不意打ち反対


「うあー…緊張する…」


朝にさほど強くない私が。放っておかれれば昼過ぎまで寝ている私が!今日は何と7時に目を覚ましました。どーだ、褒めやがれこんちくしょー。昨日、寝る前に風呂入ったにも関わらず、早くに目が覚めちまったし…ということで、またもやシャワー浴びました。…なんだ、私のこの行動。んなに風呂入ってどうすんだよ、って感じだよな。うん。
そして朝ご飯は食べる気にならず、着替えには1時間近くかかり、最終的には前に蘭が選んでくれた花柄のワンピースを着ることにした。あれだな、初デートに行く女の子ってきっとこんな感じなんだろうなぁ。
付き合ってるわけじゃないし、新一は私のことが好きなわけじゃないだろうけど…アイツがデート、とか言いやがるから妙に緊張してる。そう言われなかったとしても、私は新一に惚れてるからどっちにしろ緊張はするんだけど。
そろそろ時間だな、と下に降りれば、何故か新一を含めた少年探偵団が勢揃いしていた。こんな朝早くにどうしたんだ?博士と何処か行くのかね?


「あっ咲羅さんおはようございます!」
「おはよう、咲羅お姉さん!博士ー、お姉さん降りてきたしそろそろ出発しよー!!」
「遊園地とか久々だ!楽しみだよな〜」


降りた途端に歩美に手を取られて、グイグイと引っ張られる。え、ちょ、何事?!てか、私今日は用事があるから、君達に付き合えないんだけど!
わけがわからず呆然としていると、志保がそっと近寄ってきてこっそりと皆で遊園地に行くことになった、と教えてくれた。…ん?皆で?


「どうやら江戸川くんがうっかり口を滑らせちゃったみたいでね…それを聞いた吉田さん達が皆で行こう、って言い出したようよ」
「…で、博士と私が保護者役?」
「まぁ、そんな所じゃないかしら」


クスクス笑いながら志保が視線を向けた先には、むっすーっとした顔で壁に寄りかかってる新一の姿があった。あーあ…何かよくわかんねぇけど、思いっきり拗ねてやがんなぁ。新一の奴。
そんなに皆で行くの嫌なのか?私と2人きりより、皆でわいわいとしてた方が絶対に楽しいと思うんだけどね?私は。でもまぁ、出かける前からあんな不貞腐れた顔してんのは良くないよなぁ。少し話を―――と思ったんだけど、あっという間に出発だー!って元気に言う歩美ちゃん達に引っ張られて、車に乗り込む羽目になりました。しかも私は助手席に乗ってたから新一と全く会話しないまま、トロピカルランドへと到着しましたー。


「おー…来るのひっさびさだなぁ、懐かしい〜」
「咲羅お姉さん!最初はジェットコースター乗ろうよ!!」
「っわ!おい、歩美ちゃん、んな焦んなくても時間はたっぷりあるからちょっと落ち着け!!」


子供ならば遊園地に来てテンションが上がらないはずがない。歩美ちゃん、元太くん、光彦くんも例外ではなかったらしく、朝からテンション最高潮ではしゃぐ、はしゃぐ!まー、その姿は楽しそうで何よりだけどなー。そんな感じで朝からずーっと走り回って、色々乗りまくったせいか…私と博士は昼になる頃にはもうぐったりだった。

あれだな、小学生の体力甘く見てた…!

私だって体力には自信ある方だったけど、やっぱり子供には敵わないなぁ。探偵の仕事で走り回ることも少なくないけど、もう少し運動なり何なりで体を動かす機会作った方がいい気がしてきたわ。このくらいでへばるような体力じゃ、この先困ることもありそうだし。…何に困るのかはわかんねーけど。


「咲羅くん、あの子達を連れて氷と霧のラビリンスに行ってくるがどうする?」
「あー…申し訳ないけど、私は少し休んでる。博士は大丈夫?」
「まぁ、あの子達だけで行動させるのは危ないしのう…それにアトラクションに乗ってる間は外で休ませてもらうわい」
「そっか。…哀もいるし、大丈夫か。終わったら連絡ちょーだい、そっち行く」
「おお、わかった。しかし、咲羅くんこそ1人で大丈夫か?」
「…俺が咲羅姉ちゃんと一緒に此処にいっから大丈夫」
「へっ?!」


