「名指し?!!」


うん、まぁ…奥村くんて人の話聞いとらんこと多いもんね。奥村先生が名指しで注意したなる気持ちもわからんでもないわな。正直な所。

えっと、それはひとまず置いておいて。奥村先生の説明を要約すると…今回の実践訓練は、2人一組で行うもんらしい。
そこで私らの志望称号をまとめると、詠唱騎士希望が4人、手騎士が3人、竜騎士が1人、騎士が2人。
てことは、つまり詠唱騎士はバラバラにならんとあかんっちゅーわけやね。詠唱中は無防備になってしまうから、誰かと組まなあかんねん。
せやけど、まだ銃火器の訓練は塾でやっとらんから竜騎士の実践訓練は今回はなしになるみたい。しゃーないけど、当然の判断やね。

ほんで、奥村先生とシュラ先生の話し合いの結果―――…


「じゃあ発表すんぞー。最初は志摩と宝。次は勝呂と神木。その次は杜山と三輪。最後は燐と佐伯なー」
「何や面白い組み合わせになりましたねぇ…杜山さん、よろしゅうに」
「う、うん!こちらこそよろしくね三輪くん!!」
「…俺、めっちゃ不安なんやけど…!!」
「………」
「何で私がアンタと組まなきゃなんないのよ!」
「それはこっちの台詞や!」


…タツと廉が一番心配や。ちゃんと協力出来るんやろか。



「神楽よろしくな!」
「おん。よろしゅうに、燐くん」
「でもさ、お前も騎士志望だろ?何で俺と組むんだ?」
「私、騎士の他に詠唱騎士も志望しとるもん」
「んじゃ今回はそっちの実践か」
「そうみたいやね」


燐くんと組むんか…あまり心配せんでも良さそうやね。最近は修行も頑張ってるて言うとったし、炎の制御も大分出来るようになったて嬉しそうにしとったもん。

組み合わせが発表されたとこで、実践訓練開始。
最初は廉と宝くんのコンビなんやけど…廉、聖書も何も覚えとらんかったみたいでてんやわんや。
宝くんは傀儡師やっちゅーことやったから、それに救われた感じやね。このコンビは。
廉はまーたタツとねこにえらい怒られるんちゃうかなぁ。今回はフォローしてあげられへんわ…完全に悪いんは廉やもん。

その次はタツと出雲ちゃん。犬猿の仲の割にはしっかりと役割分担出来とる感じかなぁ。
お。詠唱しとるタツを、召喚した白狐でしっかり守ってはる…意外とええコンビやないの?…まぁ、いがみ合いながらの共同戦線て初めて見たけど。

そしてねことしえのコンビ。何やほんわかしてまうなぁ。
しえが召喚出来んのは、使い魔の緑男の幼生。どうやるんかなぁと思っとったんやけど…向かってくる悪魔を一気に成長させた木で食い止めたり、上手くやっとる。
しえがこうやって戦っとるのは初めて見たけど、すごい。やっぱりこの子ぉは強い心の持ち主や。
ねこの詠唱はさすがやんなぁ…しっかり暗記しとるし、悪魔を目の前にしても全然怯んどらんもん。


「皆すごいなぁ…」
「俺らも負けてらんねーな!」
「奥村くん、佐伯さん。君達の番ですよ、準備を」
「あ、はい」


腰と足に祓魔に必要な道具を詰め込んだ小さなバックを取りつけて、刀はー…使わんやろうから、此処に置いていこかな。
ん。これで準備万端や。

燐くんと並んで、今まで皆が悪魔と対峙しとった場所まで来ると…奥から悪魔が1体、姿を現した。
その姿を見て、私達は驚愕することになるんやけど。


「…さっきまでのより、でかくね?」
「明らかにおっきいねぇ…ラストやからって、奮発し過ぎやないの?学園長」
「奮発って表現はおかしくね?」
「それ以外に表現しようがあらへんわ。…来るで」


おっきい割に動きは機敏や。種類は屍、やろか。
屍系の悪魔の致死節は、確か"ヨハネ伝福音書"に集中しとったな。全二十一章…暗記は出来とるけど、ここで問題が1つ発生してたりすんのよね。


「神楽っ!俺が足止めすっから、詠唱頼む!!」
「そのつもりやってんけどな?ちょぉ問題が発生しとんねん」
「は?何だよ、問題って!」
「暗記は出来とるから、詠唱出来んっちゅー心配はないんやけど…いくつかにしか絞れへんねん!これや!っちゅーのが思い出せんのや!」


そう。二十一章あるうち、5つくらいまでには絞れた。せやけど、目の前にいる悪魔の致死節がそれのどれかがハッキリせんの。そこら辺はまだ勉強中やったもんでな。
せやから、1発で決められる自信が全くあらへん…!下手するとどれもハズレ、っちゅーこともあるわけで。
そう考えとる間にも悪魔はどんどん近付いてくる。気がつけば目の前や。

…あぁ、もう!悩んどる暇はあらへん!ぐだぐだ悩んどるくらいなら、詠唱してくしか策はない。
ダメやった時はそれこそ、最初っから詠唱したるわっ


「燐くん!」
「おう!何だっ」
「とりあえず詠唱に入るから頼むで!」
「任せとけ!どれがあいつの致死節なのかわかったのか?!」
「わからん!数打ちゃ当たるやろ!!」


振り上げられた悪魔の腕。そのまま真っ直ぐに振り下ろされた腕は、簡単に地面にめり込んだ。力は半端ないんやな…捕まったら一発でお陀仏や。
燐くんは強いけど、いつまでも抑えられるわけやない。さっさとせんと!

腰に装着しとるバックから数珠を取り出す。
なくても困らんけど、この方が気持ちが引き締まんのや。


―――ジャラッ

「『我は眞の葡萄の樹…!』」
「…おい、雪男。気がついてるか?」
「ええ。あの2人の悪魔だけ…何かが違います」
「メフィストめ…一体、何を考えてやがる?燐だけじゃ飽き足らず、佐伯まで巻き込むつもりなのか?」
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