夕暮れデート


幸せって、案外自分の近くに落ちてるものなんです。これ、私の体験談ね!





早いもので我が家にコンラッドさんが来て、4日が経ちました。今の所、まだお呼びがかからないらしくのーんびりとした毎日を過ごしている彼はそろそろ体が鈍りそうだ、と苦笑していた。毎日、ゆーちゃんとキャッチボールしてるのにと返せば、それとは別で訓練しておかないといざという時に役立たずになってしまうからと彼は笑う。いつも通りの笑顔で、…けど、どこか淋し気で。
その笑みを見て胸の奥がぎゅうっと締め付けられたような、気がした。


「あれ?コンラッド?」
「アカリ、…今帰り?いつもより早いんだね」
「うん。今日は急に練習がなくなっちゃったから」


学校の帰り道、珍しく1人で出歩いていたコンラッドとバッタリ遭遇。この時間ならいつもゆーちゃんと河原でキャッチボールをしているはずなのに、1人なんて珍しいなぁ。浮かんだ疑問をそのまま口に出せば、どうやらムラケンくんに誘われて出かけてしまっているらしいです。
今思い出したけど、ムラケンくんも眞魔国の人だって聞いてびっくりしちゃったんだよね。詳しいことは話していいかわからないから、ということで何も聞いてないけど、ゆーちゃんと同じくらい偉い地位の人なんだーって教えて頂きました。ゆーちゃんのざっくりすぎる説明にコンラッドは笑ってたけど、概ねそれで合ってますと肯定してたから間違った知識ではないようです。うん。

何か話が逸れちゃった。腕時計で何気なく時間を確認してみれば、まだ15時半。家に帰ってゆっくりしてもいいけど、天気もいいしそれはもったいない。それにコンラッドが1人で出歩いてるということは、即ち暇だということを意味していると思うのだよワトソンくん!
そんなわけで。今更ではありますが、コンラッドにこの街を案内してあげようと思います!





「はい、どーぞ」
「ありがとう。…これは?」
「たい焼きっていう、…お菓子?かな。中にはね餡子っていう甘いものが入ってるの」


百聞は一見に如かず!…というわけで、ちょっと使い方が違う気もするけどちゃっちゃか口に含んでみればいいと思うよー。手に持ったままのたい焼きをせいや!っとコンラッドの口に突っ込んでみた。いきなりのことにびっくりしてたみたいだけど、一拍置いてもぐもぐと咀嚼し始めたので私も自分のたい焼きにかぶりついた。
んー!やっぱり美味しいなぁ、此処のたい焼きは。


「ん、美味しい。甘い」
「へっへー!でしょー?此処のたい焼き私もゆーちゃんも大好きでさ、よく買いに来るんだよ」


買い食いは寄り道の醍醐味ですよねー。
実はね?こういうの、ちょっと憧れてたの。彼氏とか、友達と帰り道に他愛もない話をしながら買い食いすること。でも部活に入っちゃったからなかなか出来ないし、もっとぶっちゃけると同じ方向へ帰る友達が1人もいないときたもんで。だっだから決して友達がいないから1人で帰ってるわけじゃないですよ?帰りたくても皆方向が逆だから無理なのそういう理由なの友達はそれなりにたくさんいるもん!
私の事情は置いといて、だから…友達でも彼氏でもないけど、コンラッドとこうやって買い食いしながら街を見て歩いてるのすっごい楽しいんだよね。家で何をしてたのか、とか、授業でこんなことがあった、とか、こんなことが友達の間で流行ってるんだよ、とかとか。どうでもいい内容かもしれないけど、そういうのを話せるのって楽しいし嬉しいんだ。

夜中のお喋りをしたあの日を境に、私はコンラッドとよく話すようになった。お互いにフランクな話し方になり、呼び捨てで呼ぶようになったからか、…何と言えばいいのか、こう、壁?みたいなのがなくなったような感じなの。すんない踏み込んでいける、というか。
ただ話し方が、呼び方が変わっただけなのに…ずいぶんと打ち解けたよねぇ。


「あ、コンラッド。ちょっと本屋さん寄ってもいい?」
「いいよ」


確か今日は好きなシリーズの最新刊の発売日だったはずだ。新刊コーナーに平積みされている目当ての本を持ってレジに並んでいたら、コンラッドの姿を見失ってしまった。とはいえ、店内はそこまで広いわけじゃないし、彼は良い意味でも悪い意味でもすごく目立つからすぐに見つかるだろう。…だって、日本にはあんなにスマートでカッコいい人いないもんね。
手早く会計を済ませて、お店の奥の方へ足を向ければ目当ての人物はすぐに見つかりました。わぁ、思ってた通りめっちゃ目立ってるよあの人ー。ただ本を眺めてるだけなのに絵になる、ってどういうことなんだろうね。立ち方までカッコいいって、それはもう反則だと思いまーす。
ほら、店内にいた綺麗なお姉様方がひそひそとお話を始めてしまったじゃないか。内容はきっとあの外人さんカッコいいー!とか、そんな感じでしょう…その中を通過して彼に声をかけなきゃいけないのはとても怖い。向けられる視線はきっと痛いだろう。そして胸やけしてるみたいにムカムカモヤモヤするのは何でですか。
でもこのまま彼を置いて帰るわけにもいかないので、意を決してコンラッドに突進。八つ当たりに近い悪戯は無事に成功しました。


「びっくりした、…買い物は終わったの?」
「バッチリ。待たせてごめんね、コンラッド」
「大丈夫だよ、色々見れて面白かったから」


行こうか、とさり気なく出された手を思わず握り返してしまい、遠巻きに彼を見ていたお姉様方はとても残念そうな表情を浮かべて散り散りに。ああ、私を彼女だと思い込んだのか。そんなんじゃないけどねー実際は。
…あれ?でも何だか胸の奥がスーッとした感じがする。すごい、優越感?を感じます。何でだろ。ま、いいや。よくわかんないけど、スッキリしたから結果オーライだよね!
本屋を出た後はまったりカフェで休憩中です。


「あんまりお店行けなかったけど、どうだった?」
「楽しかったよ、案内してくれてありがとうアカリ」
「いーえ!楽しんでくれたのなら良かったよ」
「…また、一緒に出掛けてくれる?」
「もっちろん!でもコンラッドは私とでいいの?ゆーちゃんとの方が話とか合うんじゃ、」
「俺はアカリとがいいな」


そのにっこり笑顔は人間を即死させる威力があると思うよコンラッド。私も今、危うく死にかけたよ。
必死に立て直して、週末に大きなショッピングモールに行く約束をしました。あそこなら色んなお店があるし、映画館もあるからきっと1日楽しむことが出来るはず!
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