密会のち相談
どうして私の目の前に、この男が立っているのだろうか。
わかる奴は今すぐ、30字以内で述べてみやがれ。はいスタート!
「おやおや、咲羅嬢。ずいぶんと怖い顔をしてらっしゃいますね?」
「誰のせいだと思ってんだ原因がいけしゃあしゃあと言うな馬鹿野郎」
ぶっすーとした表情を崩すことなく、更にはノンブレスで一気に言ってやれば。目の前に立つ真っ白な男は悪びれる様子もなく、至極楽しそうにクスクス笑ってやがります。なんつーか、…ほんと、人の神経逆撫でするのが上手い奴だよなコイツ。マジで一発殴ってやりてぇ。
そう。私の目の前に立っている真っ白な男っつーのは、ご存じの通り怪盗キッドだったりする。何故コイツが此処にいるのか?それは私がいっちばん知りてぇよ!冒頭でもわかる奴は30字以内で述べてみろ、っつったろうが。
…つーかよ、不機嫌丸出しの人間の前でよくにっこにっこ笑ってられるよなー。何がそんなに楽しいんだっつーの。
はあ、…マジで何でこうなっちまったのかなぁ。私はただ、頭と気持ちの整理をしたくてこの屋上に上がってきただけなのに。
それなのにまさか!人に会っちまうだけならまぁ仕方ないとしてもだ、なんっでその相手がよりによって怪盗キッドなんだって話。コイツじゃなければまだ良かったのにさ。…ま、ぐだぐだ嘆いたって現実は一切変わりゃしないんだけど。
「…いつまでも此処で油売ってていーのかよ。捕まえるぞ?」
「ふふ、貴方に捕まるのならば…それも良いかもしれませんね」
「ほう、言ったな?なら、望み通り捕まえてやるよ怪盗さんよぉ!」
一気に探偵魂に火が付いた私は、目の前に立つ怪盗キッドに向かって手を伸ばしたんが、…それは空を切るだけ。肝心の怪盗はふわりと音もなく私の後ろへと降り立っていた。
相変わらず運動神経がいいっつーか、何つーか…こう、掴みきれねぇ感じがするんだよな。これも怪盗故、なのか?ま、どうでもいい事項だけどな。
「いずれは貴方の手で捕まえて頂けたら、とは思いますが、今はごめんです」
「おい、さっきと話が違うじゃないかよ」
「まぁ、そう怒らないでください。綺麗なお顔が台無しですよ?レディ」
「はあ…あいっかわらずキザな奴だこと」
さっきまでの探偵魂はどこへやら。あっという間に鎮火してしまったらしく、私はやる気をなくして柵へと背中を預け座り込んだ。…あ、星きれーだなぁ。
空を見上げれば、満天の星。
此処だってネオンの光が瞬いていてほとんど星なんて見えない場所だけど、今日は特別らしい。すっげー見える。
キラキラ輝く星達が荒んだ心を癒してくれるような気がした。あくまで気がした、だけだけどな。でもあれだな、星や空を見上げると気分が落ち着くのは本当。癒しの効果があんのかは疑問だけど、こういうの、意外と好きだったりするんだ。
そのままボーッと空を見上げていると、星しか見えていなかった視界にぬっと怪盗キッドの顔が映りこんだ。当然ながらびっくりして固まった。大声出さなかっただけ褒めてもらいたいと切に思うよ。
「なっ…何だよ急に!!」
「いえ、急に黙り込んで空を見上げ始めたので…少しびっくりさせようかと思いまして。可愛らしいお顔を見ることが出来ました」
「ほんっとお前って悪趣味…!」
悪趣味とは失礼な。
そう言ってクスクス笑っているそいつは、心から楽しんでいるように見えた。人で遊んで楽しむのはやめてもらえんかね。私は玩具じゃないんだっつの!つーか、コイツは本当にいつまで此処にいるつもりなんだろうか。頭と気持ちの整理をするどころじゃないし、もう帰って仕事するかなー。
咥えてた煙草を消して立ち上がれば、「お帰りですか?」と一言。だぁから、誰のせいで帰ると思ってんだよキザ野郎。…言ってもクスクス笑うだけだろうから言わないけど。
「―――…咲羅嬢」
「…なに」
「大丈夫です。少しくらい、素直に欲しいものを欲しいと言ったって…罰は当たりませんよ?」
何言って、と口を開こうとすれば、何も言わなくていいと言わんばかりに私の口元にピッと添えられたアイツの人差指。そして人の良さそうな、胡散臭い笑みを浮かべる。
「キッド、…?」
「人間とは元より欲張りなもの。…けれど、貴方は少し無欲すぎやしませんか?」
むよく、キッドが言った言葉を頭の中で、口の中で、音にすることをせずに反芻する。
自分のことを無欲だと思ったことはこれっぽっちもないけれど、思い返してみれば確かにあまり物などを強請らない子供だったようにも思う。欲しいものがなかったから、と言えばそうなんだが…それを無欲だと言うのなら、そうなのかもしれない。
だからと言って、別段困ったこともないから変える必要性も感じないけどな。
「好きなものは好き。嫌いなものは嫌い。欲しいものは欲しい。…時には自分の心に素直になることだって、生きる上では大切で、必要なものだと思いませんか?」
ああ、そうか。コイツは自分に素直なのか、だから―――
「盗む、のか」
「それが全てではありませんけどね、私の場合。…けれど、」
おもむろに取られた手。何をするつもりなのかわからず、そのままキッドの動向を眺めていれば、手の甲に柔らかい唇が触れた。そう、初めて会ったあの夜の時のように。
思わぬ出来事に叫ぶことも、殴ることも出来ずに、ただ硬直してしまった私の体。けど、次第に沸々と熱と怒りがこみ上げてくる。その衝動に任せて拳を握り振り下ろせば、怪盗はいとも簡単にひょいっと避けて柵へと降り立った。
ああ本当にもうコイツは…!一体、何がしたいんだよ!私にキスなんかして!!
「貴方の心はすでにあの名探偵のもののようだ…それは実に残念。ですが、こうしてかき乱せば…」
―――私のことも、少しは意識してくれるでしょう?
「なっ、…?!」
「名探偵のものとなった咲羅嬢を盗む、というのも楽しそうだ。…ではまた、月下の光の下でお会い致しましょう?愛しい人」
言いたいことだけ言って、キザな怪盗はバサリと翼を広げて闇が支配する街へと消えていった。
本当にアイツは何をしに此処に来たんだよ…!やっぱり1発殴りてぇ。
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