感動の再会?


―――かぽーん…

異世界に飛ばされて、何だかよくわからないうちに大きなお風呂に入ることができました。代々、魔王陛下が入ることのできる浴場だって言ってたけど、そんな所に私が入ってしまってもよろしいのでしょうか。
服は着替えさせられてて濡れてはいなかったけど、思いの外、冷えてしまっていたらしい体を温める為に押し込まれたのはいいものの…そんな事実を聞いてしまったら、私は萎縮するよ。…一応。すぐにすっごーい広ーいって開き直るタイプではありますけどね。


「はー…気持ちいいなぁ」


結局、一通り話を聞いている間にコンラッドが来ることはなかった。ゆーちゃんの護衛だと聞いていたから、絶対に一緒にいるものだと思ってたんだけどなぁ…いや、今会っても心臓バクバクでまともに話せそうにないけれど。さっきも彼のことを思い出しただけで、心臓は割れんばかりの鼓動を刻んだんだ、きっと本人を前にしたら止まってしまう可能性大だよ。死にたくはないけれども。…でも、恋焦がれた人に会うってことはそういうことなんだと、知っているから。
口元ギリギリまで沈んでブクブクと空気を吐き出す。吐き出されたそれは気泡となり、水面を泡立てて、そして弾けていく。こっちに来る時に見た空気の泡のように。それを数十回繰り返した所で、頭の芯がぼうっとし始めたから倒れる前にお風呂場を後にした。

脱衣所に出てみれば、さっきも見たけれどやっぱりだだっ広い。お風呂場自体も広いし大きかったけど、脱衣所も負けてないよねぇ。魔王陛下が使う所だから豪華にできてるんだろうな。
…ゆーちゃんが一国の主、と言われるとまだまだ違和感があるんだけれども。というか、彼が魔王ならば私は何になるのだろう。魔族の血が流れていて、ゆーちゃんの双子の姉―――その立ち位置からすると、私、お妃様?あ、でもそれだとあの子と夫婦になっちゃうのか。ダメだ、近親相姦だわ。
そこがハッキリしないと私がこのお城にいる理由はないんじゃないか、って思うのだけれど…実際、どうなのかな?話してみた感じだと、誰一人私を追い出そうと思ってる人はいなさそうだったけど。


「…わぁお。」


ふわふわのバスタオルで水気を取って、さぁ服を着ようとカゴの中に入れてあったのを広げてみるとー…それはフリッフリの深い青のワンピースでした。真っ黒じゃなくてちょっとホッとしたけど、こんな女の子っぽい服なんて生まれてこの方、一度も着たことがありゃしませんぞわたしゃ。
素直に可愛いなぁ、とは思うよ?私だって腐っても女ですから!フリルとかリボンとか、そういうのも大好きだけど、いつだって身に着けるのは動きやすいものになっちゃうんだよね。スカートも時々はくけど、でもやっぱりパンツスタイルの方が多いかも。
ママが買ってくれた服は大半がタンスの肥やしになっているのは、言う間でもありません。…けど、着てみたいなぁって憧れは…あったんだ。いつだって。似合わないね、って笑われるのが嫌で、ちょっとだけ怖くて、それで着てこなかったというのが本当の理由。

下着だけを身に着けた状態でワンピースと睨めっこすること数十分。いい加減、体も冷えてきちゃったし…腹を括るか。たかが服を着るだけで何を、と思うでしょ?それくらいの覚悟が必要なんだよ私には!!
やっと服を着て、私は脱衣所を出たのだけれど―――そこにいたのは、思いも寄らない人。


「コン、ラッド…?」
「久しぶりです、アカリ」
「ひ、さしぶり……え?」
「ものすごい顔になってますよ。とりあえず、お腹が空いたでしょう。食堂に行きましょうか」


陛下もお待ちですよ、とエスコートしてくれるコンラッド。さり気なく繋がれた手は、記憶に残る温度と同じで…ああ本当にこの人は私の目の前にいるんだ、とようやく理解する。ひとまず敬語なのは置いておくことにしよう。あ、案の定、心臓がバクバクいって話せる状況じゃないので…!