驚く私を他所に、博士は新一が一緒なら大丈夫じゃな〜と朗らかに笑い、少し離れていた皆の元へと行ってしまった。
…つまり。今、此処にいるのは私と新一のみ。いや、正しくは他にも遊びに来てる人たちがたくさんいるけど、それはもう立派な他人でしかない。私達の知り合いなんかじゃないしな。2人きりではないけど、でも、2人きりなのは間違いじゃない。…一体、私は何が言いたいのかわからなくなってきた。
あーもー!こうやってうだうだ、ぐちぐち考え込むのは苦手な質なんだ!てか、考える前にまず行動ってタイプだからな私。探偵の仕事を始めてからはある程度考えるようにもなってきてるけど…仕事上、考えないと絶対に失敗するから。けど、自分のことで悩んだり、考えたりするのはすっげー苦手。
遊びに来てるだけだし、素直に笑って、いつも通り話してればいいんだろうけど…志保にも素直に楽しめ、ってアドバイスもらったしね。…さっきまでは確かに楽しんでた、と、思う…疲れてはいるけど。けどよ?今の状態見てみろよ。新一と2人だぜ?!朝の緊張が戻ってくるっつーの!!


―――ピトッ

「っ、?!つっめた…!」
「なーに小難しい顔してんだよ。せっかくの遊園地だぜ?もっと笑ってろ。…ん」
「だからって急に缶ジュース、頬にくっつける…?」
「気づかねぇオメーが悪い」


ニヤリ、と笑った新一にムッとしたけど、まぁ、飲み物もらえたのは有難いし…素直にお礼は言っておこう。


「…悪かったな、急にあいつらも行くことになっちまって」
「んー?いや、…疲れはしたけど楽しい。遊園地自体、久しぶりだったし」
「―――本当は、オメーと2人で来るつもりだったんだけどなぁ…」


ボソリ、と呟いた声音は本当に残念そうだった。表情にもそれが滲み出ていて、この前の"デートの誘い"っていうのは本気だったんだな、とわかる。…けど、それっておかしいだろ?新一はずっと蘭が好きだったはずで、それは今も変わってないはずなんだ。ケータイの待ち受けにしてんの、蘭の写メだったし。それなのに、…何で私と2人で遊園地に行きたいとか…言い出したんだよ。
自然と新一も口を閉じちまったから、ボーッと誘われた理由を考えてみる。苦手分野だけど、気になるもんは仕方ないよなー。しばらく考えて、ようやく1つの答えが出た。それは、


「…予行、練習…?」
「は?何が」
「新一が私と2人で行きたい、って言ったのって…蘭と行く為の予行練習か?」
「…………は?!」


そうだ、そうだよ。それなら2人きりじゃなくなった今のこの状況を残念、と思うのは至極仕方ないことだよな!私は新一と幼なじみで、それなりに仲も良かった。それにコイツが蘭を好きだっていうのも知ってるから、相談しやすいって思ったんだろ。いずれ来る、元の体に戻る日の為に。
あくまで推測だけど、結構いい線いってると思うんだよなーって言ってみれば、えっらい低い声で「バカか」と言われた。…え、バカ?!


「オメーは本当にバカでアホだな!んでもって鈍感にも程があんだろーがよ!!」
「はぁ?!いきなり何怒ってんだよ新一!」
「怒りたくもなんだろ!オメーが変なことばっかり言いやがるからっ…!」
「変なことじゃねぇだろ、別に!つーか、利用されたからって怒りやしねぇし素直に言えばいいだろうが」
「…咲羅、オメーって本当…」


腕を引っ張られたかと思ったら、唇にやけに柔らかい感触。その正体が何かわからないほどにバカでもないし、アホでもない。触れたのは、新一の唇だ。一瞬だけだったけど、それでも私の心をかき乱すには十分で。


「しっ、しんいち…?!」
「いい加減、気が付けバーロー!俺が好きなのは蘭じゃねぇ…」


ずっとお前だけだった…好きだ、咲羅。


新一のやけに真面目な声と、缶が地面に落ちる高い音だけが、妙に耳に残っていた。

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