手料理と笑顔


家族以外の誰かに、それも男の人に手料理を食べてもらう日が来るとは思っていませんでした。
世の中って何が起こるかわからない、と言うけれど、本当にそうかもなぁ。


「…美味しい」
「本当ですか?良かった!」
「朱里は昔から料理するの好きだったし、上手なんだ。な?」


ゆーちゃんの言葉に頷けば、コンラッドさんが「ユーリはアカリさんが大好きなんですね」とクスクス笑ってる。私からしてみればいつものことだからよくわからないけれど、彼から見てみればゆーちゃんは私を溺愛しているように見えるんだって。その言葉に顔を真っ赤にしてるゆーちゃんはちょっと可愛かった。
それにしても…ゆーちゃんとコンラッドさんって仲が良いんだなぁ。家族で話している時よりも笑顔が多いし(や、私達と話す時も笑ってはいるけど)、とても楽しそうだ。何て言うのかな…あ、あれだ、兄弟みたいなんだ!しょーちゃんとゆーちゃんも兄弟だけど、どっちかと言えば喧嘩友達みたいな会話してるしコンラッドさんとの方が兄弟っぽく見えるかも。
あれでもしょーちゃんは弟大好き!な人なんだけどね、実は。きっとゆーちゃんに言っても信じないと思うから言わないけど。


「もしかしてコンラッドさんって弟、いる?」
「?ええ、いますけど…どうして?」
「何て言うか、面倒見のいいお兄ちゃんって感じがするから」
「あー、確かにコンラッドってそうかもな」
「…そう、ですか?」


きょとん、としたコンラッドさんは年上なのに何だか可愛らしく見えちゃって、思わず笑いが漏れる。それを見てもっと不思議そうな顔になったけどね。
…あ、そういえばすっかり忘れちゃってたけど、コンラッドさんってこれからどうするんだろう?眞魔国の人、ってことはコッチにお家はないだろうし、知り合いもいないってことよね?行く当てとかあるのかなぁ?
咀嚼していたオムライスを飲み込んで、2人にこれからのことを尋ねてみれば揃って「そういえば」という顔になっちゃいました。うん、ちょっと予想はしてたけど…なぁんにも考えてなかったんだね。ゆーちゃんは元から後先をあんまり考えない人だから仕方ないけど、コンラッドさんもそんな感じなのか。見た目からは想像つかないなぁ、見る限りはきちんとしてそうなのにね。


「すっかり忘れてた…まっさかコンラッドまで一緒に地球に来ちゃうなんて思ってもいなかったし…」
「ですね。いつ戻れるかわかりませんし、何処か…宿を探さないと」
「でもアンタ日本円とか持ってないだろ?ちょっと待ってろ」


早々に食べ終えたゆーちゃんはパタパタと2階へと姿を消してしまいましたとさ。コンラッドさんは何処へ行ったんだろう、と不思議顔だけど、私は彼と双子だからか何となく考えることがわかるのです。いつもじゃないし、全部わかるわけでもないけどね。本当になんとなーく察することができる、ってくらいだもん。
恐らく、携帯を取りに自分の部屋へ行って、パパに電話してるんじゃないのかなぁ。用件はきっとコンラッドさんを家に泊めていいか、って所でしょう。まぁ、これはさっきまでの話の流れから予想できることだけどね。


「あの、ユーリは…」
「多分、自分の部屋だと思います。電話をかけに行ったんだと思いますよ?」


お茶を淹れて手渡せば、またもや爽やかな笑顔でお礼を言われました。うーん、これは世の女の人が見たら一発で心を奪われちゃいそうだなぁ…すっごいモテそうだもんね。
ダークブラウンの髪、銀の虹彩を散らしたような綺麗な瞳、整った顔、爽やかな笑顔、無駄のない筋肉に引き締まった体、それから…態度がとても紳士的。お嬢様、お手をどうぞーとか素でできちゃいそう。執事とか王子様とか似合いそうだよね、やっぱり。うん、女の人にモテる要素満載だね!
お茶を飲みながらボケーッと不躾にも眺めていたら、こてんと小首を傾げられました。…何だろ、今のって男の人がやっても可愛いとは思えない仕草なんだと思うのだけれども…コンラッドさんがやると案外アリかもしれないと思ってしまうのは何故なんでしょう。教えておじいさん。
あ、ダメだ、今日の私は頭のネジが数本抜けてる気がする。色々と考えることがおかしいぞー!


「親父の許可取れたから、次のスタツアまで泊まってってよコンラッド」
「…いいの?」


コンラッドさんは私とゆーちゃんの顔を交互に見て、少しだけ不安そうな色を浮かべた。家族団らんの中に見知らぬ人が入ってもいいのか、って思ってるのかなぁ?別に私はそんなの気にしないし、ゆーちゃんの名付け親だし、きっとパパもこの人のこと知ってるのだろうし…しょーちゃんはどんな反応するかわかんないけど、でもそんなに心配するようなことじゃないと思うんだ。それに行く所がない人を放り出すような、そんな無責任な人間になりたくはないんです。
…それに、ゆーちゃんがこんなに嬉しそうな顔して懐いてるんだもの。きっと優しくて素敵な人なんだろうし。だから、そんなに不安そうな顔しないでください。


「大丈夫ですよ?私、順応性あるタイプみたいなので全然構わないです」
「でも、」
「あ、じゃあ眞魔国のことや、あっちでのゆーちゃんのこととか、色々聞かせてください!それがウチに泊まるお代ってことで」


にっこり笑ってそう言えば、一瞬きょとんとした表情を浮かべて、それから肩を震わせてくつくつと笑い始めちゃいました。笑顔に戻ってくれたのは嬉しいんですけれども、私、そんなにおかしなこと言いましたっけ?自分でもナイス!って思うくらいにいいこと言ったつもりでいるんだけどなぁ。何がそんなにコンラッドさんのツボを刺激したんでしょーか。
ゆーちゃんに助けを求めよう、と振り返れば、あらやだこっちも笑ってるじゃない!もう2人して同じように声を殺して笑わなくてもいいじゃないかー!笑うなら思いっきり笑いなさい!!もー!!
こっちは真剣に怒って言ったのに、その言葉がまたツボだったらしく2人はついに声を出して笑い始めやがりました。確かに声を殺して笑うな、とは言ったけれど…あれですね、本当にその通りにされると結構ショックを受けるものなんですね。勉強になります。


「ふ、くっ…すみませ、アカリさん…!何というか、貴方は本当にユーリとそっくりだ」
「ソレハドーモ」
「ははっ片言になってんぞ、朱里ー」
「だっ、…だって急に笑われるし、今のだって褒められてるのかわかんないし…!」
「ねぇ、それは俺に失礼だと思わない?朱里ちゃん」
「おもわなーい」


ふんっとそっぽを向けば、ゆーちゃんは必死に何かを言ってくる。それをひたすら無視していけば、またもやコンラッドさんが楽しそうに笑っていらっしゃいます。よく笑う人だなぁ、と思うのと同時に、今の笑顔はさっきまでの爽やか笑顔とは違って、…何て言うのかな?あれ…年相応…何か違う、えっと心から笑ってるんだろうなーっていう屈託ない笑み?って言えばいいのかな。
上手く言葉にできないけど、私は今みたいな笑顔の方が好きかも。あの爽やか笑顔もとっても素敵だと思うけどね。でもこっちのが断然素敵だと、私は勝手に思うのでありました。
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