確固たる決意
―――ザシュッ
「ちぃっ…!!」
斬っても斬っても…全くキリがない!ラチもあかん!!
確か不浄王っちゅーんは"腐の王の眷属"…弱点が火なんは覚えてるけど、私は悪魔を召喚出来んし、火炎放射器も持っとらん。
燐くんの青の炎やったらきっと一発なんやろうけど、そうも言っとられん状況や。一体どうすりゃあいい…!!!
瘴気が濃くなってきよった…はよどうにかせんと、タツを護る前に私が倒れてしまう。
それだけは…どうにかして避けなあかん!
「死なせへん…護るんや。絶対に!」
その時、胞子嚢が破裂して…瘴気が撒き散らされた。
中から現れたんは―――不浄王の心臓。私達が狙っていた本体や。
あ、れが…不浄王の本体。姿を見るだけで体が震えてきよる…何ちゅー禍々しさなんや!
「ゲホッゴホッ」
「!タツ―――…ッぐ……!」
―――ガクンッ
「勝呂?神楽?!」
あかん…瘴気を吸いこんでしもた。息が上手く出来んようになってきよったし、気分も最っ悪や…!
剣で体を支えとるけど、腕にも足にも力が入らん…少しでも気ィ抜いたら、意識が飛んでしまいそうや。
それでも倒れるワケにはいかんのや…!
必死に顔を上に向けてみれば、すぐそこに不浄王の本体が迫っとった。ほんまにすぐ…私と、タツの真後ろに。
「な……」
「しまった…!」
「勝呂!!神楽!!」
「伽樓羅!!俺を守れ!!」
『…判った』
―――カッ
タツが左手を地面に突き刺せば、彼の体は赤い炎に包まれた。
その炎によって不浄王はいったん退いた、けど…それは一時的にしか過ぎん。
この結界も…二重の構えにしたことで、体力の消耗も激しいやろう。
タツの体やってもうボロボロになりかけとる…いつ限界を迎えてもおかしないんや。本人は、15分もたせられるか…自信がないて言った。
「…子猫も志摩も、結局間に合わへんかったな…皆、無事やとええけどなぁ」
「無事に決まってんだろ!!」
「燐くん……」
そうや。絶対、皆無事や。ここで信じんとどうするっちゅー話や。それにタツらしゅうない弱音吐きよってからに…!!
私は傍に寄って、傾ぎそうになるタツの体を支える。
とにかく、この結界を綻ばせたらあかんのや…けど、タツ自身の意識が朦朧としてきとるみたいで。時間が―――ない。
燐くんが必死に剣を抜こうとするけれど、抜けない。
必死で、悲痛な叫びがここまで届く。彼が戦ってるのは、紛れもない自分自身や。
きっとおじ様に協力するて言うた時から…抗ってたんやね。
「もう、終いやな」
「タツ…?」
「俺の結界が持っとるうち…お前は神楽と逃げや!!逃げて、今から少しでも人を避難さすんや…!」
「アンタ…何言うとるんかわかってるんか!!何でアンタを置いて逃げなあかんの!!!」
「はよ行きぃ。一分一秒も惜しいわ」
ふざけるな……ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!!
「行け!!」
「嫌や!!私はっ…絶対逃げへん!アンタ置いていくくらいなら、最期まで一緒におるわっ」
「神楽…!」
言うこと聞きぃ、という目で睨まれるけど…今の私にはそんなもん通用せんぞ。
なに諦めようとしとるんや。なに…自分だけ犠牲になろうとしとるんや。そんなん…っ私は絶対に許さへん!