連れられてやって来た食堂は、これまただだっ広い。なんなんだ、このお城はどこもかしこもだだっ広いのか。そういえば私が寝かせられていた部屋も、やけに広かったなぁ…あそこが自分の部屋だったら落ち着かなそうだわ。でもこっちにいる間はあんな感じの広さの部屋に、滞在することになるんだろう。
落ち着かないから狭い部屋に、もしくはゆーちゃんの部屋に!…なんて、わがままは言えないよね。だってきっと、ゆーちゃんはヴォルフラムさんと一緒に寝ているんだろうし。何てったって2人は婚約者。


「あ、朱里。風呂、でっかかったろ」
「うん、すっごかった。落ち着かないね、あの広さ」
「だよなー。庶民感覚だもんな、俺ら」
「陛下!そんなことを仰らないでください、陛下も姫も、立派な貴族なのですから」
「………姫?」
「はい」
「………誰が?」
「アカリ様が、です」


スミレ色の美人さん、ギュンターさんがさらりと爆弾発言。うっかりパンに伸びていた手が止まり、そのまま固まること数分。私は行儀が悪いと思いながらも、思いっきり叫ばせてもらった。


「なんなんだ、アカリ!お前、食事中だぞ」
「だ、だって急に姫って、ええええ?!わたしお妃様じゃないの?!」
「姫。それだと陛下と夫婦になっちゃうから」
「あ、そうだ。私はゆーちゃんのお姉さん…!」
「うん。朱里、ちょっと落ち着け。お前、物の見事にテンパってるから」


はい息吸ってー、吐いてー、はい、ヒッヒッフー。
言われるがままに呼吸してみたけれど、笑いを堪えたコンラッドにそれはラマーズ法です、と言われて我に返りました。ゆーちゃん共々。何だよ、ゆーちゃんだってテンパってるんじゃないか。
とりあえず2人共、先にご飯を食べてくださいと言われてにっこり微笑まれてしまったら、それに従うしかない。伸ばしかけていた手でパンを取り、一口大にちぎって口にいれる。外側はパリッと、中はふわもちっとした食感はクロワッサンに似てるかも。美味しい。


「それでですね、私共で調べた結果、アカリ様は正真正銘!眞魔国の姫様であることがわかりました」
「…姫、ですか…私」
「双子の弟であるユーリが魔王なんだ、アカリが姫の立ち位置にいるのは驚くことでも何でもないだろう」
「チキュウでお生まれになったのに、眞魔国の言語がわかるのが何よりの証拠!やはり姫様の魂は、こちらの国のものなのです!!」


鼻息荒く語ってくれるギュンターさんには悪いけれど、私は然程興味がなく、ふぅ〜んと他人事。…いや、それはちょっと語弊があるか。興味がない、と言うより…あれだ、実感が湧かないっていう方が正しいかも。だって存在を知っていたとはいえ、急に異世界に飛ばされて、それで魔族だーとか姫だーとか言われたら脳みそがついていかないのも当然のことじゃないかって思うの。

でもそっか、私、地球と眞魔国のハーフなのか。

ママは完全な人間だけど、パパは魔族。だけど、眞魔国のではなく地球魔族―――というらしい。見分けがつかないだけで、地球にも魔族はたくさんいるんだってさ。そしてゆーちゃんのように魔族を統べる王様も。当然その人はパパを知っているらしいし、パパもその人のことを知ってるみたい。
そう教えてくれたのは、地球に来たことがあるコンラッドだった。アレだね、世の中なにが起きるかわかんないってよく言うけど、本当だね。すごいや。

(パパがコンラッドのこと知ってたのって、それと関係があるのかな)

パンを半分ほど食べて、次はスープに口をつけた。コーンスープに似た味のそれはとても美味しい。多分、材料は全然違うんだろうけど、地球の食べ物と大体似ているような気がしてホッとしたなぁ。
魔族って言ってたから、よくわかんないゲテモノ料理とか、人肉とか出されたらどうしようってちょっと思ってたけど。…どうやらこの国の魔族は人間を食べる、という習慣はないようです。


「それでな、朱里。俺が地球に帰る時に一緒に帰れるはずだから、それまではこっちで過ごして」
「あ、うん。まぁ、他に行くとこもないし…」
「というか、姫の居場所はこの血盟城以外にはないですからね?」
「なにその血生臭いお城の名前……つーか、コンラッドまで姫って呼ぶのか」
「…まぁ、俺は臣下ですから」


さっきは名前で呼んでくれたくせに。言いたいことはたくさんあるけれど、ひとまずは飲み込んで、目の前に並べられた豪勢な料理を胃に詰め込んでしまおうか。
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