残像に焦がれる
あの日から、あの言葉を聞いてから、私の中で沖矢さんは秀さんなんじゃないか、って疑念が生まれた。だけど…もし、もし本当に沖矢さんが秀さんだとしても―――だ、いくつかの疑問が残ってしまう。
まず、彼はすでに亡くなっていること、次にその遺体は確かに赤井秀一だと確認されていること、最後に…何故他人に成りすます必要があるのかってこと。
そもそも、遺体が彼のものだと確認され立証されている以上、秀さんが生きているとは考えにくいことなんだけど…何かトリックがあったってことか?そして彼が死んだ、と知らしめる必要があったということになるんだけど、何でそんなことをしなければいけなかったんだろう?というか、誰にそう思い込ませる必要が?
きっとその答えはあの人達の仕事内容に関係しているんだろうけど、さっすがに何を追ってこの日本にFBIである彼らが来ていたのかまでは推測できないからなぁ。そして話してくれるわけもなし、と。ま、捜査内容なんて企業秘密だかんなー、優秀であろうあの3人が他人にすんなり話してくれるわけもない。
「―――彼が死んだ事件…詳しく調べてみるか」
誰が死んだ、とかそういうのはニュースや新聞には載っていなかったけれど、場所や状況とかはそれなりに事細かに載っていたはずだから、まだ調べようがある。それを調べたらもしかしたら何かがわかるかもしれない、そう思ったんだ。
それからの数日、私は図書館に通い詰め、当時の新聞を洗いざらい調べた。来葉峠で1台の車が炎上、車種はシボレー、その中から黒焦げになった男性と思われる遺体が発見される―――死因は恐らく、拳銃。眉間に銃弾の痕があったらしいからね。
…けれど、新聞からわかったのはそこまで。やっぱりその男が誰だ、という所までは書かれていなかった。つまり、わかっていたとしてもそこまでは記者団にリークされなかった、ということになるんだよな。多分。
だってジョディさんは確かに言ったんだ、彼が死んだって。だからきっと、警視庁かFBIが車の中から発見された焼死体が秀さんだってことを確認したことに間違いはないはず。
―――ギシッ…
「ふう…自力で調べられるのはここまで、かなぁ」
ジョディさんは焼け残った右手の指紋を照合してもらった、って言ってたんだっけ?顔すらわからない程に焼け焦げていたはずの遺体なのに、何で右手だけ…?思い出せ、あの時彼女は事細かに状況を教えてくれていたはずだ―――何で、右手だけ焼け残っていたんだ?
『耐火加工されたズボンをはいていたみたいでね?ほら、彼は手をポケットに突っ込んでいることが多かったでしょう?』
そうだ!右手をポケットに突っ込んだまま焼かれたから、だから…だから指紋を照合することができたんだ。普通なら何の疑問も抱かないようなことだと思うけど、わざと指紋を採取できるようにしたとしていたら?そう考えるとやっぱり、あの遺体は赤井秀一だとハッキリさせる必要性があったってことになる。
彼は死んだんだ、と誰かに教える為―――という確率が一番高いよな。
この推理がイイ線をいっているのかはわからない。イイ線をいっていたとしても、どうしても1つだけ疑問が残ってしまう。秀さんを死んだことにしなくてはいけない理由、だ。その理由がわかれば何となく事件の全容も、沖矢さんの正体もハッキリするような気がするんだよなぁ。
今のままでは私の考えはただの推測に過ぎないし、秀さんが生きている証拠にも、沖矢さんが秀さんだという証拠にもならん。正に八方塞がりってやつだな。
デスクの上に広げていたノートやら紙やらを見つめて、溜息を1つ。何と言うか、…我に返ったような気分。どうして私はこんなにも必死になってるんだろう。
最初は多分、志保に調べてくれって頼まれたからだと思う。でも調べても調べてもおかしな点は見つからないし、何度か言葉を交わしたが、それでもやっぱり変な感じは一切感じなかったんだ。だから、志保には恐らく問題はないだろう、と報告をして。まぁ、彼女は頷きながらもまだ疑ってる―――というか、黒の組織の影に怯えているような感じだったけどな。
「―――初恋の人、だからなのかなぁ…」
カタリ、と写真立てが音を立てる。飾られているのは父さんと母さんと私、そして―――若かりし頃の秀さんと4人で撮った写真。
私の中でのあの人はこの時の姿のまま、止まっている。帰国した後、彼と会うことは一切なかったし…そもそも秀さんが日本に来ていたことだって、ジョディさんからの電話で知ったくらいだ。それも訃報。
もう一度、会いたかったってそう思っちゃったから…だから、ほんの数パーセントの可能性が残っているのならばそれを解き明かしたい、って思っているのかもしれない。沖矢さんが変装をした秀さんだったら、と。
馬鹿馬鹿しい発想かもしれない、きっと誰もが有り得ないと口を揃えて言うかもしれないけれど…それでも。
「はあ…ダメだ、冷たいものでも飲んでこよう」
部屋を出てリビングに行くと、新一と博士が何やらコソコソとやっていた。ソファでお茶を飲んでいる志保に2人が何をしているのか聞いてみたものの、彼女も何も知らないらしかった。…新一の様子、少し前からおかしいんだよね。何か妙に焦ってるというか何と言うか―――まぁた事件に首を突っ込んでるのかなぁ?
だって私がリビングに来たことすら気がつかないまま、博士とずっと内緒話してるしね。悪戯を考えているというより、何かを罠にハメようと動いているような…そんな感じだ。
「(なーにを企んでやがるんだかなぁ…高校生探偵くんは)」
この時の私は夢にも思っていなかった。
まさかもう一度、彼に会うことができるなんて―――。
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