体を支える手に力を込め直す。絶対に離れへん。絶対に逃げへん。…その確固たる意志を、タツに伝える為に。
そん時、この場に似合わん間抜けな言葉が耳に届いた。
「あー…あれ!何だっけ…あぁ、そうだ!京都タワーだ!」
ビシッと指を指して言うてはるけど…なして今、京都タワーの話なん?思わぬ言葉に私達はポカーンとしてしまう。
やけど燐くんは胞子まみれになりながらも、明日私達に案内してくれて…地元やから詳しいやろって。皆も誘ったら来るんかなて…すごく楽しそぉに言うんや。
こないな状況で…彼は笑おとる。
「なので京都は無事じゃねーと、正直困る。皆が無事じゃねーと俺は困る」
真っ直ぐにこっちを見据えてくる瞳。
紡がれる言葉は真っ直ぐで、正直で、心にすっと染みていきよる。
あぁ、ほんまに君って子ぉは―――――
「な……んで…よりによって京都タワーやねん!!!」
「え?!」
「ほんまに面白い子ぉやねぇ燐くんは。私達、京都の人間は京都タワーなんて行かへんで?」
「せや!いっぺんも登ったことないわ!!ちぃーと恥ずかし思てるくらいや!」
「他に名所ぎょーさんあるのにねぇ」
「俺、寺とかあんましわかんねーし、むしろオシャレスポットかと…」
「ふっ…ふふっあはははは!」
「あっはっはっは!!」
「?!すっ勝呂サン、神楽サン…ど、どったの…?」
あーもう、おかしゅうて敵わんわ。
きっと燐くんかて怖いはずやのに。剣が抜けなくて焦ってるはずやのに。
「あー……もうええわ…どうでもええわ!」
「燐くんのカラ元気に乗っからせてもらいましょ、タツ」
「おん。……友達やしな」
ほら、届いたよ。私達に君の真っ直ぐな言葉が。せ
やから、私達も真っ直ぐな言葉を、君に届けたるから。ちゃぁんと―――受け取りや?
「奥村」
「燐くん」
「「お前を、信じる」」
そうして解かれたタツ自身を守る構え。
火柱が消え、不浄王が真っ直ぐにこっちへと向かってきよるけど…そんなんもう、怖くも何ともあらへん。
…大丈夫。根拠のない"大丈夫"ほど、不安なもんはないけれど…それでもほんまにそう思っとるんよ。
やって、信じとるから。燐くんを、タツを。せやから―――絶対に大丈夫や、って思うんや!
「…タツ。私はどんなことをしてもアンタを護るで」
「―――…おん。今回だけは、頼むわ」
襲いかかる不浄王の胞子。
銃火器のないこの状況、剣しかない己では…胞子を消し去ることは難しい。きっと…出来ん。
盾になるつもりはない、て燐くんには言うたけど…今、そんなんを気にしてる場合ちゃうねん。
死ぬつもりは毛頭ない。やって、燐くんを信じてはるから。不浄王を倒してくれるて、信じてはるから。
せやから、今は少し耐えるだけ。終わりを迎える瞬間を、私達はただ待つしか出来ん。
私は、タツの上から覆い被さって…護るように抱きしめた。
ギュッと抱き締める力を強めて、瘴気に耐えて、むき出しの肌がチリチリと焼ける痛みに耐えながら…そんな中で、私達は見た。
青い炎を纏った燐くんの姿を。
剣が、抜けたんや…!きっと燐くんの中にあった迷いが、吹っ切れたんやと思う。
自分の強大な力を恐れてると思う。それは簡単に割り切れんはずやから。それでもっ…燐くんは、剣を抜くことが出来た。
―――ドスッ
「オン!シュリマリ ママリ マリシュシュリ ソワカ!」
「っ…シュラ、せんせ」
「シュラ!!」
「勝呂はアタシと佐伯に任せろ!もうあの化け物は素の人間に倒せる代物じゃない…お前に頼るしかないんだ。アタシと約束したろ。獅郎がお前を生かしたことが正しかったと証明してみせるって…証明してみせろ!!」
「……ああ!」
「頼むで」
「お願い、します…燐くん!」
無言で頷いた燐くんの体が大きく跳躍する。
私達の何十倍、何百倍の大きさの不浄王に…たった一人で立ち向かう彼。
何も、してあげることが出来ん。
ただ此処で祈って、願って、彼の帰りを待つことしか出来ん。想いの強さなんて…力の足しにもなってくれんのに。そうすることしか―――!
