走れ!


山の頂上―――何やでっかいもんが鎮座しとる。更に空気も悪い。
ちゅーことは…あれが不浄王か。あないでっかいもんやなんて、知らんかったわ。まず、そんなんがここ京都に封印されとったことも初耳やったけど。

燐くんを助け出した私達が、シュラ先生に言い渡されたんは…おじ様を見つけること。
蝮姉さまと柔にぃが最後に目撃した場所に、おじ様はおらんかったと。
何処かで戦ってるんか、それともおじ様の身に何かが起きたんか…それはわからへん。
せやけど、何や嫌な予感がするんや。はよおじ様を見つけんと…!!


「!ちょっとあれ…和尚さんじゃない?!」


出雲ちゃんが指差した先。
そこに横たわっとたんは…紛れもない、おじ様―――


「和尚!」
「おじ様!!」


ひどい怪我や…!出血の量も半端やない!
おじ様は目を閉じたまま、ピクリとも動かへん…嘘やんね?生きてるんやろ?絶対っ…死んだりせぇへんよね?おじ様……!!!


―――ボッ

「きゃっ…!」
「な……ッ」
『我は伽樓羅という名で、明王陀羅尼の座主に仕えし者』
「か、るら…?」
「お…和尚の使い魔なんか?!」
『…だったが、その"秘密"が漏れた今、契約は解消された。今は勝呂達磨と個人的な契約を履行中だ』


個人的な、契約…?それにおじ様に使い魔がおったなんて、初めて聞いた。
次々に新たな事実が出て来よるから、理解するんが大変や…!ほんまに頭、パンクするんとちゃうやろか。
クラクラする頭を押さえてると、おじ様が目を覚ました。どうやら使い魔の"カルラ"がおじ様の傷を癒しとってくれたみたいや。
最悪の状態は回避したみたいやけど、それでも動くことは出来ん。血も足りないやろし。


「燐くん…!手紙を…読んで来てくれたんか」
「俺も読んだ」
「…おじ様。私達、皆大体の事情は理解して此処におります」
「せや。秘密は残らず話してもらう」


そしておじ様は静かに、不浄王の倒し方について説明してくれはった。
不浄王はどんどん巨大になって、やがて一城ほどの大きさになり…ほどなく、中央に巨大な胞子嚢がつくられるそうや。
その胞子嚢が熟して、爆発すると、濃い毒素の胞子…"瘴気"を撒き散らしてしまう。
150年前、4万人を殺したんも胞子嚢の破裂によるもの。
今の京都では、被害は4万人では収まらん。それだけは、阻止せんといかんっちゅーことやね。
やけど、胞子嚢が破裂する前に倒せばええってことなんか…?


「それが事はそう単純やない」


おじ様の口から次に語られたのは、不浄王の急所。
急所と思しき"心臓"が在るのは―――胞子嚢の、中だということ。


「150年前、不浄王と戦った不角は未知の魔物に苦戦した挙句、その心臓を二つに分け封印するしかなかった」
「それが不浄王の右目と左目…ってワケね」


つまり、胞子嚢を一旦破裂させんと"心臓"が打てんいうこと。
事は思った以上に深刻で、厄介や。どう頑張った所で、瘴気を撒き散らさんで不浄王を倒すんは無理やっちゅーことやろ?


「おじ様は…どうするつもりやったんですか」
「私は十五年前、この伽樓羅と"劫波焔"を借りる契約をした。劫波焔は人の生きた年月を焔に変える術。一生の終わりに放出し、一切を焼きつくす大火焔…私はそれを切り札に不浄王を倒そうと考えとった。しかし、十五年ほど蓄えた焔を不浄王の足を止める為に使ってしもた。残る焔はあと僅か…」


おじ様は残りの劫波焔で、胞子嚢が破裂しても瘴気が外に漏れんように結界を張るつもりや、と教えてくれた。
そして燐くんに降魔剣で不浄王の心臓を、焚滅してほしいと。

…やったんやけど、肝心の燐くんは剣を抜くことが出来んらしい。本人もようわかっとらん様子やけど、恐らく精神的な問題やろうね。憶測でしかあらへんけど。
結界だけでも、とおじ様は言っとるけど…もうおじ様の体は限界や。
こないにボロボロの体で結界なんて張ったら、今度こそおじ様の命はのうなってしまう。私達に出来ることは何もあらへんの……?!


『おや?そういえば、お前は達磨の息子か。なら、丁度いい。血が繋がっている者へならば、劫波焔を移すことが出来る』
「あかん!!それだけはあかん…!!まだ子供や!竜士は絶対に巻き込ませへん!!こんな柵は当代で断つて私はこの命を懸けて誓うたんや!!それだけは…」


ずーっと…タツが感じとったこと。
それはおじ様が全てを意図的に遠ざけて、一人で背負うて来たんやね。
タツに背負わせたくなかったから。自分の大切な子ぉを…危険に晒したくなかったから。

せやけど、タツは背負うことを選んだ。そういう子ぉやってわかっとったから、おじ様は関わらせたなかったんやろうけど。
血の証を示して、劫波焔の所有者はタツへと移った。彼の身に宿ったんは、燐くんのとは逆の―――赤い炎。


「杜山さん、それに神木。此処に残って和尚を頼めるか?」
「う、うん!」
「…わかった」
「神楽、志摩、子猫丸。3人は霧隠先生や明陀の皆にさっきの話を伝えに行ってくれ」
「アンタは…タツはどないしはるん?」
「俺は結界を張りに行く。この結界は触地印を中心に広がる、なるべく胞子嚢の近くで展開せな」
「?!む、無茶や…!」
「そうですよ、坊!あんな所に行かはるゆうんですか?!無茶です!!」


そんなことしはったら、アンタの命がどうなるか…!!!


「坊!今まで親がメンドいから黙って従っとったけど、今回のは話が違うし、一言ゆわせてもらうわ。アンタ、ほんまに死ぬで?」
「大丈夫だ。勝呂は俺が守る!」


言い出したんは燐くん。まさかのお人がそんなん言い出して、一瞬ポカーンとしてしもたわ!
…せやけど、ほんまに彼は強いから。剣が抜けんのは気掛かりやけど、それでも―――――

そこまで考えてハッとした。私はタツのことを、燐くん1人に任せよとしとることに。
何でここにきて逃げようとしとんのや。
私の役目は、祓魔師を目指した理由はっ…こんお人を護る為やなかったんか。
それを他人に背負いこませて、自分はタツの傍を離れるんか。…そんなんは、あかん!


「…私も行くで」
「なっ神楽?!」
「お嬢まで何言い出しますのん?!!」
「私はタツを護る為におるんや。ここで離れてどないすんの?」
「お前っ…!どれだけ危のう所かわかってるんか?!」
「わかっとるよ、そんくらい。死ぬかもしれんのやろ?そんくらいわかるわ。せやけど、そんな所にアンタと燐くん2人だけを黙って行かせられるほど…私は薄情者やないつもりや!」


タツを護りたい。それは佐伯の家に生まれたからやない。
私自身がタツに出会って、タツと過ごして、ほんで自分の意志で決めたことや。家のことや、血のことや、明陀のことも…何1つ関係ない。


「それとな、燐くん」
「う?え、お、おう!」
「剣が抜けんの、精神的なもんかもって言うとったよね?」
「…た、ぶん…」
「きっと燐くんは自信がのうなって、怖くなっとるだけや。また暴走するんやないか、って…誰かを傷つけるんやないかって」


燐くんはタツと同じで、見た目とは違って…とても優しいから。


「せやから、剣を抜くことが出来んのやと私は思うとる。…けどな、大丈夫やから」
「え…?」
「自信持ちぃな。もし暴走してどうにもならんくなったら、私が止めたる!」


さっきのシュラ先生の印、覚えてるから。無理矢理にはなるやろうけど、正気を取り戻すことくらいには…役立つはずやから。


「神楽…」
「燐くんなら絶対に大丈夫や」





「っぅわ……!高い!早い!!」
「神楽!大丈夫か?!」
「あんま大丈夫やないいぃい!!!」


私の握力じゃ、この風圧とスピードに負けそうなんよ!
こんな所で振り落とされでもしたら、間違いなくお陀仏や!不浄王を倒す所の話やない!!


「俺にしっかり掴まっとれ!絶対に離すんやないで!!」
「お、おん!」


私達が乗ってるんは、燐くんの使い魔だというケットシー。所謂、化け猫と呼ばれるもんや。ちなみに名前はクロいうらしい。
その子ぉが燐くんのことが心配やからって、不浄王の近くまで連れてってくれるらしいんやけど…正直、めっちゃ怖いんや!!!

タツの腰に腕を回して、ギューッと抱きついてみれば…微かにタツの体が震えとった。
武者震い…ってわけやなさそうやね。きっと―――この不浄王が恐ろしいんや。私かてさすがに恐ろしいもん。


「神楽?」
「…大丈夫。タツなら絶対に出来るから。それに1人やない、皆おるから…気張りや」
「そーだぞ、勝呂!多分、皆…今頃やれることやってんだろーから俺達もやれることやろうぜ!勝呂姫は結界つくるのに集中しとけ!」
「だっ?!」
「あっはは!タツが姫……っ!!!」
「笑うなや神楽!!!誰が姫や、ドツキ回すぞ!」
「メソメソしてっからだろ。俺だってお前みてーなゴツイ姫の騎士なんてごめんだよ」


あー、おっかしいわぁ。ほんま、良いコンビやね?タツと燐くんは。


「クッソ…お前なんぞに言われんでもやるわ!!」
「タツの援護は私に任してや。…燐くんは前だけ見とってな」
「おうッよろしく頼むぜ!―――勝つぞ、勝呂!神楽!!」


燐くんやって、きっと焦っとる。剣が抜けん事実に。
自信持ちぃて簡単に言うてしもたけど…そない簡単に自信が持てたら、誰も悩まんわ。きっと一番難しいことやから。自分に自信持つゆうことは。
せやけど、燐くんは自分に自信さえ持てたら―――もっと強ぉなれると思うんや。
ここで自信が持てず、剣が抜けんかったら…何にもならん。
そして燐くんはこの先ずっと、炎を操れんようになってしまうかもしれんもの。操れんかったら危険対象としか見られんやろうし、ほんまに処刑されてまう。


「ここが…全員の正念場や」


私も気張らな。結界を張るタツを、絶対に護る!
こんな所で死なせとうないし、何一つ失いとうないから。


「―――カンマン!!!」
『勝呂竜士。お前の結界呪…確かに聞き届けた』


やった…!まずは第一関門突破、やね。

―――チャキッ…

あとは…触地印を崩させんようにタツを護らんといかん。
頑張り所や。せやから、私と一緒に戦ってぇや―――相棒、"天ノ鬼"!!
- 8 -
prevbacknext
TOP