ふと、支えていた体の重みが腕の中から消えた。
「タツ!」
「勝呂!!」
結界が…解けてしもた。
これじゃあ、大量の瘴気が外に漏れ出てまう!数え切れんほどの犠牲者が…っ
―――佐伯家に受け継がれる剣…火神の魂を宿した"天ノ鬼"。
だ、れや…誰の声なんや?
―――心の底から護りたいと、思えるものが出来た時…呼ぶがいい。
「"名を、呼べ"…?」
「おい、佐伯?」
ちっさい頃…一冊の本で見た印。呪い。一字一句、覚えとる。
使うことなんてないて、今の今まで思っとったけど。
それは眠る火神を呼び起こす呪いや。こん家に生まれ、当主となるもんにだけ受け継がれる剣と印と呪い。
危険しか伴わん、召喚術。せやけど、それで皆を助けることが…助けるんに役立つんなら。
いい加減に腹を括るしかないってこと。
「…先生。少しの間だけタツのこと、よろしゅうに」
「お前、何をする気だ?」
「燐くんの…手助けですえ」
烏枢沙摩を降魔剣に宿し、青い炎をその身に纏い。炎に飲まれそうになっとる燐くんの苦しそうな声が聞こえる。
抑えつけていた力が、欲求が―――皆を救おうとしとる燐くんの心を苛んでいるような気ィがする。
その手助けに、なるんやったら…!
―――ドスッ
手にしとった剣を岩場の隙間に突き刺す。
大きく深呼吸を1つして、羽織っていたポンチョとパーカーを脱いで。そして、前を見据える。
私の瞳の先におるんは、不浄王。
ほんで、それに立ち向かっとる燐くんの姿。覚悟は出来た。さあ…行くで!
―――ザシュッ
「オン!シュリマリ、」
家に受け継がれとる火神との契約は、術者の血が必要。
「ゲホッあか、ん…神楽、それは―――」
危険しかない、召喚やってことは重々承知しとる。
せやけどな、ここで何もせんかったら…私は後悔すると思うから。
少しでも―――――苦しんでる彼に、この声を届けたい。
「我が名は佐伯家当主、神楽!この名に、この血に宿りたまえ!火神・火之迦具土神!!!」
周りが、白い光に覆われた。
「ハッハァッハ…!!」
『我の眠りを覚ましたのはお前か…小童。ふむ…まだまだ小さいその体に、我を宿らすと言うのか』
「…せや。佐伯の血を継いどるんは、もう私しかおらん。何が何でも―――契約してもらうで」
『その対価が小童、お前の血液だとしてもか?』
ははっそんなんで私が引き下がるとでも思うとるんか?神様やからって…ナメんなや。
「そんなんいくらでもくれたるわ。そん代わり、私の願いも…聞いてもらうで」
『はっはっはっは!実に面白い小童だ…いいだろう、お前の願い聞いてやろうぞ』
どうやら契約は成功したみたいやな。
一度目を閉じ、再び開いて真っ直ぐ前を見る。
まだ…1人で戦って、苦しんで、それでも守ろうとしてくれている彼の姿。今、私が望むんは―――――
「燐くんを、助けて…!」
ふわり、と…火の粉が舞い上がる。まるでその様は、無数の蛍が飛んでいるかのようで。
―――届いて。
どうか、燐くんに私達の想いを届けて…!!
信じとるから、待っとるから。皆、みんな君の帰りを待っとるから!だからっ…
「自分に、負けんなや……燐!!」
君の力は、怖いもんやない。やってそれは…君自身が優しいことに使いたいて思っとる力やから。
せやから、なぁんも怖くなんかないんよ。大丈夫やからね。
―――しえみ…
遠くから、確かに燐くんの声が聞こえた気がした。
そして私の体は何や温かいもんに包まれたんや。優しくてただ、温かい光に。